第17話
新選組屯所前-
山野は中條の替わりに門番をしていた。
熱を出してから2日が経つが、まだ微熱が残っているのである。
中條自身は「大丈夫」だと言ったが、総司が許さなかった。
山野は一人の女の子に気づいた。遠くからこちらを見ている。しかし、何かおどおどしていた。
山野は最初知らん振りをしていたが、それでもその女の子がこちらを見ているので、手招きして見た。それを見た女の子はびくっとしたように、両手を胸の前で握り締めて立ちすくんだ。
山野「おいで。取って食ったりしないから(笑)」
山野がその場にしゃがんで、もう一度手招きしながらそう言うと、女の子はおそるおそる近づいてきた。
山野「どうしたんだい?僕に何か用?」
女の子が首を振った。
山野「じゃぁ、ここの人に何か用かい?」
女の子がうなずいて、消え入りそうな声で答えた。
女の子「えいじろう…にいさま…」
山野はぱっと表情を明るくして「ああ!」と言った。
山野「君…さえちゃんだね。中條君のお友だちの。」
山野がそう言うと、女の子の頬が赤く染まった。
山野「一人で来たの?」
さえがうなずいた。
山野「よくここまで来たね。…で、中條君に会いに来たの?」
さえは首を振った。
さえ「…ずっと、村へ来てくれなかったから…」
山野「…そうか…」
山野が少し表情を曇らせて言った。
山野「中條君ね、病気になったんだよ。…熱があるから外へ出られないんだ。」
山野がそう言うと、さえは口に手を当てた。
山野「でも、大丈夫だよ。もう熱も下がってきたし、そろそろ外へ出られると思う…。」
山野がそう言い終わらないうちに、さえは山野に頭を下げると、走り去っていった。
山野「!!?さえちゃん!」
そう叫んだときには、もうさえの姿はなかった。
山野「…どうしたんだろう…?」
山野は首を傾げた。
……
しばらくして、さえが戻ってきた。手には何か小さな袋を持っている。
そして、それを山野に差し出した。
山野「…中條君に渡すんだね?」
さえがうなずいた。
山野「よかったら、中條君に会うといい。僕が連れて行ってあげるよ。」
さえは驚いた顔をして首を振った。
山野「でも、中條君も会いたがってると思うよ。」
さえ「…早く帰らないと…みんな待ってるから…」
さえが下向き加減に答えた。山野は「そうか…」と言って、袋を受け取った。
山野「中條君が元気になったら、すぐに村へ行くと思うから…」
さえはうなずいて、走り去って行った。
山野は、袋の中をそっと覗いた。小さな干菓子が二つだけ入っていた。
山野「…あの子の精一杯のお見舞いなんだな…」
山野の胸が熱くなった。




