表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/100

第22話

礼庵の診療所-


壬生寺で子供達と遊んだ後、総司は礼庵の診療所を訪れていた。

そして、独楽を回せなかった子供のことを話した。


総司「昨日初めて会った子供だったのですが…その子の持っていた独楽、手彫りだったんです。…うまくできていたなぁ…」


話を終えた後、総司はそう呟いていた。

すると、礼庵が沈鬱な表情で言った。


礼庵「その子…たぶん、清太ですね。」

総司「…せいた?…ああ、そう言えば、そう呼ばれていたような…。」

礼庵「実は、その子の父親は、私の患者だったんですよ。」

総司「え?」


総司は息を呑んだ。そう言えば、清太はその独楽が「父親のものだ」と言っていたような気がした。


礼庵「ひと月前に亡くなりました。…腹の中にこぶのようなものができて、それが大きくなってくると、体中に同じようなものができてきて…」

総司「!!!」

礼庵「清太はその父親の看病で、ほとんど遊べなかったのです。」

総司「…そうでしたか…」


では、あの独楽は父親の形見だったのか…と総司は胸が痛くなった。

きっと作ったのは父親なのだろう。うまくその独楽を回せなくてかんしゃくをおこしたのは、父親の病が治らなかったくやしさもあったのかもしれない。そしてその独楽が自分の手の上で回った時、父親が元気になったような…そんな気がしたのかもしれない。

総司は清太が「生きてるみたいや…」と呟いた顔を思い出していた。


礼庵「…医者として、一番辛い体験でしたよ。…腹の中にこぶのようなものができた時、手術を申し出たのですが…許されなかったのです。」

総司「…手術…って???生きた人間の体を切り、またつなぐ…という…?」


総司は少し驚いたように尋ねた。正直、信じられないのである。


礼庵「そうです。あずまさんに協力してもらい「くろろほるむ」という薬で眠らせて、その間にそのこぶを取り去ってしまえば、治るかもしれないと思ったのですが…。清太の母親が許してくれませんでした。私がこれまで手術などしたことがなかったので、信用してもらえなかったのです。…「夫を実験台にするつもりか」と言って…。」


総司にもその気持ちはわかった。しかし医者としては、なんとか患者の命を助けたい一心だったのだろう。


礼庵「結局、痛みを和らげる薬を与えることしかできませんでしたが…その薬も効かなかったようです。…死ぬ寸前まで苦しんでおられました。…清太の母親は、もう私に会うことすら避けています。…ご主人が死んだのは、私のせいだと思っておられるのでしょうね。」

総司「!!…しかし、それは…。医者だって人間なのですから…」


総司が思わず言いかけたのを、礼庵は手を上げて止めた。


礼庵「申し訳ない…つまらぬ話をしてしまいました。…忘れてください。」

総司「…いや…私の方こそ…申し訳なかった」


もともと清太の話をしたのは総司だったのである。礼庵は首を振った…。が、表情は総司が帰るその時までも暗いままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ