2/15 取材 ♦
紅白戦を2回1失点で済ませ、第3クールを迎えた。
ストレートの質改善、シンカーの強化はまぁ納得出来る程度になったが、結局一発病は治らないらしい。この辺をどうにかするとなると、コントロールを鍛えるなり芯を外すボールを覚えるなりというのが必要になって来そうだ。やっぱカッター覚えなきゃいけないのかな。
さて、なんでこんな事を急に考え始めたかというと、今日から対外試合が始まるからだ。自チームの選手たちは何をやってて何を変えようとしてるかが見ているのでなんとなくわかるが、他チームの選手たちのそういう情報はない。
正直、ストレートとシンカーとイニング食うためのスタミナ強化に手一杯で手札が増えたとは言い難く、このままの状態でいけるのか?と疑問に思ったり。要はめっちゃ不安なのだ。
しかし、そういう感情と戦ってこそプロ。そう思っていると、
「久松選手っ」
と声をかけられた。
報道の腕章をつけ、グレーのスーツに身を包んだショートヘアの女性だった。見たことある気がする。
「関東スポーツの菅といいます。ちょっとお話いいですか?」
うわ、勘弁してもらいてぇ。というか思い出したけどこの人自主トレの時来てたよな愛媛まで。俺関連で何か動きがあるんだろうか。
「あー、今日頭からなんで手短でもよければ」
雑には扱えんが、かといって探られるのもあんまり良くない。下手なことを言ってボロを出したら全部御破算だ。あの監督とGMの事だからその辺り次善の策くらいあるんだろうけど、俺自身の立ち回りにも影響がある。
うん、よし、何聞かれても濁そう。
「はい、一つだけ教えてもらえればと思います。聞きたい事はシンプルでして、今季ほんとに先発で回るんですか?」
なんだこの女。答えられない事にそんなバチっと照準合わせて来てんじゃねぇ。ニアピンすぎてビックリするだろ。
…などとはおくびにも出せるはずなく、極力関心がないよう答える。
「うーん…。じゃないですか?まぁこんなに頭で使うくらいですからねぇ。そういうのは監督に聞いた方がはっきりしますよ?」
言外にこっちに聞くんじゃねぇという意図を滲ませながらそう言ったのに、菅とかいう女記者はまだ噛みついてくる。
「そっちには別途聞くつもりでして。ちょっと気になってたんですよ。自主トレを先輩のお二方としてる時、2人は新球を試してる、試したって話をしてくれたのに久松選手だけそういう話がなかったなって。だから中継ぎから動かないのかなあと思ったんです」
「あー、これ記事にします?…しない?なるほど。言わないでもらえたら助かるんですけどね。新球自体は今も試してるんですよ、カットボールを。ただ、これが曲がらない。でも試してるとは知られたくないから非公開練習の時とかにこっそり、ね」
嘘ではないが本当でもない。カッターの習得は検討こそしているものの、積極的にどうこうはしていない。というか、さっきも述べた通りできていない。
苦しい答え方ではないはずだが、菅記者の表情はまだ訝しげだった。
「カットですか?」
「えぇ。あ、ほんと内緒にしといて下さいね。僕みたいな選手はこういう情報一つ漏れるとしんどいで」
そう言って愛想笑いを構える。ぶっちゃけカット習得なんて今のところ二の次になっていてバレたって構わないのだが、それ以外の所を突かれたくないので、とりあえず弱みのように見せてみる。
まだ納得はしてないようだが、一つ息を吐いた後、菅記者はこう言った。
「…なるほど、わかりました。今日はお忙しい中ありがとうございます。またお時間いただければ」
「えぇ。でも僕でいいんですか?もっと派手に動いてる選手がいるでしょうに」
佐多とかな。というかいつも池田とかばっか取材してんだからそっちにいけや、とは思うものの言うわけにもいかず俺は目を細める。すると、彼女は微笑みながらこう言った。
「ふふ、みんな調べる所一緒になって調べたってネタにならないじゃないですか。だから去年から一軍で頑張ってるけどスポット当たってない選手に注目してるんです」
「へぇ、それはまた」
趣味悪いんすね、と言いそうになって堪える。
しかし、たまたま斜に構えてたからなんとか口から適当こいて誤魔化しにかかれているが、何も考えてない時に来られたらペラペラ喋っちゃってるんだろうな。となると、やっぱりコイツの相手し続けるのはまずいか。
そう思い、俺はわざとらしく時計を見て頭を掻いた。
「おっ、やべ。すんません。時間なんでいいですか?」
「はい、お時間ありがとうございました。頑張ってください」
ぺかーっという効果音が似合う笑みでこちらを見送る菅記者。愛想も良し、と。
いやマジでこいつ取材力も嗅ぎつける力も高くて相手するの良くないな。
試合後、たまたま扇GMが来ていたので、顛末を話した上、その辺りの対応の仕方を相談してみると、こう言われた。
「関スポねぇ…。実は吉永君の監督就任の時も動きが怪しかったんですよ。確かに情報は漏れるようにしてたんですけど、関スポだけ報道が少し早くて」
「そうだったんですか。ときに、僕はどうすればよいでしょう」
「久松君に出来ることはないですね。護衛的に広報つけてもいいですけど、却って秘密があると示唆してしまいますから。今日みたく、適当にあしらっておいて下さい。あ、打てる手は打つので続かないとは思いますよ」
そう言って扇GMがにっこりと笑う。
1野球チームのGMが、他社しかも報道系の業界に対して打てる手ってなんなんだろうなぁ。
疑問に思った所で俺は考えるのをやめ、曖昧に笑うことにした。




