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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
2年目(久松プロ5年目)
50/141

2/22 対ノシマファルコンズ(オープン戦)

とうとうオープン戦が始まった。冬の寒さはまだまだ和らぐ事を知らないが、春自体はすぐそこまで来ているらしい。

初戦はノシマファルコンズとの対戦になる。地元球団だが、帝東が強かったり放映も多かったりで実はそこまで情がなかったりする。

そして、今日も俺が先発だ。本当に徹底していてこちらの方が不安になるくらいだが、吉永監督の方は泰然としてかわりない。

やや緊張しつつ、俺はブルペンで池田相手にボールを放った。ただの練習試合とオープン戦では少し重みが違う。非公式戦ではあるのだが、今年一年を占う登板であるのは間違いないのでそういう意味も含んでいる。

肩慣らしを終え、僅かな震えを見せる指先。寄って来た池田はそれを見てこう言った。


「武者震いか」


こいつにしては気のある言い回しだなと思いつつ、軽い声色で返す。


「そんなにいいピッチャーじゃねぇよ」

「良くなってる自覚はあるだろ。実際球は去年に比べて相当走ってる。震えるほど緊張すんな。ちゃんと通用する。ダメだったらそんときゃ俺がその分打つからよ」


選手としてはこれ以上ない能力を持っているのは知っていたので、そういう意味では頼っていたが、初めて、そういう能力ではなくこいつの言葉に勇気をもらった気がする。


「良いこと言うな。何参考にしたんだよ」


感心し、そう聞く。佐多の事も引きずってたし芳賀さんにも色々アドバイスされたんだろうな。気は合わんが努力しててすげぇなと口には出さないがそう思う。


「漫画」


お前さぁ。



オープン戦開幕投手にやや気負いはあったが、1、2イニングとすんなり打ち取り、ベンチへと帰る。2回裏の時点でスコアは3-0。野口さん佐多アダメス池田で固めた上位陣がつるべ打ち。しっかりと先制しプレッシャーをかける事に成功している。

軽く水分補給をと思いながら腰掛けたところに宇田さんがやって来て小さく耳打ちした。


「…久松。今日は4回までいくよ」


ここまで来ると俺の方も興が乗る。ブラフも大詰め、2リーグ全体に先発久松という影を浸透させるのだ。

どこが釣れるかはわからないが、意識してもらえた時点で作戦成功でもあるので、他球団の動き自体は気にしないでも良いだろう。

1年前までミソッカスみたいなピッチャーだった俺が、起用一つでみんなを踊らせられるのだと思うと御の字ゴキゲンだ。

心持ちとしては上々のまま、3回も抑え、とうとう今日のカンバンである4回を迎えた。

未だ無失点ではあるが、この回は2番の戸田から始まる打順だった。ファルコンズといえば貧打が課題のチームなわけだが、今年は野手ドラフトを敢行。目玉である堀江を逃したものの、ドラ1で西日本屈指の大学生スラッガー木嶋、ドラ3で東名鉄鋼から今打席に立っている戸田、ドラ4で讃州大の桑名を獲得し、そして、この3人が2〜4で並んでいると言うわけだ。

今季では未知の領域となる4回、1回りしたとはいえ、未だベールに包まれているルーキー3人衆の一を相手に、池田が要求して来たのはスライダーだ。


「ボォールッ」


抜けたボールが高めに大きく外れる。顔にこそ出さないが、あんまり良くない。一回りが限界と思われてもスタミナが足りてないと思われてもつけ込まれるし、俺が後ろで投げると考えさせる要素になってしまう。

だが、今の俺はこういう時に一旦ストレートに戻れる。池田も分かっていたのか、そのサインを出して来た。

138と出力はまだまだだが、イニングを投げたにしては悪くない球筋でストライクゾーンを通る。戸田は手を出して来たがポップフライになった。


「オッケイワンナウト!」


池田がそんな風に声をかけてくる。

続くのは3番の桑名。ドラ4ながら自分より上位の同期の後ろ、しかもクリーンナップに座るあたり、打力には相当のものがありそうだ。

が、面白かったのが池田の配給だ。

なんと5連続のストレート要求。そして三振。全部頷いた上で後から聞いたら、長いイニング投げても出力が落ちてないかの確認だったらしい。

桑名は確かに鋭いスイングをしていたが、俺のストレートにやや差され気味で、ファールにするのがようやっとという様子だった。

そして、問題の男。


「4番サード木嶋。背番号、25」


ウグイス嬢の声が風に揺れる。その声の後、185cm、体重102kgの巨体が悠然と右打席で構える。

いわゆる神主打法のようにベースへと伸びたバットは長いようにも短いようにも見えた。

構えの深さの割にインコースを得意とするバッターが多い印象だが、それでいて外にバットが届かない訳でもない。攻め所がなかなか見当のつかず、厄介だ。


「(初球シンカーね。外目に投げろと。追い込んでからの方が有効なのは分かった上でのバックドア要求だろうし、乗ってみるか)」


そう考えながら投じたシンカーは、逆球になりインコースベルト高へと吸い込まれる。


「ヤッ…ベ」


鋭い音がグラウンドに響く。角度、勢い共に申し分ない打球だったが、運良く寒風がこれを押し流す。レフトポールを巻く前にそれたボールは観客席へと突き刺さった。肝の冷える事この上ない打球だ。


「だーいじょーぶ。ファールオッケファールオッケ」


池田がそう言って審判からボールをもらいこちらに投げてくる。

山なりで投げて来た分、文字通り一息つくだけの時間があった。酸素を脳に巡らし、思考を整える。


「(インの落ち球を捉えに来るあたり、反応は良さそうだ。タイミング的にはストレート対応主眼臭いな。ツーシームあたりまでは手を出して来そうだけど今ので待ち方を変えてくるか。となるとスライダー?もしくはもっかいシンカー…。というかルーキー相手にかわしに行きすぎか?一周回ってストレートもアリな気がして来たが…)」


考えに考え、一旦やめる。俺の視点では同じ球速帯のボールかストレートを投じたいところだが、池田の見解はどうだろう。


「(…なるほどチェンジアップ!シンカーに続きより遅い球を投げ、止めに速球てプランか!三振までは見込んでなかったからそれを考えれば確かに投げどきかもしれん!)」


池田のサインに頷くと、俺は思いっきり腕を振る。腕の振りに対し全く近づいてこないボールを、待ち切ることができず、木嶋のバットが風切り音を唸らせる。そして肝要なのはここだ。

バッターに立て直す暇を与えず、最高速度を叩き込む。


「ストライッ!」


十川さんから唯一褒められたクロスファイアが木嶋の腹元を抉る。木嶋はこれに反応できなかったようで、俺がマウンドから降りた辺りでようやく天を仰いでいた。

いくらドラ1といえど、こちらは5年目。ルーキーに簡単に打たれるわけには行かないところでもあり、なんとかメンツを保てた俺は、多分初めて池田とグータッチを交わす。


「ナイピ。良い感じだった」

「チェンジアップマジで頭になかったわ。あそこは本当に助かった。ナイスリード」


そういうと、池田がミットで俺のケツを叩く。

それを弾き返し、俺はアイシングとクールダウンに向かった。

開幕まであと多くてもあと3登板くらい。じわじわとこみあげる緊張感に呑まれないよう、小さく柏手を一つ打った。

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