第21話
壬生寺-
子供達が、独楽を回して遊んでいる。その中で、総司がしゃがんでにこにこと回る独楽を見ていた。
一人、うまく回せない子供がいる。
それが恥ずかしいのか、集団から少し離れて必死に紐を振っている。
また失敗した。
総司はちらちらとそちらを気にしながらいたが、その子供が、とうとうかんしゃくをおこして、独楽を木に叩きつけたのを見て、ゆっくりと立ち上がった。
総司「…うまくいかないようだね。」
泣きべそをかいている子供の頭を撫でて、総司は言った。
子供「…この独楽が悪いんや!…お父ちゃんのやつやから…古いから回らへんのや!!」
子供はそう言って、ぷいっとよそを向いた。
総司「それはどうかなぁ…。」
総司はそう言いながら、拾い上げた独楽に紐を巻き一端を握ると、勢いよく独楽を上へ投げ上げた。
泣きべそを掻いていた子供はびっくりして、それを見上げる。
すっと落ちてくる独楽を、総司は開いた手で受け止めた。
独楽は、総司の手の上で勢いよくまわっている。
子供「……」
子供は目を見開いて、総司の手の上の独楽を見ている。
総司「…お父さんの独楽、すごいね。…古いけど、こんなに元気に回ってるよ。」
子供はいじけるかと思っていたが、目を見開いたまま総司の言葉に「うん」とうなずいて見せた。
総司はそっと、まだ回っている独楽を子供に差し出した。
総司「この勢いだったら大丈夫だ。…手の平を上に向けて。…乗せてあげるから。」
子供は一層驚いた顔をしたが、右手をさっと胸でこすると、言われるとおりに手の平を上に向けて伸ばした。
総司「ちょっといたいけど、がまんするんだよ。」
総司は、うなずく子供の掌に独楽を慎重に乗せた。
いつの間にか、子供達が二人を囲んでいる。
回る独楽が手に乗った時、子供は一瞬顔をしかめたが、もう一つの手で独楽の乗っている方の手首を押さえ、唇を噛んだ。
回りから「すごい!」という声がし、拍手がした。
子供は少し誇らしげな顔になった。
しかし、まもなく独楽は力をなくし、子供の手の上でぐったりと体を落とした。
回りの子供はそのまま、自分の独楽を回しに散開したが、その子供はまだじっと独楽を見つめている。
総司「…今度は自分でやってみるかい?」
総司がそう言ったが、子供はそれには答えなかった。
子供「…生きとったみたいや…手の上で…」
それを聞いた総司は、にっこりと微笑んだ。
総司「うん…短い間だったけれど…生きていたんだね。」
子供は「うん!」と力強くうなずいて、総司に「独楽の回し方を教えて」とねだった。
総司に断る理由などない。
半刻練習するうちに、やがてその子もうまく独楽を回せるようになった。
こんな子供達と過ごすことが、総司の一番心落ち着く時であった。




