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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
2年目(久松プロ5年目)
85/141

10/19 編成会議②

編成会議は一切の予断を許さず進む。

その緊張感は、来季のへ希望と今季の悔恨が生み出すものであるが、この場にいる者全てがそれを持つが故であるだろう。

今季退任予定の編成部長、勧修寺はそうとは思えないほど熱と張りのある声で資料の説明を続ける。


「…と、今季の明確な失敗は今述べた通りだと、編成部としては考えております。補強がやや場当たり的であった事、野手を薄くし過ぎた事。結果論の部分もありますが、いずれも連動するものでした。故にこそ、改善の余地ややりようがあったと。編成部長として、やり残している事があるまま退任するのは大変無念ですが、後任の方にしっかりと引き継ぎ、クロウズの糧となるようなものを残していきますので、向後、よろしくお願いします」


勧修寺がそう頭を下げ、次の演者がマイクを握る。


「え〜。お疲れ様でございます。二軍監督の蜷川でございます。私からは〜、今季のファーム全般についてお話をさせて頂こうかと思います」


蜷川は、いつもの威勢のいい口調を極力抑えて、平たく言えば他所行きな話し方でもって、育成現場の状況を有り体に述べる。ただ、長くは持たなかった。


「あー、まぁ。言っちまえばまぁ…。あ、うそ。大変失礼しました…。いやもういいか?いいかなぁ?社長、大変申し訳ないんですけどねぇ?この喋り方でよろしいです?かたっ苦しくて話しづらいんで…」


水尾はこの申し出に、にこにことしながら承認の挙手をした。

この崩れた喋りに場の空気もやや弛緩する。

蜷川はそれを確認すると、一息入れて再度話し始める。


「いやぁ、すみませんなぁ。んじゃあ早速私からファームについて。お恥ずかしい話、シーズン中の野手供給が上手くいかなかったのが今季足を引っ張った部分だと思ってる。ドラ2の土谷や落ちてきた一宮なんかが上がれなかったのは、シーズン戦う上で1軍からしても編成からしても想定外の事でしょうし、こちらの落ち度です。まずはお詫び申し上げたい」


そう言って頭を下げた後、蜷川は何故そうなったかについて滔々と述べた。


「これに関しては、前々からの課題でもあるんだが、どうもうちはタッパのある野手が伸びにくいし、調子を落とした後復調に時間がかかる。デカい体を上手く使わせるってテーマに対し、メカニックの部分や分析に強い人員が指導者として揃ってないのが原因なんだろうな。反面、投手はそこが割と強くなってきてる。そもそもそういうのに興味を持ってる選手もいたりもしててな。土井と金子が早く順応・戦力化できたのはそこの影響もある。野手、とりわけ攻撃面に関してはその辺の啓蒙と、指導者の発言力強化が必要なんじゃねぇかと」

「蜷川さん、お言葉ですけど、その辺こそあなたがやればよろしいのでは?」

「やれたらよかったけど契約満了なんだわな、これが。…あぁ、一応去年の時点で辞意は伝えてたんだけどな?フェローとかいう実権のねぇ名誉職に置かれるもんで、発言力のあるうちに、後任のための地ならしをってこったよ。あんたがたに話通しとかねぇと、みんな困るだろ?どういう方針で何すりゃいいのかってさ」


編成部の1人が放った言葉に、蜷川はあっけらかんとそう答える。

あまりにあっさりとした物言いが、場の空気をさらに崩す。

崩れたらば、そこは畳み掛けられる所と、蜷川は言葉を繋いだ。


「まぁそういう訳で、ウィークポイントの解消なんかも含め、2軍監督の後任に昨年1軍監督代行だった三渕晴雄、メカニクス系のファームコーチとして1軍アナリストの津田昇太を推挙するぜ」

「!?」

「三渕さんはまぁいいとして…。津田君ですか?実績的にコーチをやれる程ではないような気もしますが」

「一応アイツも佐多のコンバートにいっちょ噛みしてるし、才能を見る目と、それを伸ばす手段を持ってる人材だ。選手としての実績は確かにまぁハナクソみてぇなもんかもしれんけど、指導者としての資質はあるように思うがね」


佐多のコンバートに絡んだ、というのを聞き、会議室がざわめく。

今季ベストナインを獲得した若武者の転身と躍進はそれほどに大きなインパクトがあった。


「あ、そうそう!一応、2軍の成果物として!今季途中からセンターに定着した長岡!先発としてそこそこ投げた岡と徳永!第2捕手兼抑え捕手の一色!この辺りを主張しときます!あとアレね!土井と金子!」


そこまで言って蜷川がマイクを手放す。

その後は指導者人事、事務及び裏方の人事、補強対象などについて、侃侃諤諤に論が交わされた。

ひとしきりそれらが飛び交い、会議は実に3時間に及んだ。

チーム強化の最高責任者であるGMの扇が最後に取りまとめて、決議を取る。


「え〜。長らくの会議お疲れ様でした。まず、現役選手からの補強方針としては投手中心。FAで出てくるだろう選手としては、これ目玉になるでしょうけど、ゆら川の原選手の獲得を目指す、と。で、ドラフトですね。ドラ1入札は去年と同じく当日決めるとして、基本線は野手。特に長打力のある選手獲ろうと。上位でも下位でもそういう方向でよろしいでしょうか」


肯定の拍手が鳴る。


「では、これにて令和7年度京央ネイビークロウズ第3四半期編成会議を終了と致します。今回話の中に出てきました各種人事につきましては、編成部より稟議の上、水尾社長の決裁を以て確定としますので、公式な発表までは他言無用でお願いします。長時間お疲れ様でした」

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