第20話
屯所へ向かう道 川辺-
中條は、その場に土下座するようにして座り込んだ。
中條「お願いです!僕を捨てないで下さい!」
総司「!?…中條君?」
総司は驚いて、中條の前にしゃがみこんだ。
総司「捨てるんじゃない。君のために…」
中條「隊を抜けるくらいなら、切腹した方がましです!」
総司「…中條君…」
中條「お願いです。切腹させてください!…介錯は他の人でも構いませんから…。」
総司「……」
総司は、自分が土方に「捨てないで欲しい」と言ったのを思い出した。
他所で養生しろと言われて、自分が捨てられると感じたのである。その同じ思いを中條にさせてしまったことに、今になって気づいた。
中條は両手をついて、泣いている。涙が地面にぽたぽたと落ちていた。
総司「…中條君…すまない…そんなつもりじゃなかったんです。」
中條は必死に嗚咽をこらえている。
総司「君のことを思って言ったつもりだった…。…すまない…。」
中條は体を起こして、親に怒られた後の子供のように、こぶしで涙をぬぐっている。
総司「…だけど…本当に君はそれでいいのかい?…これからも、命の危険にさらされるような毎日を送るだけだよ。」
中條「僕は、沖田先生のお役に立ちたいんです。それだけです。」
総司はそんな中條と同じ思いを、近藤と土方に持っていた。…中條の気持ちがよくわかるだけに、嬉しくもあり辛かった。
総司「…ありがとう…これからも頼りにさせてもらうよ。」
中條は嬉しそうに濡れた顔をあげた。
中條「!…はい!」
総司は中條の顔を見て、吹き出してしまった。
中條「????先生???」
総司「す、すまない…。中條君の顔…」
中條の頬にこぶしでぬぐった涙の跡が、土に汚れているのである。眼の下に真横に筋が入っていた。
総司「ほら…顔を洗ってきなさい。色男が台無しだよ。」
総司が笑いながら、傍に流れる川を指差した。
中條「は、はい!!」
中條は、川辺に向かって走って行った。総司はその中條の背に向かってつぶやいた。
総司「これから、もっと迷惑をかけると思う…それでも君は…ずっといてくれるのだろうか…?」
中條は何も知らずに、豪快に水飛沫をあげて、顔を洗っていた。




