手を変え品を変え
佐多との対戦は、結局大敗に終わった。
先輩として、一軍で投げたことのある投手としての意地を見せたかったが、何のことはなく、あっさりと弾き返されたわけである。
壁を超えるでも割るでもなく、踏み砕くと言わんばかりの結果に、苦笑いも浮かばない。
津田さんはあの後、こう言っていた。
「しょーじき、君が投げられる球の中でも上質なボールが来てたと思うで。ただ、相手が悪いは甘う見て4割や。一軍で投げ続けるなら、成績出すなら、球種拡張と持ち球の質向上は絶対要る」
事実、追い詰められたのは最後の1打席のみ。そしてそれすらもしっかり仕留められている訳だから、力が足りてないというのは間違いないし、津田さんの見立てにも首肯せざるを得ない。
神妙な顔をして聞いていると、津田さんはただ、と人差し指を立てた。
「最後の真っ直ぐ。アレだけは俺何も言われへんわ。打てる方がおかしい。伸びもあったし、速度も出とった。球遅いとかいう話はあるかもしれへんけど、そもそも左の145自体は及第点やし、文句つけられん。まーその。結論としては、真っ直ぐの質は維持しつつ、変化球どうにかしよやってハナシやわ」
「ストレート、よかったですか?あんまり僕のストレートっていいイメージありませんけど」
「…まぁ、今まで休み足りてなかったとかちゃう?知らんけど。まま、最後のアレに関してはホンマ良かったで。スピンも効いとる感じやったし。エラい顔しとったのもあって打たれ気せえへんかったわマジで。ま、打たれたねんけども」
「エラい顔?」
「おーん。なんちゅうかな、人でも殺すんか?っちゅー感じやったわ。ごっつこう、皺寄せてな?目もよう吊り上がっとったで〜。よくも悪くも打たれたんそない気にせんやっちゃと思てたから2割増しくらいで恐ろしゅう見えたわホンマ。何考えとったんや」
確かに睨み殺すとかそんな物騒な事を考えていたような覚えはある。
それというのも、ただひたすらに直近で相手をした強打者を打ち取った感触を思い返していたに過ぎないが。
「駿河から三振取った時のことを少し」
「そんだけ?コワ〜…」
あの時、ほんとになんであんなにいいボールが行ったんだろうか。
インステップだとか体の使い方だとか色々要因はあるとは思えども、その後いいボールが行ったのは今回くらいだ。
などと考えながら、手慰みにボールを触る。
均一な縫い目は、指先にトンツーを繰り返し伝えてくる。
ストレートの強化、しないとなぁ。
何を曲げて何を沈めるかなぁ。カットボールやっぱあった方がいいかなぁ。
今までやってきたのに変われていない事ばかりのようで自分の才能のなさにため息が出た。
殺さんばかりに睨んで抑えられるならそれはそれでいいんじゃないかと一瞬考えて、結局球の質だろという自分への反駁に返す言葉もない。
じゃあその球の質について誰かに聞いてみればいいのでは?と思い、佐多にセカンドオピニオンを頼んでみることにした。
「あの勝負でよかった球?それはもう最後の真っ直ぐスね。当たりこそしましたけど…。あれは正直まぐれだと思ってます。他のピッチャーと比較出来るほどプロの人と対戦してないんでなんですけど…。あ、決め球ないんかなとは思いました。だもんで三振取られるとはあんまり考えなかったっすね。チェンジアップ?あれは…まぁ速いボール来んやろとか思ってたんで。それでも大分ブレーキ効いてたと思います。
ていうかそれはそれとして最後のボールですよ。アレ投げる前えらい睨んでませんでした?僕のこと」
佐多はそう鷹揚に答えた。
「津田さんにも言われたそれ。そんなに?」
「それはもう。なんかしたっけ?殺されるんか?と思うくらいには…」
どうやらチームメイトに向けていい顔はしてなかったようだ。
悪いことをしたなぁとにわかに思いつつ、球種のことも尋ねてみた。
「今回一応持ってる球種全部投げたけど、バリエーションとかどう見えた?」
「うーん…。左からしたらあんまり苦労する球ないような気がするっスね。早めの球が真っ直ぐとツーシームですよね?外に逃げる速い球がないから、それ系がどうしても左バッターには向かってくる軌道しかないかなと。外角のバットが届く範囲をケア出来れば、あとは内に来た時巻き込むだけになる気がしますね」
ケアできれば、とか簡単に言うなと思うなかれ。
それが出来るからこそ、彼には大記録が約束されているわけなのだ。
なるほど、津田さんがしきりにカッター習得を言っていたのも腑に落ちる。佐多がいう話に通ずる所があるのだろう。
例えば、左バッターの外角低めストライクゾーンにツーシームとカットをそれぞれ投げ込むとする。
カットならば、バットから遠ざかる軌道となるため、当たらないか、当たったとしてもファールになる可能性が高い。
当然、芯から逃げる軌道でもあるので、フェアゾーンに飛んだとしても打ち取った打球になる確率が高くなる。
ツーシームでは、逆に芯に近くなる。あとは言わずもがなだろう。
もちろん、技量があるバッターにしか出来ないことではあるが、俺が戦うのは雁首揃えて一流選手たち。
出来る前提で考えなければ話にならない。
というか対左ってまんま一軍での課題なわけで、そりゃ改善しなきゃいけない箇所だよなと佐多の言葉をありがたくいただくことにした。
とはいえシーズン中。
実戦の中でやっていかなければならないなと思いつつ俺は一色に話を通し、急造りながら2軍戦で投げてみることにした。
曲がらない遅めのストレートが2〜3本スタンドを越えて行った事だけは心に留めておかないといけないなと思いつつ、俺は8月いっぱいを調整に努めると決めた。




