第13話
新選組屯所-
一番隊は巡察を終え、屯所へ戻ってきた。
そして若い隊士達は中庭で、血や泥で汚れた隊服と袴を洗っている。
そこには中條もいた。彼はいつも、自分のものだけでなく総司の分も一緒に洗うのである。そして他の隊士からもいくつか頼まれたものもある。
中條の洗い方はとても丁寧で評判だった。恋人も妻もいない隊士は、自分で洗うのが面倒ということもあり、自然と中條に頼むようになっていた。
そして、中條も金を取るわけでもなく快く引き受けるのである。
五枚目の隊服を洗い終えた中條は、やっと自分の隊服に手を伸ばした。いつも洗う順番は決まっている。一番は総司のもの、そして最後は自分のもの…。
中條(…あっつ…)
中條は洗いかけて動きを止めた。…頭痛がするのである。そして吐き気も。このところ何度かそんなことが続いていた。
総司が体調を崩して一晩礼庵の診療所で休んだ頃から、一番隊の負担はかなり少なくなった。
しかしそれまでは、昼も夜も巡察だけでなく何度か出動を言い渡されたりして、体をゆっくり休めることができなかった。
それに、いろんな隊の人間が一緒になっている大部屋では、なかなかゆっくりと休むことなどできない。そのため、妻がいる隊士などは、昼間に非番が取れると必ず家へ帰り体を休めるようにしているようである。山野も想い人が一人暮しということもあってよく出ていく。何度か中條を誘ってくれたが、中條はせっかくの二人の時間を邪魔したくなくて、遠慮していた。
その上、中條はあまり眠ることができない体質であった。夜中でも人の出入りが激しい大部屋で熟睡することがなかなかできない。
「中條さん…どうしました?」
中條がその声にはっと顔をあげると、汚れものを持った山野が廊下にいた。
中條「あ、いえ…。今から想い人さんのところへ行かれるのですか?」
山野「ええ…。中條さん大丈夫ですか?…顔色が悪いですよ。」
中條「大丈夫です。」
中條はそう言って微笑んで見せた。
中條「山野さん、早く行かないと日がくれちゃいますよ。」
中條がそう言うと、山野が顔を赤らめた。
山野「じゃぁ…ちょっと行って来ます。」
中條は「行ってらっしゃい。」と山野を見送ってから、自分のものを洗い始めた。
……
やっと、自分のものも洗い終わり、中條はすべての洗濯物を干しに行こうと立ち上がった。しかし、その瞬間、目の前が真っ暗になって再び座り込んだ。
周りにはもう誰もいない。
中條(…どうしたんだろう…?…丈夫なだけが取り柄なのになぁ…)
中條は、しばらくその場にうずくまっていた。




