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第100話(了)

新選組屯所前 夕刻-


土方がうろうろと総司を待っている。

そろそろ帰ってくるころだと思うと、何か落ち着かなかったのである。


…足音が聞こえ、総司の姿が見えた。

笑顔はもちろんなかった。しかし、沈鬱な表情でもなかった。

総司は土方を見るとにっこりと微笑んで見せた。

そして、足早にかけよってきた。


総司「土方さん、ただいま」

土方「…おかえり…総司」


土方は、少し面食らって答えた。総司は笑った。


総司「いやだなぁ…もしかして、私が帰って来ないとでも思っていましたか?」

土方「そうじゃない。ちゃんと帰ってくると信じていたよ。」

総司「本当に…?」


総司は、いたずらっぽい目で土方を見ると、そのまま中へ入って行こうとした。


土方「…総司…」


総司が振りかえった。


土方「…これからも…隊を頼むぞ。」


総司はにっこりと微笑んで「はい」と答えた。


……


総司の部屋-


中條は、総司が部屋へ入っていく後姿を見た。あわてて総司の部屋の前まで行ったが、しばらく声をかけることもできずに、じっとその場に座ったまま黙っていた。


「…中條君…そこにいるんだね。」


総司の声がした。中條は、はっと顔を上げて返事をした。


「入っておいで」


中條は「はい」と答えて、ためらいがちにふすまを開いた。

中へ入ると、総司が微笑んで座っていた。

中條はほっとして、中へ入って頭を下げた。


総司「中條君には、本当にお世話になりました。あの人からも礼を言って欲しいとことづかっています。」

中條「いえ…僕にはこういうことくらいしか…」

総司「初めてあの人とゆっくり会う事ができました。…時間を気にせず、いろんなところを歩き回って…とても楽しかったですよ。…すべてあなたのおかげです。本当にありがとう。」


総司はそう言って、中條に頭を下げた。中條はあわてて言った。


中條「いえ!…あの、僕は副長に頼まれてやったことですし…部屋を取るくらいのことなら…今までだって…いつでもできたのに…」


だんだん、声が小さくなる中條に総司が微笑んで言った。


総司「…本当にありがとう。…そして、これからもよろしく。」

中條「…先生…」


総司のにこにこと微笑む顔を見るうちに、中條の目から涙がこぼれおちた。きっと辛いに違いないのに、笑顔を見せようとする、総司の気遣いが苦しかった。


総司「あなたが泣かないで下さい…。」


総司はそう言ってなおも微笑んでいる。しかし、その瞼は少し赤く腫れていた。

もう涙も涸れてしまったのかもしれない…中條はそう思った。


中條「申し訳ありません。」


中條は、総司が差し出す手ぬぐいで涙を拭った。


総司「その手ぬぐいは、あの人からです。」

中條「えっ!?」


中條は、今目をぬぐった手ぬぐいを見た。


総司「中條君は、涙もろい人だからって。…文も泣きながら届けてくれたって言っていました。…そして、本当に心から感謝していると伝えて欲しいと。」

中條「…僕…なにも…」


中條の目から再び涙がこぼれおちた。そして手ぬぐいで目を押さえた。

その時、総司の咳込む声が聞こえた。

中條は慌てて手ぬぐいを離し、総司の背をさすった。


総司「…すまない…」


中條は必死にさすった。…やがて咳が収まってから、総司が言った。


総司「不思議とね…あの人の前では、咳込まなかったんですよ…。どうしてだろうね…」


総司がそう言って笑った。中條の目に再び涙があふれ出た。


……


翌日-


一番隊に出動がかかった。

隊士達は皆あわてて、身支度を整えながら一人一人庭へ飛び出してくる。

そして、総司が現れた。

中條、山野以外は、総司が可憐と別れた事など知らない。


山野が、横にいる中條に言った。


山野「沖田先生…すっかり顔つきが変わってしまったな。」

中條「ええ…。皆は気づかないでしょうがね…。」


総司が、伍長に全員揃ったか確認させた。そして揃っていることを聞くと、凛とした声で言った。


総司「一番隊参ります!私に続いてください!」


総司がくるりと背を向けて走り出す。そして、一番隊が総司に続いて走り出した。


新選組のいつもの光景である。


(一番隊日記(弐)-悲しみを越えて- 了)

……


最後までありがとうございました!

これまでアクセスして下さった皆様に、心より感謝いたします。


そして、お気に入りにご登録いただいた方、評価をつけてくださった方、うれしいです!本当にありがとうございます!

また「沖田」様「まめ」様!いつもご感想をありがとうございます!励みになりますっ(><)

そして、お気に入りユーザに「沖田」様に続き、「土方」様が入ってくださいました!感激です(;;)あとは「近藤」様を待つのみ!?(おいおい)


さて、一番隊日記の「総司」と想い人「可憐」との別れのシーンは、当時この日記を書いていた私の課題でした。史実上の沖田さんが近藤さんに説得されて(一説には、子供ができたにもかかわらず)別れてしまったのは何故か??という疑問から、実際に書いてみたいとずっと思っていました。

沖田さんは、想い人さんと別れさせられたあと、八木翁に涙ながらに辛い気持ちを訴えたと伝えられています。それだけ辛いのならば、何故素直に近藤さんに従ってしまったのでしょう?

私の出した答えは、沖田さんが想い人さんのためを思ったのだということと、その時代の風潮もあったのだろうということでした。それに添って書いてみました。

一番隊日記での総司と可憐があまりに素直に従いすぎて、拍子抜けされた方もいらっしゃるかと思いますが、別れてしまった…という結果と、伝えられている話から想像して、想い人さんも沖田さんも、さほど抵抗はしなかったのではないか(抵抗したならば、なんらかの逸話が残っていたのでは)と私自身が解釈した結果です。(私が知らないだけかもしれませんが(^^;))


次の一番隊日記は(えっ?あるのかって?勿論あります。凝りもせず(笑))うちの総司が可憐と別れた後から始まります。一部「一番隊隊士中條英次郎-一番隊解散-」と重なる部分もありますが、よろしければそっちも読んでやってください(m__m)

本当にこんな感じで申し訳ないですが、次回もどうぞよろしくお願いいたします。


立花祐子


~おまけシーン~


総司と中條はすっかり葉の色のかわった清水の坂を歩いていた。


総司「中條君、こんなところまでつき合わせて申し訳ない…」

中條「いえ!…僕が勝手についてきただけですから…」


…総司と可憐が、最後の時を過ごした旅館が、この近くにある。


総司「すっかり葉が色づいたね…。見事だな…。」

中條「…そうですね…」


総司はふと立ち止まって、赤く染まった山林をじっと見ていた。

中條は総司の後ろで、黙って立ち止まった。


総司「…あの人と…見たかったなぁ…」


思わず呟いている。

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