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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
2年目(久松プロ5年目)
49/141

2/1〜 春季キャンプ⑥

第3クールになると、対外試合も入ってくる。今回の相手である洛園ノーブルナイツに投げるのは多分5〜6回目くらいだ。

武田さんがいたチームであり、追い出す、という表現を宇多さんは使ったが、守護神をあっさり放出出来る程度には分厚い層を持つ、昨年のオリーグチャンピオンチームでもある。

無論、その陰には水準以上の打線が構えているのも忘れてはならない。

1番は前野。以前サヨナラホームランを浴びた相手だ。意趣返し、とまでは行かないだろうがそれなりの結果を残したい。


「プレイッ」


アンパイアがコールをし、試合が始まる。

今日の捕手は一色で、ここまで2軍に送られる事なく行程を消化して来ているあたり、期待されているし、力をつけて来ているのが伺える。

本人にとっても自信になっているようで、その球種選択とサイン交換は早い。


「ボォッ」


初球要求されたのはツーシームだった。やや引っかかった137キロのボールは、外低めに大きく外れ、ワンバウンドする。

こともなげにそれを処理した一色は、いつもと変わらない様子で俺に返球すると、すぐさま次のサインを出した。


「ファールッ」


一塁塁審が手を挙げる。外低めを目掛けて投げたストレートはやや浮き、甘めのコースに吸い込まれた。前野はそれを引っ張りにかかり、ハードな当たりではあったものの、ギリギリラインの外側に転がってくれた。

さて、速球2枚使ってカウントは1-1。速い球への対応は余裕があると見たが、一色は何を使うだろうか。


「(もっかいツーシーム?)」


何か意図があるのだろう、俺の視線に対し一色は頷いた。なるほど、じゃあまぁそうしてみよう。

投じたツーシームを捉えた前野は、すぐさま一塁へ向けて走り出す。真ん中低めからバッターの方に沈んだボールは、バットの下を潜り抜ける事が出来ず、ボテボテのゴロになった。こうなると俊足左打者の足を止められずアンラッキーなヒット。打ち取った当たりではあるが、ファールも含め思いの外振れている感じがした。

1番だけが振れているかと言われると恐らくそんなことはない。チーム全体で振り込んできているだろう。

そう思いながらセットに入る。前野はやや大きめながらも決して出過ぎている訳ではないリードを取りつつ、こちらの様子を伺う。

プレートを外しながら投げない牽制で動きを見る。特筆すべきこと無し。クイックモーションでストレートを投げ込む。


「オッケ!球走ってますよ!」


外いっぱいの真っ直ぐでストライクを取った俺に、一色はすぐさまサインを出して来た。


「(カーブか。盗塁いいのか?)」


刺す自信があるか走らないという読みがあるのだろう。さっきの声かけ。ブラフに使う気か?あるいは言外にバッター勝負に集中と言いたかったのだろうか。一瞬のうちに色々考えたが、多少走られようと打者を打ち取る事が肝心と、俺はそのサインに首肯した。


なんだかんだ後続は断つ事には成功し、無失点で切り抜けられはしたのが幸いだ。投げたのはストレートとツーシームとカーブだけ。三振を一つ取ったが、いつもならチェンジアップの所をカーブでスイングさせてのものだった。8割ストレートツーシームで、残りがカーブという配球。少し印象的だと思い、ベンチに戻ってすぐ一色に話しかける。


「今日は真っ直ぐ軸?」

「ていうよりは、ちょっと気になった事がありまして」


一色がそんな風に言う。


「なんかおかしなところあった?」

「おかしい訳じゃないんですけどコマンドの部分で…。ヒサさんここんとこストレートはバチバチ決まってるんですけど、ツーシームがちょっとおざなりかも?と思っててですね。指に引っかかり過ぎてるんじゃないかと」

「確かにちょっと引っかかったな」

「はい。ていうのもあって、指先の感覚とか確認しながら投げてもらおうかと。なんでさっきの回は真っ直ぐ多めにしました。カーブで腕の抜き方と振りを整えてもらいつつ、ですね。チェンジアップは腕の振りが真っ直ぐと一緒で、多分これがあんま良くないんで使わない方向を考えてます。どうします?この感じで次もいきますか?」

「あー、ならちょっといい?曲がらん前提で投げるからあれだけど、カット混ぜたい」

「わかりました。曲がればツーシームと対になるしちょうどいいかもですね。ストレートとツーシーム、それからカーブカッターで回してみましょう」


池田っぽい配球だと思ったらそんな意図があったとは。話が早い上にこちらのことを考えてくれるキャッチャーというのは存外少ない。

ピッチャーにとってキャッチャーは主戦で固定の1人がつく事もあるが、キャッチャーからすればピッチャーは1人ではない。何人もいて、それぞれと向き合わなくてはならない。忘れてしまいがちだが、俺たちピッチャーは贅沢を言ってしまっている事を改めて自覚すべきだろう。

だからこそ、こうして俺にさえもきっちり向き合ってくれる一色のようなキャッチャーは貴重なのだ。

一色の提案を容れた俺は、サインに首を振る事なく淡々と投げる。球種が少ない分球数はやや嵩むがそれをさっ引いても収穫は多い投球だった。

思ったよりストレートが通用する上、コントロールも出来ていること、カーブは使い方と他の変化球との兼ね合いを上手くしてやれば全然使えそうなこと、カッターがやはり上手く曲がらないことなど。


「痛打されたのはカッターと連投したストレートくらいですね。それ以外はコースヒットなので気にする事ないと思います」


3回3被安打無四球無失点を、一色はそう評した。

普通打たれたらその反省やダメ出しから入るだろうに、許容範囲だとあっさり言ってのけるのは肝が座っているなと思う。


「球威はどうだった?」

「そう変わったようには見えませんでした。差し込んでるシーンも多かったですし、ストレートは去年よりかなりいいと思います。球速もバックスクリーンで確認する感じ安定してましたから、まず使い物になるかと」


不安にさせないように言葉を選ぶ口ぶりが、実に捕手らしい。アイシングをしながら続きを促すと、一色は各球種についてつらつらと話し始めた。

しかし、迷える打撃型の同級生と泰然とした守備型の後輩。どっちが捕手としての争いに勝つのか見ものだ。そんな風に思いつつ、俺はリードの礼代わりに、話終わった一色の肩を2、3叩いた。

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