7/21〜24 ソーダイオールスター コンチネントVSオーシャン⑤
「放送席、放送席。今、ちょうど投げ終えた久松投手に来ていただきました。えー、お疲れ様でした」
「あー、はい。ありがとうございます」
ど、どうして。
投げ終わった俺はさっさとアイシングしようとベンチ裏へ下がったはずだった。目につかないよう早足で歩いていたのだが、普通にJCBLの職員に捕まって、そのまま現在に至る。
三谷アナがインタビュアーで、そのまま実況と解説とも受け答えをするらしい。
「まずは三者三振ナイスピッチングでした。初めてのオールスターというのもそうですが、どうでしたか?」
「…えぇ、まぁ。いつもと変わらず投げられたと思います」
武田さんにまた色々言われたくないので、なるだけ硬めな表情と声色で回答する。
個人的な考えとしては、オールスターなのだし、多少しっかりとした受け答えをするのは寧ろ義務とすら思っているが、この辺りの均衡というのがどうしてもわからない。元々表に出てた選手でもなし、そのあたりは別に気にされないし注目もないと思うから俺の塩梅でいいのだろうが。
「お疲れ様です久松さん、今日実況担当の太田です。私どもからも少しインタビューよろしいです?」
「はい」
「えー、まず、今回は先発として1イニング投げられましたが、シーズン中とは違う起用でしたよね。その辺りどうでしたか?」
どうでしたか、ってなんだよ。さっきも似たようなこと聞かんかったか?
…と、考えこそすれど、それを言うわけにもいかず、俺は持ってまわった答えをする。
「何も変わりません。いつもと同じように投げました」
太田アナは、なるほど、と言うと一旦口を閉じた。
終わったかなぁと淡い希望を一瞬抱いたが、今度は解説の間瀬さんがしわがれた声を出す。
「久松選手お疲れ様でした。私からも一つねぇ、聞きたいんだけども。初球あなたスローカーブ投げたでしょ?あれは、元々の持ち球な訳?」
「はい。高校の頃に少しだけ投げてました。出し物として投げる分にはまぁ使えるかなと思ったので今回使わせていただきました」
嘘である。あんなもん生涯通して一回も投げた事はない。だが、投げ慣れてる感を出しとけば勝手に相手が警戒してくれるかもしれない。そんなこっすい考えのもとさらっと嘘をついた。
別に調べていただいても構わないが、地方弱小校から地方大学リーグを経てドラ7で入ったような選手のデータなどまともに残っているはずがない。もちろん、芳賀さんと原さんにはバレてるのでほぼほぼ通らないハッタリだが、まぁこういうパチはこき得だし、上手くいけば御の字くらいに考えている。
「ふぅん。結構良さそうだったけど、それを実戦で使わないのはどうしてなの?」
「カーブ系は被弾リスクが高いですし、元々自分の被本塁打率が高いのでその辺を考慮して投げていませんでした。あとは、単純に使える球だと思っていないのもあります」
半分ほんとで半分は嘘である。
クローザー格の選手が、ホームランリスクを嫌ってカーブ系を投げたがらないというのはよく言われている。実際、肩口から入るカーブはほぼど真ん中に行くことが確定しているし、カーブだと理解した瞬間ぶん回してくるバッターも結構いる。
ただ、ストレートの質が良化、高速化するならば手札の一つとして数える事は出来るようになる。ただし、どうやったって銀の弾丸になれるかどうかという立場ではあるが。
「あぁ、そうか。それはあるよねぇ。なんか話聞いたり投球見たりしてると先発でも行ける感じがするけど、その辺りは?」
「今の起用で数字が出てますからそれでいいと思います。どこであっても押し切るだけなのでやる事は変わらないですね」
よく聞かれるそれに、俺は淡々と返す。
すると間瀬解説員は少しだけ怪訝そうに、そんなもんなのかな、と言った。他所から見たら色々思うところあるんだろうな、と俺が考えていると、太田アナが再び話しだす。
「久松選手、ちょうど今同僚の佐多選手がオールスター初出場で初ヒットを放ちましたが、それについてコメントをいただけますか?」
「はい。彼が苦しんでいるところを見てきたので、野手という形ではありますが、活躍してるのは嬉しいですし、頑張ってほしいなと思います」
「お疲れのところありがとうございました。久松敬選手でした」
ようやく終わった。カメラの画角からそそくさと外れると、一つ背伸びをして、大きく息を吐く。
にしても、佐多打ったのか。やっぱ2000本打つだけあってすげぇなぁと、遠くへ行ってしまいそうな後輩の活躍に思いを馳せる。
オールスターも出て2000本も打ってとなるとやはり果ては功労者、レジェンド扱いだろうか。
自分がそうなりたいとは思わないが、それの階に爪先だけながらかけることが出来ていると思うと、俺自身もよくここまで来たもんだと思えてしまう。
これ以上の伸び代や上振れががあるのかは怪しいところだが、俺にしては良くやっているだろ。なんて柄にもなく自賛して腕を回す。もう一つ息をついたところで、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「お疲れ久松くん。スローカーブよかったな」
「あ、原さん。ありがとうございます。抜けないか心配でした」
原さんの労いに、俺は頭の後ろに手をやりながら返事する。
「真っ直ぐもよう走っとったっちゃっない?どっちにしてもよう投げたねぇ」
「そう、ですね。ここんとこのボールの中ではかなり良かったですかね」
「腕の振りを修正するためにカーブ投げる人もおっとさね。そういう意味ではあのスローカーブは効いたんかもな」
はえーそんなのが。そう思いつつ原さんを見ると、腕組みをしながら、うんうんと頷いていた。そして、俺にこう提案する。
「ひとまず復調の一歩ってとこかね?あ、そう。無理があったとはいえ、カット教えきれとらんし、おいはおいで来年どがんなるかわからんけんが誘うとけどな?シーズン終わったら一緒に自主トレせん?」
「えっ!いいんですか?」
「うん。おい、知り合いに左のピッチャーが少なかけんがさぁ、ちょっと困っとったんよ。しかも退団するけん、チームの若手やら誘うのもな〜と。そったら久松くんがここにおるやん?な?」
な?と言われても。いや嬉しいしありがたいのだが。
まぁまぁまぁ、なんにせよ、なんにせよだ。こんな機会滅多にない上、俺にとっても人脈を広げる良い機会。
「是非ご一緒させてください」
俺は一も二もなくこれに返事をした。
…なんかどんどんちょっと年上くらいの師匠が増えている気がしたが、気にしない事にした。




