9-2 TS美少女と愛の言葉
「なあ和也、正直に答えろよ?」
放課後。
私は和也の部屋で、和也の匂いが染み付いたベッドを占領しつつ、和也の所有しているキャンプ道具を仰向けになった自分のお腹に積み上げるという、斬新かつ孤独なゲームを楽しんでいた。
クラスメイトたちが言うように、念のため、まず確認が必要だ。
顔は冴えない和也ではあるが、まあまあ背も高いし、性格の方は私的には満点。
いや100点越えているかも。見た目のイマイチさを大幅に補い、私基準の査定で合計点はもう満点越えてるかも。
……いやもう、この際ちゃんと認めてあげよう。
和也はまあ私が思うに、あくまでも私基準では、けっこういい感じの男だと。
ましてこのいい匂いに気づいた女子が私の他にもいたとしたら、ちょっと味見を……なんて感じで狙われたりとかもあるのでは?
その泥棒メス猫でお手軽に童貞卒業、なんてリスクもありえなくはない。
お腹の上に重ねたキャンプ道具たちがぐらぐら揺れる。
大丈夫だと信じてはいるのだけれど。
考えれば考えるほど、なんだか不安だ。
宿題を片付けていた真面目な和也は、私の問いかけにようやくペンを置いてこちらを振り向いてくれた。
「……あのさ、私以外の女で、仲のいいやつとか、いる?」
一番上に重ねていた和也のコンパクトなランタンが、言葉にあわせて私のお腹の動きで落ちてきて、ちょうど私の美乳の谷間にすっぽりと挟まった。
「なにその質問。モテないオレへのイジメ? まあ、お前以外に仲のいい女子なんていないけどよ。……あーくそ、言わせんなよマジでさ」
うむ。
そうだよねそうだよね。
他の女とか、ありえないわ。この美少女をさしおいて、絶対ありえん。
わかってたわかってた。知ってた知ってた。
「ふへへ、まあ、それならいいけどね!」
私は素早くベッドから飛び起きると、モテないかわいそうな和也に、唯一の仲良し女としての慈悲の心で、後ろから抱きついて精一杯にスキンシップをとってやる。
うなじの辺りに顔を寄せると、少し和也の汗の匂いがして、思わずペロペロしたい欲求に襲われた。
「なあ紬、ちょっと提案があるんだけどさ」
一回だけ、この首筋のところをペロッといってみるか? と悩んでいた私に、背中から抱きつかれたままの姿勢で、和也がちょっとだけ緊張したような声を出す。
あらら、童貞にはこのスキンシップはちょっと刺激が強すぎたかな?
「おうなんだ? なんでも言ってみ? あー、おっぱい触りたいとか? もう、ほんと仕方ないやつだな、少しだけだぞ?」
今の私は上機嫌。
思春期の和也の望みを叶えてあげようと、女神になったような気持ちでその大きな背中から離れ、自分の制服のボタンを外していく。
が、和也から慌てたようにストップがかかった。
「違うわ。てか、おっぱいオッケーなんだ……いや、そうじゃなくてさ」
チラチラ、と私の美乳のあたりにさりげなく視線を向けたあと、和也はぷいっと部屋の天井を見上げる。
まてまて。ちゃんと私の方を見てなきゃだめだぞ。
私はすぐに立ち上がり、和也の正面にまわりこむと、その視線の先に強引に自分の顔を割り込ませた。
無理やりに目をあわせられ、和也もちょっと吹き出しながら、またさっと目をそらして話を続けようとしてくる。
「もうすぐ夏休みじゃん?」
そうだね。
それはともかく、また反らされた視線の先に回りこみ、和也のその優しげな瞳に、なんとか自分の顔を割り込ませていく。
また目を反らされて、そこに私がドンと顔を近づける。
このくだらない遊びがなんだか楽しくなってきて、二人とも揃って同じようにニヤニヤしてしまっていた。
「で、オレって生まれて以来一度も、恋人ってやつがいたことないんだよな」
視線がまた反らされて、また私がそこに回り込んで。
そしてまた二人で笑う。
「でもそんなオレだって、人生で一度くらい、かわいい恋人がいる夏休みを過ごしてみたい」
なるほど。
もうわかりました。
もう和也の話への期待感がふくれあがって、先にニヤニヤしてしまう。
なにせ察しのいいかしこい私は、もうすでに和也が何を言わんとしているかは理解したし、その返事まで決まっているのだが。
だけどまだこの時間を少しでも引き延ばしたくて、でも幸せで幸せでどうしてもなく嬉しくて、クスクス笑いながら、続く言葉を待ち続ける。
「一応、ワンチャンあれば、の提案だけどな? 紬が良かったら、だけど」
なんでもないこんな日に、わざわざこんな大切なことを言うなんて。だから童貞は困るんだよな。
どうしたって緩んでしまう自分の頬を手で覆いながら、私は和也の全然ロマンチックじゃない次の言葉を、聞き漏らさないように、一生覚えていられるように、しっかりと耳を傾ける。
照れて目を反らそうとする和也の、大好きなその瞳に、私のこの目をきちんと合わせながら。
「お、オレの彼女に、なってみたりとか、ほら、どう……ですか?」
期待通りの言葉をくれた和也に、私は思い切り抱きついて、きちんと勇気を出してくれたことへのお礼に、全力で頭を撫でてやる。
ずっと、このときを私は待っていたんだから。




