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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
2年目(久松プロ5年目)
60/141

5/4 対浜名タイダルウェーブ 第6回戦

ようやくひと月目が終わった。

3・4月は9試合に登板し6セーブ。27イニング投げ、失点は3。上々と言っていいだろう。疲労軽減の為か、中4を1回挟んだが、だからどうこうという事はなかった。

チームもなんだかんだで貯金1。始まったばかりでスパートをかける時期でもないし、借金を背負ってないのは良い事である。

加えて、ローテの巡りが良かった十川さんが4勝1敗をマークし、ハーラートップを走っている。30イニング消化で防御率は1.50、月間MVPを獲得するなど、エースの格を見せつけた。


とはいえ、良いニュースばかりではない。

5月に入り目下3連敗中の我がチームだが、初勝利以後爆発を繰り返した中川が2軍降格となったり、野口さんや一宮が不調期に入りつつあるなど、歯車に一部軋みが伺える。全てが順風満帆に行く訳がない。ただ、ガス欠だとするなら少し早いとは思う。

もちろん、この事態に首脳陣は対応を見せている。中川の代わりには、本来のローテ候補と目されながら負傷離脱していた安見さんを昇格させたし、不調の2選手は、下位に置いて、プレッシャーなく自由に振らせる事で復調を促す形をとった。

ちなみに今日の先発は安見さん。今シーズン初登板で、ローテの流れから行くと俺の登板日でもある。


「トライッアウッ!」


安見さんは、病み上がり故か6回4失点とやや振るわない結果だったが、なんとか踏ん張ってくれた。その後を受けた俺は、相手の先頭を三振に切って取る。投じたクロスファイアに打者が驚いたような顔をしていた。どうも安見さんが本調子じゃないあまり、俺のボールが早く見えたらしい。

さて、ひと月あれば、定期的に出てくる俺に対し流石に対策が幾つか出てくるのだろう。今退けたバッターも含め、タイダルウェーブはこれみよがしにそれを取ってきている。


「バッター、安倍に変わりまして、牧野。背番号48」


タイダルウェーブの水野監督が、ニヤリと笑みを浮かべ、右の牧野を繰り出してきた。…8-4の4点差、1番に座る左の安倍に代えて、である。

こう言ってはなんだが、その、俺はどちらかというと右打者の方が成績がいい。アームアングルも、恐らくだが、別に右の方が見やすいとかはないだろう。まぁ、あとは言うまでもあるまい。


「トライーッ!」


見下ろして投げる、とはこういう事かとばかりに、俺は右打者の膝下目掛けてストレートをガンガン放る。正直上位から始まろうが代打が出てこようが関係ない。

セットポジションからサインを見るたび、打者が、じり、と後ろに下がっているような気がする。ストレートに合わせて待つならば、確かにボックスの後ろに立つのは合理的だ。が、こちらはそれを見た以上、カーブやチェンジアップを投げて当てさせないだけの話になる。

以後、なんか知らんがどいつもこいつもやたらめったら後ろに立つので、チェンジアップとカーブで面白いように空振りが取れた。

コースヒットはあれど、3回無失点。今季最多となる7奪三振を記録し、7セーブ目を挙げた。

いつも通りさっと引き上げようとしたところ、広報の上田さんが俺を引き留める。

あっ、ヒーローインタビュー…。俺が…?


「放送席、放送席。そして、ネイビークロウズファンの皆様お待たせいたしました!ヒーローインタビューです!今日のヒーローは、4打数4安打5打点をマーク!池田公正選手です!ナイスバッティングでした!」

「ありがとございまーす」


インタビュアーの男性と池田が、こう、間延びした口調でやり取りをする。

ホームのヒーローインタビューは、たまーにこうして2、3人呼ぶのだが、まさか俺が呼ばれるとは。

何聞かれるのか見当もつかないまま、池田への質問が終わる。

こいつなんも考えずにポンポン答えるから速攻終わったじゃんオイ!なんか、この辺ストレート来るかな〜とか思って振ったら入りました〜、じゃねぇんだよ!


「池田選手、ありがとうございました!そして今日はもう1人!3連敗ストップにも大きく貢献し、今季最多、7奪三振を記録しました、久松敬投手です!ナイスピッチングでした!」

「ありがとうございます」


努めて冷静に、抑揚なく言葉を発する。

こういう時にいつも武田さんの教えと顔が過ぎるのはありがたい。差し引きキツいが勝つのは勘弁してほしいが。


「今年は武田選手と、変則的ながらダブルストッパーとして起用されて、大変素晴らしい活躍ですが、好調の要因は何でしょう!」


こ、答えづらい。ファンを盛り上げなくてはならないが、自分の事をベラベラ喋るのは、威圧的なイメージを損ねるし、他のチームが何をヒントにするかもわからない。わからないが、黙りこくる訳にもいかない。


「…そうですね。監督やコーチ、先輩達からの助言を活かせているからだと思います」


喋りながら思考を回す。多分次はどんな助言?とか誰に言われた?とかになるだろう。

インタビュアーも条件は同じだ。プロだけあってある程度定型がありつつも、喋りながら回しているはず。

こっちの回答で質問をコントロールする。


「そうですか!どんな助言をいただきましたか?」

「そう、ですね。体のケアだとか、メンタル的な事だとかですね」


限られた時間でやり取りをする以上、具体的な回答が欲しいはすだ。一つあれば、それが落とし所になるだろう。

基本は曖昧にして、盛り上がりそうなところはしっかりはっきり言う。よし、方針は出来た。あとは聞かれる事次第だ。


「なるほど!今出たメンタル的なところに関してお伺いします!新しい立場で大変かと思いますが、どんなお気持ちでマウンドに立たれていますか?」

「そうですね。僕も武田さんに負けないように、そして、僕が投げる3イニングで逆転はない、と相手チームに思わせられるようなピッチングをしようと考えて投げています」


スタンドから歓声が上がる。よかった、なんとかうまくいったようだ。


「ありがとうございます!そして!実は久松選手、プロに入ってから初めてのお立ち台という事です!どうですか!」

「…えぇ、大変嬉しいです。また呼んでもらえるよう頑張ります」

「そして、なんと!同期コンビでのお立ち台も当然!初めて!お二人どうですか!」


もう一度歓声が上がる。どうですかってなんだよ。


「最高でーす!」


池田の返事に会場が沸く。お前頭空っぽか?このあとちゃんと喋るの嫌すぎる。

加えて、不仲に取られてしまうような発言も出来ない。だから適当に腐して誤魔化すのも悪手となる。いやぁ、めっちゃめんどくさい。


「えー…。嬉しいです。池田が点を取ったら僕が必ず抑える、そういう良いジンクスを確立して行きたいと、思います」


ややぎこちなくなったという自覚はあるが、とりあえずはこれで良いだろう。


「ありがとうございました!今日のヒーローは池田公正選手、そして久松敬選手でした!」


壇場で脱帽し、三方に会釈をしたあと、ベンチに戻る。気づくと、足がわずかに震えていた。疲れは感じていないし、お立ち台に立った緊張だろうと、労うようにポンと叩く。仮に疲れだったとしても、1月ちょっと投げたくらいでもう疲れただなんて言えないし思えない。

ふっと息を大きく吐きながら、俺はもう一度足を軽く叩き、ベンチを後にする。


後日、広報の上田さんからはちょっと愛想なさすぎたね?と言われ、武田さんからはもう少し抑えめにしろと言われた。

どうすりゃよかったんだ…。

久松の成績(5/4終了時点)


登板数:10 投球回数:30 奪三振:37 四死球:5 防御率:0.90 7セーブ

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