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第12話

近藤の部屋-


近藤は土方と総司を前に愉快そうに笑った。


近藤「それは、総司お手柄だったなぁ!」


昨夜の会津藩との酒宴で、舞妓を助けた話を土方が近藤にしたのである。総司は「いちいち報告することじゃない」と土方を止めたが、土方が許さなかった。


総司「お手柄なんて…ただ、ああいう事をほっとけないんです。」

土方「私はただの痴話喧嘩だろうから、ほっとけって言ったんだがな。会津さん達も感心しておられたよ。」


近藤は、にこにことして総司を見た。


近藤「それが総司のいい所だ。本当はな、総司。昨夜の酒宴は会津さんがお前を一目見てみたいとおっしゃっていたので開いたんだ。」

総司「…そうでしたか。」


総司は苦笑した。うすうすわかっていたことだったのだ。


近藤「それで、歳さん。相手の身元はわからなかったのか?」


相手とは、舞妓を助けようとした総司を斬ろうとした男のことである。土方は片頬をいがませて笑った。


土方「女将に聞いたんだがな。教えられないとよ。こういうことはお互い知らない方がいいっってさ。」

総司「え?女将さんは、向こうの方を知っておられるのですか?」

土方「常連さんらしい。まさか、初対面の客の尻をいきなり叩いたりしないだろう?」


その土方の言葉に、総司は「なるほど」と感心した。女将は総司のことを知らなかった。だから「若侍さん」と呼んでいたのだ。しかし、相手のことも「お侍さん」と呼んでいた。相手を知っていても一度も名を呼ばなかったのである。


土方「ああいう店では、尊攘も佐幕も関係なく客を取らねばならん。会津藩御用達の店と聞いていたが、昨日のことで佐幕派ばかりでないことがわかったよ。」

近藤「ごたごたがあっても、あの女将がいるうちは大丈夫だろう。」


近藤が笑いながら言った。


土方「そうだな。…女将にどなられると、まるで母親に怒られたように皆おとなしくなるからな。」


土方も笑った。


近藤「そうだ。総司が助けたと言う舞妓の置屋の女将が礼を言いにきていたぞ。」

総司「!えっ?」


総司は驚いた。そして(なんだ隠していてもばれていたのか)と思った。


総司「…あんなことでわざわざ?」

土方「おまえにとってはあんなことでも、あの舞妓にとっては命を救われたようなもんだ。礼を言いに来るのが当然だろう。」

総司「…そうなんですか。」

近藤「あの舞妓はこの前、店出ししたばかりの子だそうだ。…ほら、「あや絵」っていうきっぷのいい芸妓がいるだろう?あの妹舞妓だそうだよ。」

土方「ああ!「あや」がついているから、そうかなとは思ったが。」

近藤「店出しして、いきなり男に手篭めにされてちゃ、置屋もかなわんだろうからな。」


総司(まだ15だと言っていたな。)


総司は「あやめ」という舞妓の怯えた目や、ずっと自分の胸で必死に声を堪えて泣いていた姿を思い出していた。

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