第15話
新選組屯所 道場-
一番隊の撃剣の稽古が始まった。
山野は、中條がいないことに気づいた。
山野(中條さんが遅刻するなんてどうしたんだろう…?)
さっきまで門番をしていた山野は、一度大部屋に戻ったが、その時には中條の姿がなかった。てっきり、先に道場へ行っているものだと思っていたのだが…。
総司も中條がいないことに気づいていた。
遅れれば、中條といえども、他の隊士と同じように罰を与えねばならない。
剣を重ねている隊士達に鋭い目を向けながら、総司はとにかく中條を待った。
中條「申し訳ありません!」
総司を始め皆の視線が中條に注がれた。総司がほっとした目をしたが、伍長は、中條を一喝し、総司の前に出るように言った。
中條は恐縮した様子で、総司の前で膝をついて頭を垂れた。
総司「…あなたらしくないですね…」
中條「申し訳ありません。」
総司「…面をつけなさい。罰はわかっていますね。」
中條「はい」
遅れてきた人間にはいつも総司自身が稽古をつけることにしている。隊士達には一番の脅威だからであった。
中條が準備を整えたのを見届けて、総司が立ち上がった。
そして、二人は稽古場の中央で一通りの挨拶を交わし、お互いに竹刀を構えた。
総司(…おかしいな…)
総司が中條を見て思った。
中條の体がふらふらと揺れているのである。まるで酔っ払っているかのようである。
総司は自分から軽く打ち込んでみた。中條はいつもの力で跳ね返してきた。
総司(…酒を飲んだのではないようだな…)
総司は手応えを感じて、次々と打ちこんだ。だが、中條はなんとかかわしていると言う様子で、自分から打ちこんでこない。
総司(やはりおかしいな…)
総司は先ほどの中條の様子を思い出していたが、手を緩める事はしなかった。
気合いの声と共に、総司は中條の竹刀を叩き落とした。
総司は息を切らしながら「ここまで」と言った。中條は一礼し、竹刀を取り上げようとかがんだ。
…が、次の瞬間、その中條の体がぐらりと揺れ、そのまま床に倒れこんだ。
総司「!?…中條君!」
中條は動かない。それを見た山野がとびだしてきた。総司は驚いて、中條の体を上に向け、面をはずした。
中條は気を失っていた。顔中に汗をびっしょりとかいている。
総司が中條の頬に手を触れると、みるみるうちに表情を硬くした。
総司「…すごい熱だ…山野君…戸板を…中條君を私の部屋へ運んでください」
山野「…先生の部屋へですか?」
総司「いいから、早く!」
山野「…はっ!」
山野が飛び出して行った。
総司は、中條の防具を一つずつ緩めてやりながら、何かいい知れぬ罪の意識を感じていた。




