第19話
町外れの集落-
総司は、集落の入り口で中條を見つけて、ほっとしたように微笑んだ。
中條は、いつもと変わらない様子で、子ども達と遊んでいる。
総司が近づいていくと、中條は、はっとしたように、総司を見た。
総司「やっぱりここにいたんですね。」
中條「…申し訳ありません。」
総司「いえ、あなたを迎えにきたわけじゃありません。私は、あの赤ん坊の様子を見に行きたいので、ゆっくり遊んでいてください。ただ、帰るときは声をかけて欲しいんですが・・」
中條「わかりました。」
総司は集落の奥へと入って行った。
……
総司が入口の方へ戻ってくると、中條はさえと指切りをしているところだった。
指切りが終わると、さえが中條の首に抱きつくような仕草をした。
中條が応えてさえを抱き、何かを言い聞かせている。
中條が総司に気づいて、さえの体を離し立ち上がった。
総司「じゃましたかな…?」
総司がそう言うと、さえが顔を赤くして首を振った。中條は「いえ」と笑いながら答える。
中條「じゃぁね。さえ…また来るからね。」
さえは「うん」とうなずくと、総司に頭を下げて、走り去っていった。
……
総司と中條は、屯所へ向かう道を歩いていた。
やがて川辺にさしかかる。
中條がいつものように、総司から少し距離をおいて歩いていた。
総司「…中條君…土方さんに切腹すると言ったんだってね。」
中條「…はい…」
中條はそのことで総司が来たことをわかっていたようである。何かうなだれるようにして、後を歩いている。
総司「そして、私に介錯して欲しいとおっしゃったそうですね。」
中條「…やはり、駄目でしょうか…厚かましいかとは思ったのですが…」
総司は笑い出しそうになるのを堪えた。中條は真剣に切腹するつもりでいるのである。
総司「さっき、さえちゃんと何の約束をしていたのですか?」
中條「え?…ええ…しばらく来られないと言ったら、必ず戻ってくることを約束して欲しいと言われて…やむなく…」
総司「…そうだったんですか…」
二人はしばらく無言で歩く。総司は中條が可哀想になってきたので、はっきり言うことにした。
総司は立ち止まって、中條に振り返る。
中條はそれに気づいて、うつむいていた顔を上げ、総司を見た。
総司「中條君…私はあなたを切腹させたりしませんよ。」
にこにこと微笑みながら言う総司を、中條は目を見開いて見た。
総司「土方さんが何を言ったか知りませんが、私には必要な人です。だからこそ、あなたを自分の部屋で看病したんじゃありませんか。」
中條の目から涙がこぼれおちた。思いもよらない言葉だった。
総司「…でもね…後悔しているんですよ、あなたを入隊させたこと…」
中條「…え?…」
総司「私がもし、あなたを入隊させなかったら…あなたは、違う人生を歩めたんじゃないかなってね…」
総司は、中條が何かを言おうとしたのをさえぎるように振り返り、歩き出した。
総司「あなたが賄いさんたちを手伝ったりしているのを見ると、そちらの道へ歩ませた方がいいように思ってね…。ああ、そうだ!」
総司は思い出したように再び振り返った。
総司「おはぎをありがとう。あなたが作ったそうですね。おいしかったですよ。」
中條は、はっとしたように顔を赤くする。
中條「お口に合いましたでしょうか?」
総司「ええ…。あれを食べて思ったんです。あなたは・・新選組に入るべき人間ではなかったのではないかと。…もし、入っていなかったら、菓子屋か料亭を開いて、穏やかな人生を歩めたんじゃないかってね。」
中條「先生…」
総司は真顔になって、中條を見た。
総司「…私は、あなたに隊を辞めることを勧めます。」
中條「!?」
総司「今なら生きて隊を抜けることができるよう、土方さんに頼むことができます。もちろん、しばらく生活できるくらいの、お金もお渡しします。…考えて欲しい。」
中條はしばらくその場に固まっていた。




