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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
1年目(久松プロ4年目)
36/141

9/21 対帝東ブレイブス 第25回戦②

「ナイバッチでした」


2回目の打席を迎えた篠原に、帝東ブレイブスのキャッチャーである芳賀がそう声をかける。

ボックスから足を出し、落ち着くように一呼吸おいて篠原は返事をした。


「おお、ありがとう。あんま声聞いたことないなと思ってびっくりしたわ。てっきり喋るの好かんもんやと」

「必要以上に喋る気はないですけど、ただ、同じキャッチャーとして最後に一言くらいはと思いまして」

「そうか。最後と言わずもう一本打ったろか?」

「はは、抑えますよ次は」


そう言葉を交わし、会話が途切れる。

篠原はベース周りの土をヘッドでいじると、くるりと回し構えを取った。

5回裏2アウトランナーなし、1点リードの場面。勝つならば追加点が欲しい頃合いではあった。ブレイブスの投手は、先発の大田原が未だマウンドに立ち続けている。いい投手だがスタミナにやや課題があり、2巡目3巡目ともなれば捉えられないほどでもない。球種を絞っているならば尚更だ。

そう考えた篠原の膝元にツーシームが落ちる。前の打席で投げてきたストレートに比べ、確実に投げ込む場所も選ばれていた。


「(なるほど、次の回1からキリよく始められたくないと。912の並びで6回裏。最悪9番に代打切ってくれる可能性まで見れば、俺をしっかりここで打ち取る方が試合単位でもシーズン単位でもアドバンテージになるね)」


明らかに質のいいボールを見送った篠原はそう脳内で電卓を叩く。


「(となると低めで小さく動くボール中心か。ツーシームカッターあたりを早めに転がさせて球数を抑えたいって感じやな。ゾーンビタビタに来るかは怪しいし、低めは切って浮いてきた球に反応すればいい。インコースのストレートを打ってる分、内に投げ込む球種と状況は少なくなるはずや。いずれ甘めに動くボールが来る。さっきと同じでバットを下に潜り込ませる感覚で準備する)」


肩を軽くすくめて力みと思考をほぐし、篠原は構える。

大田原は芳賀のサインに頷くとゆっくり振りかぶった。


「(!…狙い目!)」


そう思って振ったバットは、想像より2つ分ほど落ちたボールにするりと掻い潜られた。

イメージと違う軌道に、篠原は眉を顰める。


「(…シンカーか?どっちにしろ落ち球で追い込まれたのはキツいねぇ〜…。完ッ全にやられた。嫌でも速球と落ち球の二択を意識させられるし、こういうタイミングでスラカーブあたりを混ぜられると面倒になるな。真っ直ぐ系意識でボックスの後ろに立つと外ゾーン際のクサいスラカーブに届くか怪しい。だからといって今より前に出ると真っ直ぐに差し込まれかねんし、落ち球がしんどくなる!

最悪なのが、インに投げる選択肢が戻ってきたこと…!俺に投げとる真っ直ぐ系2種と今の落ち球、他の奴に投げとるスラ系の球、そしてまだ見せてない変化球がある可能性も考慮に入れ…。それでも内を捨てれば外目を広く見られると思ってたのに、こうなるとインのファストボールにバットが出らんから内外どっちか切るしかない!結局どうやっても後手か!)」


苦境、であるからこそ、篠原は表情を普段のそれに戻す。

この辺りの感情制御は場数ゆえのものだった。


「(ええやんな、こういうのこそ野球やっとるって感じするわ)」


そんなふうに開き直って、視線の先に大田原を捉える。

右腕が投球モーションに入る。篠原はタイミングをとりつつ足を滑らせ、そしてステップした。


「(…インストレー…ト!)」


潰れたような音が響き、球場全体が空を仰ぐ。

149km/hのストレートに完全に差し込まれた形となった打球はキャッチャーファールフライ。

マスクを取った芳賀は早々に落下点に入ると、何事もなく受け止めた。これでチェンジである。


交代による撤収の最中、篠原は芳賀のマスクを拾い上げて持ち主に差し出す。

芳賀はそれを受け取り、ベンチに体を向けながら言った。


「よう当てましたね」

「まぁ来そうやったしな。しかし勝負をあんな焦らんでもいいんやない?」


負け惜しみであり、本心でもある言葉を芳賀にかけ、満足そうにベンチは戻る。

あと3イニング、最低1回は打順が回ってくる。次はどんな勝負になるのかと年甲斐もなく心を躍らせ、篠原はペットボトルの水を一気に飲み干した。

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