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第24話

京の町中-


礼庵は息を弾ませながら、総司の傍で立ち止まった。


総司「どうしました。そんなに急いで?」

礼庵「いや…来てくださったと、ばばから聞いて…。往診もありますので、そこまで一緒にと。」

総司「そうですか。わざわざ申し訳ない。」

礼庵「それはこちらの台詞です。…どうして来られたのです?今日は巡察の日ではなかったですか?」


礼庵が、先をうながしながら言った。総司は礼庵と肩を並べ歩いた。


総司「ええ、夕方からです。ちょっと散歩がてらに立ち寄ったのですが…。」


心配だった…という言葉は言えなかった。


礼庵「巡察でこれから歩くと言うのに、その前に散歩ですか。」


礼庵が笑いながら言った。総司は「ええ、まぁ」と苦笑した。


礼庵「おや…?」


礼庵が総司の手にある独楽を見つけた。総司はそれに気づき、少しぎくりとした。


礼庵「ああ、これが清太の独楽ですね。」


礼庵が明るい表情のまま言った。


総司「え、ええ…」


礼庵は「ちょっと見せてください」と言って、総司から独楽を受け取り、目の前にかざした。


礼庵「…さすが、利吉さんだ。とても器用な人だったんですよ。」

総司「そう…ですか…。」


総司はなんと言っていいのかわからない。

礼庵は「ありがとう」と言って、独楽を返した。


礼庵「…昨日は失礼しました。」

総司「え?…い、いや…」

礼庵「今思えばですが…やはり手術しなくてよかったかもしれない…って思えてきたんですよ。」

総司「…え?」

礼庵「…あの体の中にできるこぶというものは、どんどん転移していくので、全部取ろうとすれば体中を切り刻まなければならなくなるようです。…浅はかな知識でできる手術ではありませんでした。…今になって、自信過剰になっていた自分が恥ずかしい…」

総司「……」


総司は黙っていた。自分にもそういうところがあるのではないかと、ふと思った。


礼庵「実は昨日「医者も人間だ…」という総司殿の言葉で、目が覚めたんです。「そうか…私は人間なんだな。」って。」

総司「?」


総司は不思議そうに礼庵を見た。


礼庵「全知全能をめざそうとして、必死に背伸びをしていた自分に気づくことができました。…感謝します。」


総司は、そう言って頭を下げる礼庵にあわてた。


総司「よしてください!私はそんなつもりでは…」


礼庵は顔をあげて微笑んだ。総司はその礼庵の微笑を見て、やっとほっとしたように思えた。


礼庵「では、私はここで…。」

総司「ええ…無理をしないでください。」

礼庵「総司殿も。」


礼庵は手を上げて、走り去っていった。

総司は何か感慨深げに、礼庵の後姿をいつまでも見送っていた。

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