10/2 対ゆら川レイダース 第26回戦
武田克虎にとって、移籍して来るまでのコ・リーグとは、退屈な"クリア後の世界"でしかなかった。
鍛え上げ、いじめ抜いた己の制圧能力にチームメイトがついて来れなくなった時。
己が登板した際に、敵チームのファンが肩を落としながら帰るのを視界に捉えた時。
圧倒的な愉悦と共に感じる寂寥感。レベリングをしすぎてラスボスをあっさりと倒せてしまった時のそれに近い感情が、6年目、齢28の折、彼を覆った。
海を渡ることも考えた。オ・リーグに己と同じレベルで野球をやれる者はもういない、それが武田の出した結論だった。だからこそ、国内も海外も視界に入れつつ、FA権の行使について考えを巡らせ続けた。
そして、31になる年、国内FA権取得、行使。球団からは年俸やその言動から、早く出て行けと言わんばかりの態度を取られており、それを考えると潮時ではあった。
優勝もした、セーブ王も取った、あと自分が達成していない事はなんなのか。もはや洛園に答えはない。新天地へと旅立つことに、躊躇いはなかった。未練があるとすれば、力勝負がなくなる事くらいか。そう考えつつ、武田はクロウズへの移籍を決めた。
磨き上げた肉体による力のぶつけ合いが無くなるのは残念だと思いつつも、オ・リーグで鍛え上げた能力に、コ・リーグ風情がどこまで食らいついて来るものか。そんな傲慢さすら携えていたが、一緒に移籍した投手コーチの宇多、監督の吉永、そして久松がそれらを吹き飛ばした。
後輩育成、突飛な選手起用と巧みな情報戦略、そして、それを実現せしめる特異な適性と頑丈さ。
"クリア後の世界"は、未知と希望に溢れていた。故にこそ、武田は武田なりにクロウズを愛している。
一色を小僧と呼びながらもその捕手としての才を認めて指導しているし、久松のみならず、他のリリーバー達にも彼なりにではあるが気配りを欠かさない。
敵味方なく、力と力の勝負は大好物だし、それはそれとして、奇策も伏兵の一撃も彼にとっては大好物だからだ。
「(何とか間に合いそうだな)」
シーズン最終戦、9回裏のマウンドに立つ武田は手のひらでボールを擦りながら右の口角だけを器用に上げる。
35戦目の登板、例年よりも20ほど少なくなったゲーム参加に思うところがないわけではないが、さりとて不満と言うほどでもなかった。
全ては1人の男の存在があるため。
「(久松よ。不肖などとはもはや言えぬ、誇るべき我が弟子よ。あの起用から最多セーブとは驚いた。よくぞやった!)」
心からの賞賛だった。43登板、129イニングを消化し、防御率は2.09、124奪三振。中継ぎとも先発とも言い難い異次元の成績を残した久松を、武田は誰ともなくそう労う。
「(弟子の成長とその爪痕に喜ばぬ師は居るまいが…。しかしそれをすんなり免許皆伝としてしまう師もまた居るまい)」
木内と久松が27セーブでトップタイ。武田は26セーブで、それこそこの登板で抑えれば3雄並び立ってのセーブ王となる。
前々から認めこそすれど、負けているつもりは毛頭ない。遂行する役割が違うからこそ、分け合える勲章の数で抜きん出らせる訳には行かないと武田は考えていた。
全力でやって負けるのは好きだ。美しい。清々しくて気持ち、がいい。
だが、負けてやるのは嫌いだ。相手と己の誇りに、成果に、しょうもない傷をつけるだけで、何よりちっとも気持ちよくないからね。
ルーティンの瞑想、両の手をホームの方に向けての深呼吸を行ったあと、目をかっ開き、武田は獰猛に笑う。
ゆら川の攻撃は森田、後藤、明石から。3、4、5のクリーンナップが直撃する巡り合わせであっても、武田は全く意に介さない。
2-1と拮抗した状況の中、守備の舵を取る一色は、初球にストレートを要求した。
「ストライーッ」
153km/hの真っ直ぐに、森田のバットは空を斬る。しかし、森田の反応などほとんど見ずに、一色は機械的にサインを出す。
武田がそうしろと言っていたのもあるが、パターン化された配球でも、ほとんどの選手が武田の球を打てないと一色が考えているからだ。
スライダー、ストレート、フォーク。2から4球目までをほぼノータイムでサイン交換し結果三振に仕留める。
久松とは対極にある圧倒的なパワーで押すピッチング。付言すると、武田から一色への指導は、理屈と経験に裏打ちされたそれで行われている。パターン配球は一色に対し、初球である程度打者の力量を見定める、という課題を与えているからそうなっているだけの話だ。
「ハッハァーッ!」
三振を取った武田は、一際大きく笑う。
クローザーを意味する言葉には幾つかあるが、最もポピュラーなのは守護神だろう。
しかし武田は、自らが守護神と呼ばれるのをあまり好まない。
曰く、神は敵の苦境を笑わないからだと。そして、そもそも神が笑いかけるなど恩寵である、敵に恩寵を与えるものか、とそう言ったらしい。翻って、大魔王ならば、敵の苦境も己の窮地も喜んで呵々大笑するだろう、とも言ったと。
これを聞いた十川と一色は呆れてものも言えなかったという。
荒ぶるクローザーを前に、さしもの今季コ・リーグ優勝チームも抗しきれず、こうして武田は27セーブ目を挙げた。
貯金11を持っての3位、タイトル獲得者2人、ベストナイン選出2人を擁し、ネイビークロウズ躍進の証は示された。
諸事情あって5/26夕方以降に久松の成績詳細等を記載します。
ご了承下さい。
5/26 追記
久松の成績(2025年度)
登板数:43 投球回数:129.0 27セーブ(コ・リーグ最多セーブタイ) 防御率:2.09
奪三振:124 四死球:27 失点32 自責点:30 被安打:61 被本塁打:16
武田の能力値
右右 32歳 球速157km/h コンC60スタC62
スラ3フォーク5スプリット2シンカー2
対ピンチB 対左E 打たれ強さC クイックF 回復A
威圧感 重い球 奪三振




