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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
2年目(久松プロ5年目)
56/141

3/28 インタビュー

「放送席、放送席。そして全国のクロウズファンの皆様お待たせいたしました。ヒーローインタビューです。今日のヒーローは6回無失点、そして、プロ初開幕投手で勝ち星を挙げました、荒木豪道選手です!ナイスピッチングでした!」

「ありがとうございます」

「えーまず今日の調子について…」


場内に響き渡る荒木のインタビューを背に、俺は着替えを早々に済ませると、宇多コーチや楠木コーチにクールダウンの仕方を確認する為ロッカールームを出る。

何せ初めてのこと、どうしたものかわからないのでやや足早になっていたのだが、ここで呼び止められる。


「久松選手!お疲れのところ申し訳ありませんがお話伺えますか?」

「あー…。菅、さんでしたっけ」


間の悪い事だと思う。

自主トレからどうも俺をマークしているらしい、関東スポーツの菅記者だった。

俺が探り探りという様子で名前を言うと、にこりと表情を作り、ブンヤの決まり文句を言った。


「お時間は取らせませんので」

「はは、今日はちょっとねぇ…」


取り繕う事なく、俺は眉間に皺を寄せ、自分より15から20センチは低いだろう女の額を見下ろす。視界の端にぼんやりと見える表情が、まぁそう言わずといわんばかり、柔和ながら攻撃的なそれに見えた。

目を合わせたら勝手に取材が始まるが、あんまり無碍にしすぎると今度は有る事無い事書かれて御厄介な話になったりもする。

さて、どうしたものかと思っていた時、思わぬ助け舟が現れた。


「おお久松ッ。こんなところで何をしている?あいや、せっかくの取材、しかも女性記者とのやりとりを邪魔して悪いがァ…」

「武田さん」


良いところに。なんとか言ってやって下さいこの人に。ぶっちゃけ疲れてるしさっさとケア済ませたいしで困ってるんすわ。


「今このタイミング、荒木に群がるのが普通の記者だが…。なるほど貴女は見所や勘所がわかっているようだなァ…。ン素晴らしいッ。クローザーに注目する、というのは大変良い着眼点だ」

「ありがとうございます。せっかくですから、武田さんにも今回の久松選手の投球について…」


ここぞと虎口に攻め入ろうとした菅記者だったが、武田さんはすかさず門を閉める。


「語りたいのは山々…、いや本当に山々だがね。なにぶん、この武田克虎にとっても初めて見るセーブの挙げ方だ。ケアを最優先にさせてやりたいのだよ。それに、今回のセーブについては、まず我が弟子久松と一通り語らってからこそ話せるものだろうからなァ。すまないが勘弁してやってくれ。実際死ぬほど疲れているだろうし、な」


えっ、すげぇ。この手の援軍で本当に味方らしい行動とってくれる事あるんだ。

などと考えている間にも、菅記者は食い下がる。


「そこをどうか…。ほんとに一言だけでいいんです」


…気持ちはわからんでもないんだけどな。だが、俺もそんなに余裕のある人間ではないので。


「…すいません。勘弁してください。明日なら受けますから。今日はもう帰ってもらって」


菅記者の返事を待たずにその場を離れる。

聞こえた声には聞こえないフリ。本当に話を聞きたかったら明日でも来るだろ。もう知らん。


「…良い表情だ」


なんでかついて来た武田さんが、粘っこくそう言った。


「なんで居られるので…?」

「俺とはクールダウンしながらでも語らえるだろう!いやさ、まずは見事ッ!あの様な形でのセーブ、俺は初めて見たぞ!我が弟子よ、よくぞやった!」


なんかさっきもしれっと言ってたけど…。弟子入りしてないと思うなぁ俺。


「弟子入りした覚えはありませんが…。あ、でも武田さんのお陰で冷静になれたのは確かです。ありがとうございました」

「うむ、師として鼻が高いッ。…時にあれは、事前に決まっていた起用か?」


…まぁいずれ分かる事だし、池田にも少し話したのだ。多分話しても問題ないだろう。


「3イニングクローザーッ…?!俺が想像だにしなかったセーブの形がある、と!?」

「ええまぁ…。規定に書いてありますから…」

「…それは、首脳陣がお前にやれと言ったのか?」


やや戸惑いつつも武田さんがそう聞いてくるので、俺は、はい、とだけ返した。


「そうか。それがお前に課された役割なのだな。良い。良いな。与えられた何かを全うするというのは尊い事だ。そして何より良かったのはッ!143あるリーグ戦のドアタマで、しかも1度の登板3イニングも投げようかという男がッ!後先考えずなりふり構わず全力で打者を打ち取ったッ!この効率と合理の坩堝たる現代プロ野球にあって、実に武骨ではないか!」


多分、喋るたびにズキュゥゥゥンみたいな効果音が振られている。コミカルで仰々しいが、これが武田さんなりの讃美なのだろうというのは理解できる。


「俺はこう見えて、お前の様に与えられた役割を全うしようとする姿を大変好ましく思うたちでな。すまないが、ついパトスが込み上げてしまったッ…。だが、弟子よ。不肖の弟子よ。不満やら悪態やら、思う所あるだろう。ないにしても、疑問などもあるだろう。或いはッ、これから出てくるやもしれん!」


初めて会った時と同じような話ぶり。澄んだ説法という説明で正しいのかはわからないが、そんな感じのそれを武田さんは続ける。


「それらは、あって良い。体の裡で燃やしておけるならそれでいい。外に出さなければ堪らないならそれでいい。悪い我を自分の中に持っておけ。出せる時に出せ。人間はそういうモノを恐れる。前にも言ったな?気持ちの揺らぎの話だ。困惑、動揺。それらは当然体を硬直せしめるものである。自分の悪感情を巧く使え」


簡単に言えば、機嫌の悪い上司が目の前にいると嫌だよね、に近いだろうか。機先を制すための術を教えてくれた武田さんは、更に、と付け加える。


「目は口ほどに物を言う、などと言われるなァ?存外これはその通りで、クローザーとしては必要なスキルになる。さっきの記者を見るあの目。お前の全てに興味がない、時間を割きたくないと言わんばかりのあの目。あれは、あれは良かった。あれを意識的に出来るようになれ。いわゆる、威圧感と呼ばれるものに繋がるからな」


目つきについては佐多に以前言われた事があったなぁとぼんやり思う。あれが武器になるのか。だとしたら安上がりで良い事だと呑気に思う。


「あ、正味女性にしていい顔ではなかったから、そこは気をつけた方が良いだろう」

「そんなやばい顔でした?」

「俺すら少し気圧されたぞ」


翌日本当に取材に来た菅記者には、丁寧に詫びた上で答えられる事にはあらかた答えた。無論というか、武田さんへの弟子入りも含め色々聞かれた。

最後にこちらから一つ聞いても?というと二つ返事で了承された。


「…取材断る時の顔やばかったって武田さんから言われましたけど、そんなにでした?」

「…結構…」


まぁその、出しどころには気をつけようと思う。

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