第27話
島原 ある遊郭の一室-
美輝は、はっとしたようにうつむいた。
美輝「…すんまへん。うち、変なこと聞いてしもて…」
礼庵「いえ…。いいんです。…別に理由はないんですが…男同士の方が長く付き合えるのではないかと思って…。もし、総司殿が私を女だと知ったら、今のような付き合いはできないと思うんです。」
美輝は黙って、礼庵に酒を注いだ。銚子はもう五本目だった。礼庵は、注いでもらった酒を飲み干した。
美輝「沖田はんのこと…どう思ってはるんどす?」
礼庵「え?」
礼庵が動きを止めた。
美輝「…一応、男と女やないですか。沖田はんのこと好きなんとちゃいますか?」
礼庵は黙り込んだ。
美輝「うち、知ってるんどす。沖田はんに好きな人がいはること。そして先生も、その好きな人を助けたりしていることも…知ってるんどす。」
礼庵「……」
美輝「先生が不憫どす…。はっきりと、沖田はんに言いはったらええのに!自分が女やということ、そして先生のお気持ちかて、はっきりと!」
美輝は礼庵に近寄って、礼庵の胸にしがみつくように言った。
礼庵が微笑んだ。美輝は礼庵のその微笑みに、少し驚いた。
美輝「…なんどす?」
礼庵「私も男だったら、あなたに惚れたかもしれない。…そう思ったんです。」
美輝「…いややわ。先生ったら…」
美輝は、赤くなって礼庵に背を向けた。
礼庵は少し考えるように、空いた猪口を見つめたまま言った。
礼庵「…自分でも総司殿のことをどう思っているのか、わかっていないんです。好きなのかも知れないし、本当に友人としか思っていないかもしれない…。ただ、私は総司殿との今の関係が一番楽というか、好きなんです。この関係を壊したくないんです。」
美輝「先生…ええ人どすな。」
美輝は背を向けたまま言った。
美輝「うちには…真似できまへん。うちやったら、とっくの昔に告白してしまうと思います。」
礼庵「私が変わっているのかもしれませんね。」
礼庵が笑った。
礼庵「…酒を注いでもらえませんか?美輝殿」
美輝ははっとして、礼庵に振りかえった。
美輝「すんまへん!うち…つい…」
礼庵に酒を注ぎながら、何かをごまかすように美輝が言った。
美輝「…先生、強おすなぁ。」
礼庵「あなたが相手だからでしょう。男の方の気持ちがわかるな。やはり美しい人に注いでもらったほうが、酒がうまい。」
美輝が顔を赤くした。
美輝「いやぁ、先生お上手やわ!」
礼庵が笑った。
美輝「…ほんまに、先生が男やったらよかったのに…」
美輝がつぶやくように言った。




