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第16話

新選組屯所 総司の部屋-


山野「考えてみれば…中條さんは、ずっと休んでなかったんです。」


総司の部屋で寝かされている中條の横で、山野が総司に言った。


山野「…あの大部屋ではゆっくり休めないのか、中條さんはただでさえ眠る時間が少ないんです。夜中によく起き出しては、中庭で木刀を振っていたり、非番の日も、賄いの手伝いをしていたり…。休むようにいったんですが「じっとしているのが性に合わない」と言って、笑うだけで…。」


総司はじっと熱に浮かされている中條を見つめていた。

そんな中條に自分は何もしてやれないばかりか、用事まで言いつけていたのだ。


その時、中條が何かをつぶやいた。二人は、思わず中條に顔を近づけた。


総司「…なんて言ったのか、聞こえましたか?」


山野は首を振った。


山野「いえ…わかりませんでした…」


すると中條が、眠ったまま体を起こそうとした。


「いけない!」


総司と山野は二人で中條の体を押さえた。


中條「…文を…」

総司「!?」

中條「文を届けなきゃ…」

山野「中條さん、文は僕が届けますから…ゆっくり休んでください。」


何も言えなくなっている総司のかわりに、山野が話しかけた。

が、中條はただ同じ言葉を繰り返すばかりである。

総司は胸をしめつけられる思いがした。


山野「先生、文を…」

総司「…え?」

山野「僕が持って行きます。」

総司「いや…」


中條のこの様子では、可憐に会えぬと総司は思っていた。しかし中條がそのことを知ったら、自分自身を責める事もわかっている。


総司「…ちょっと、文を書き直さねばならない。すぐに書くから、中條君を看ていてください。」


山野は「はい」と答えて、中條の頭に乗せている手ぬぐいを取った。


山野「…もうこんなに熱くなってる…」


その山野の呟きが聞こえて、総司は一層自責の念を強くした。


……


総司は、中條の額に浮かぶ汗を拭いてやり、濡れた手ぬぐいを乗せた。

夜中になっても、中條はまだ目を覚まさない。礼庵が夕方に現れ薬を持ってきたのだが、中條が眼を覚まさないため、まだ飲ませることができなかった。中條はそのまま高熱が下がらず、苦しげな息遣いが続いていた。総司は、中條のことが気になって眠れなかった。


総司「…君は、こんな時、誰のことを思うんだろう…?」

中條「…沖田先生…」

総司「!?」


総司は中條の顔を覗き込んだ。中條は目を開いていた。


総司「!…目が覚めたかい?」

中條「僕…」

総司「稽古中に倒れたんだ…。熱がまた高いから、しばらくここでゆっくりと休むといい」

中條「…ここ…先生の部屋ですか?」

総司「そうだよ。…大部屋じゃ落ちついて寝れないだろう?」

中條「…でも…」

総司「何も気にするな。…それよりも、早く熱を下げるんだ…わかったね。」

中條「…あの…想い人さんへの文は…?」

総司「山野君に持っていってもらったよ。」

中條「そう…ですか。」

総司「文を持っていくぐらいなら誰でもできる。…君はとにかくゆっくり体を休めることだけを考えたらいい。」


中條はうなずいた。総司はやっと安心したように微笑んだ。


総司「礼庵殿が薬を持ってきてくれたんだ。さぁ、飲みなさい。」

中條「申し訳ありません。」


中條は総司に支えられながら、体を起こした。


……


『文を持っていくぐらいなら誰でもできる』


総司の寝息を聞きながら、中條はぼんやりと考えていた。言われてみればそうだ…。総司がずっと自分に文を持たせてくれたのは、自分を信頼してくれているからだと思っていた。…そうじゃない…実際は誰でもよかったのではないか…。どちらにしても倒れてしまっては、何もならない。その上、総司の部屋に寝かされて、邪魔をしている。


「…役立たず…」


思わずそう呟いた。少しでも総司の役に立ちたいという気持ちが、空回りしているようなそんな気がした。

その時中條の脳裏に、入隊時に土方に言われた言葉を思い出した。


『総司がああいうから仕方がない。だが、もし総司の手を煩わせるようなことをしたら…』


中條はある覚悟をしていた。

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