3-2 TS美少女と一人遊び
そんなラブコメ染みたやり取りをしていたものだから、そのあとちょっと俺は、和也の体に近づきすぎてしまった。
いや、別にこいつが冴えない奴だからといって、触られたくないだとか、そんな冷たいことを言うつもりはさらさらない。
和也の折れた骨を叩いてしまった、とかいう話でもない。
ただちょっと、美少女的にはあまり率先して触るべきではない部分に、俺の手が当たってしまった、というだけの話だ。
固く、お元気に主張したそのご立派な股間に。
一瞬、時が止まった。
「……ぶふっ! うはは! なんだ和也、テントの話しながら、股間にテント張ってんじゃねえよ! はははっ、馬鹿、くそ、うはは! 元気びんびん丸かよ、うっははははっ!」
「わ、笑うなよちくしょう……」
和也は顔を真っ赤にしてうつむいているが、こんなの、笑わずにいられるか!
別になーんにもエロい雰囲気なんてなかっただろうに。
思春期のもてあました性欲と元気が大暴走というわけか。
わかるよ、こんな美少女が近くにいたら、そりゃもう、股間にテントくらい張っちゃうよね。
自分ではわからないけど、たぶん俺からは美少女特有のいい匂いなんかもしちゃってるはずだし。
「和也さあ、ちゃんと自分で処理しとかなきゃ。午後に俺……私が来るって、わかってたっしょ? きちんと先にすっきりしとけよ。女と会う前の、童貞のたしなみだぞ? ……ふふっ、うはは! やめろその顔、笑わせんな! はははっ!」
あまりにも情けない、しょんぼりした和也の顔に、笑いも止まらないし、なんだかゾクゾクしてきてしまう。
和也は悔しそうに顔をかくし、憎々しいうめき声をあげはじめた。
「あのなあ、オレは怪我してんだぞ? 利き腕の骨なんかバッキバキだし」
なんとなく、すでに発言の意図が理解できてしまって、もう笑いがこらえられない。
「……出来ねえんだよ、したくったって。溜まってんだよ! くそ、笑うなってマジでさあ!」
そんなん、笑うしかないじゃん!
どうにもその和也の情けない表情がたまらなくツボにはまって、俺はベッドの上で足をバタバタさせてしまう。
哀れすぎて笑いが止まらない。笑いすぎて涙が出るわ。
でもそうよな。そりゃ確かに、利き腕がダメだと大変だろうさ。
理解できますよ。この俺はただの女じゃありませんから。
「悪い悪い。……ふふっ! でもほら、左手は自由なんだろ? この部屋は個室なんだし、時間かければ余裕っしょ。利き手じゃないほうが、普段と感覚が違って楽しめるらしいし?」
「下品すぎるわ紬……。ていうか、そんな単純な話じゃないんだよ……」
ニヤニヤが止まらない俺とは対称的に、和也はため息をつきながら頭をかかえる。
ああもう、ほんとからかいがいのあるリアクションで。
「……ほら、オレは今、自分じゃ自由にこのベッドから出られないわけよ。もしほら、そういうことをしたとしてだ。ゴミはどうすりゃいいんだよ」
おいおいまじか、ゴミって。これまたとんでもない下ネタの連続だ。
つまりあれか、使用済みティッシュの話をしてるのかこいつは。
この美少女に向かって。正気を疑うレベルの暴挙だぞ?
「入院して何日目だったかな……朝にゴミ箱掃除しに来た看護士さんの、あの無表情がな。もう二度とオレは、あんな思いはしたくねえ。たとえ寝ている間にパンツが汚れたとしても、絶対にやらねえよ」
元男としては、ありありと想像できるその光景に、またちょっと吹き出してしまった。
今の俺はもう同じ問題に苦しむことはないけれど、確かにそれはトラウマになりそうだ。
「あー……すまん。ふふっ、まじでそれは、深刻だよなあ」
男の気持ちが理解できる系の美少女である俺は、こんなクソみたいな話でも、なんだかんだ和也のことがかわいそうになってきてしまう。
同時にその情けない話に、なんだかゾクゾクしてしまっている新しい自分もいた。
「くそ、なんでオレ、紬にこんな話してんだろ……。情けなさすぎるわ」
また恥ずかしそうに、冴えない情けない顔でうめく和也。
ああ、なんだろうこの感覚、妙な気分だ。
なんか俺、こいつのこの弱った顔が、めちゃくちゃ気に入ってるかも。
イケメンとは程遠い顔立ちだが、これが愛嬌というやつなのかな。
少なくとも、こいつがいい奴だということだけは間違いないと思えるくらい、感情が丸出しのこの表情は見ていて飽きない。
「仕方ないなあ。じゃあさ、そのゴミ、私が回収してやるよ」
後から思えば、俺のその後の未来を決定づけてしまったような、自分からのイカれた提案。
そのときの俺は、善意100%でその提案を和也に持ちかけてしまっていた。
「適当なビニール袋に入れて隠しとけばいいじゃん。私が後でどっかに捨ててきてやるから、帰るときにでも渡してくれたらいいよ」
そのときの和也の、驚いたような、情けなさが丸出しの表情に、またなぜか自分の背筋がぞくりとした感覚に襲われたことは、よく覚えている。




