11/23 対談・武田克虎×久松敬 〜2人のセーブ王〜 菅汐里の録音データ②より
「ふぅッふぅッ。いやぁ失敬失敬。情動とはいついかなる時でも湧き上がるものだなァ」
い、いえ。お話の続きを…。…何話してましたですかね。
「今季の僕の話ですね。や、まぁ…。これ以上続けても内容は増えないし、碌なこと言わないと思いますけど」
「ほォ?みくびられたものだな俺も。まァいい。良いところは確かにあらかた話したし、では碌ではない事、不安要素や改善点の話をしてやろうか。下半身の疲労で苦しみながら、来季も健気に投げようとする弟子に、引導を渡し休ませてやるのもまた師の役目だろう」
「あァ…!?」
え…?久松選手、故障とか…?
「…今季の話ですからねぇ。多少堪えたところはありますが、故障というほど酷くはありませんよ。ていうか武田さん、何もそれメディアの取材中に言わなくてもいいのでは?」
「書かせておけばいい。効かんやつには効かんが、踊るやつはとことん踊ってくれるぞ?それに、そもそも事実だろう。お前のような、役割の遂行を一義とする人間が、GSのあそこで降りたのが全てだ。肉離れ一歩手前ぐらいまで行ったか?いずれにしろ、今年と同じようにイニングを食うなど出来ようはずもない。そうなれば投げるのは1イニング。当然抑えかその前辺りでポジション争いになるだろう。相手になるのはフィリップか俺だが…。その辺りの指摘なく勝てると思うならかかってくるがいい。ただ、両リーグでセーブ王を取っている俺をあまりナメてくれるなよ?」
た、武田さん、その辺で…。
「いやァ何、怒ってなどいない。ほんの児戯よ。この程度で萎縮するようではそもそも相手にならんさ。それに、その類のつまらんプライドは持ち合わせてない奴だ」
「…仰る通りで。この場で構いませんから、教えていただきたいです」
「ハッハ!そういうところだ!良い!」
お二人がよろしいなら私はいいんですが…。ほんとにこのままアドバイス等されます?
「記事として使うかどうかは貴女に委ねるとも。しかし、そうだな。筒抜けというのも多少障るところがあるかな?端的にいくつか述べよう!あいや、俺のことは包み隠さず書いてくれてかまわん!それでより激しい勝負が出来るならばその方が嬉しいからなァ!」
「…僕の課題はいくつほど」
「まずは体力ッ!これをある程度戻してからでなければ話にならん。ノースローもそうだが、ノンアクティブの日も作って積極的に休養せよ。次に球種についてだが、真っ直ぐに頼りすぎている。変化球の質を更に上げる時が来たと言うべきだろう。スライダーやシンカーはいいとして、それ以外に一つでいい。頼れるボールを増やせ。最後にメカニクスの点だ。ストレートの威力を出すためなのだろうが、インステップし過ぎている。これでは体に反動が蓄積してしまい、怪我や疲労に繋がる。それなしでも出力出来るようにならねばなるまいよ。少なくともこれらを解決するのが最低限の課題であろうなァ」
結構具体的だったと思いますが…。
久松選手としてはこの辺りどうお考えですか?
「まぁ、仰る通りというか。ある意味分かり切った事を言われましたが、この3つを最低限やってはじめて相手になるかどうかってところですから。越すべき壁は高いですね。手っ取り早いのは筋トレなんでしょうけど、体のケアも考えると色々取捨選択が難しいか」
「気持ちはわかるが、そう焦るな。焦りは体力も思考力も奪うぞ。それに先ほどの話、翻って言うなら俺とフィリップの相手になるとすれば現状久松、お前だけだ。この序列は多少のことでは揺らがんから、回復を躊躇うな。RPGでもそうだろう。大魔王を相手にするならば、まず体力を最大まで回復してセーブ。何も難しい話ではあるまい?あァ無論卑怯などとは言わないともッ。万全のお前と鎬を削ってこそ得られる"ひりつき"と言うものがあるッ!ン〜、さぞ、さぞ甘美だろうなァ…」
え…、と。話を少し変えますね?
今は武田さんと久松さんが同じ土俵でポジション争いをするという話だったと思うんですが。
武田さんから見て、あるいは自分がやるとして、3イニングクローザーってどう思われました?
「基本的にリリーフというのは、稼働率と球数、そして準備の数で乗算となり使い減らされていくものだ。準備の数については、登板の日取りがある程度決まっていたからその分負担の軽減にはなっているだろう。稼働率は、前のシーズンで過密な登板間隔などもあったと聞くから、40以上登板でキャリアハイだとしても、差し引きそう変わらんかもしれんな。問題は球数だ。これは圧倒的に増えている。肩肘のケアには一層気をつけるべきだろう。こう語れば、俺が回復最優先としたのも頷ける話ではないかな?」
なるほど…。
「総じて、現代野球でかけていい負担ではない、というのが俺の結論だ。もちろん、あの吉永監督が取らざるを得なかった手である、とも考えられる。策としての是非は、俺は知らん。先に述べた通り、体験してみたい立場では確かにあるが…。仮にやったとして15から20登板できるかどうかだろうな。それほどに苦しく、そして手を尽くしてはじめてセーブが取れるような立場だ。故にこそ、挙げたセーブは最ッ高に気持ちが良いだろうと思うのだがね…」
…そうなんですか?
「先輩ですけど、この変態と一緒にしないでもらえればと思います。僕は去年まで戦力外候補でもおかしくない選手でしたし、役割をなんとか全うしなければ、くらいの事しか考えてませんでしたよ」
「3イニングセーブにしろ、役割の遂行にしろ、継続して出来るものでもない。ある意味、久松という選手のキャラクターや能力がよくわかるシーズンであり成績だったと俺は考えている」
なるほど。では次は久松選手に伺いますが、来季、おそらく立ち位置や役割が変わってくると思います。
差し当たっての目標をお聞かせください。
「うーん…。気は乗らないんですが、武田さんに負けないように。後ろの方で投げて2年連続タイトルを取れるよう頑張ろうと思います」
では次に武田選手にも、目標を…。
「言うに及ばず!弟子を存分に可愛がってやる事だなッ!まぁ他にあるとすれば、挙げられるだけのセーブを挙げる事くらいかッ。50セーブくらい挙げたいところだな今年はッ」
長時間ありがとうございました。
これで取材を終わらせていただきます。
と、閉じたはいいものの。
「あぁ〜…。生の言葉だと可食部が少な過ぎる〜…。ね、もうどうすんのこれ…」
取材の打ち上げで武田さんに奢ってもらって、上機嫌で帰った昨日のあたしと比べて、今日のあたしはあまりにも不幸。でも昨日上機嫌だったのはしょうがないじゃん。武田さんあんなオシャなイタリアン知ってると思わないし。久松くんは同郷っていうのを知るとすぐ、実家近くの良さげなカフェ教えてくれたし。そんなこんなで久しぶりに夜のご飯が楽しかったから。
ひとりぼっちの部屋で改めて録音を聴き、それを書き起こしたあたしは、曇り空の正午、鈍色の部屋で薄暗い光に当たりながら原稿をなんとか練り上げる。
締切いつだっけ、と赤字まみれのカレンダーを傾けて、いつまでこの仕事続けるかな、続けられるかなぁとちょっとだけ考えながら、軽く背筋を伸ばした。




