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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
3年目(久松プロ6年目)
136/141

7/27〜7/30 ソーダイオールスター コンチネントVSオーシャン③

「どっ、どっどうしましょ。どうしたらいいすか」

「はいっていっちゃったんか」

「い、言うでしょ。言わないって事ないすよ。だってあんなん」


場の雰囲気や状況、今回の出場の質を考えると、NOとは言えないよな、そう佐多に同情しつつ彼と池田のやり取りを他人事として泳がせる。

佐多にしてみれば未練こそ九割九分ないだろうが、掘り起こされるのは、それはそれでちょっと嫌なのだろう。なんとなく生傷のようなものかと察するところがあった。


「そら断れんかもしれんが…。投げれんのか?」

「やってやれないことはないでしょうけど、その、まともに投げられる自信はないっす…」

「おいヒサどうするこれ」

「俺に振るなよ」


吉永監督がいる以上、何かしらのブレーキや保険はかけているだろうが、それも最低限のものにしかならないと見る。と、なればとりあえず俺たちで手伝えることを手伝うしかない。


「…考えてもどうにもならん。投げるの確定、ブランクありなんだからとりあえずブルペンで投げ込んでそっから組み立てるしかねぇだろ」

「…まぁそうだよなぁ。取り急ぎブルペン抑えるか」


若干気乗りしてない感じの池田の態度が引っかかるが、とりあえず流れとしてはこれでいいだろう。一応、乗りかかった船だし、野手転向に噛んだ身だし、出来ることは手伝おうと、俺も2人に続いてブルペンへと向かった。


幸いというべきかブルペン内には誰もいなかった。投手時代を苦い思い出と考えている佐多にとっては、同業他社の選手に見られながらというのが苦痛になるかもしれないと懸念していたのでこれで良かったと思う。

早速始まった佐多と池田のキャッチボールを眺めてみる。

流石に1年間野手をやっていた為、若干スナップを効かせすぎて、癖みたいなものが出ているが、ひとまず気になるのはそのくらいだった。コントロールなどは、癖を差っ引いても悪くないよう感じる。


「…っしゃこい」


いくらかのやり取りの後、池田がホームベースの後ろにしゃがみ込み、構える。

それに応じて、佐多はゆっくりとワインドアップモーションを取り腕を振る。

以前よりも少し低い位置でのテイクバックから繰り出されたボールは、それなりの威力で池田のミットを突く。


「どっスか」

「130そこそこくらいか?球威は相変わらず悪くねぇ気がする。ヒサ、そっちから見ててどうだ」

「テイクバックが低い…、というか、短いのかな。野手投げっぽい感じがする。あとは若干横振り感が」


なるほど、とぽつりと佐多は呟き、また腕を振る。

適宜、自分なりに修正をかけながら、1球、2球とその数を黙々と積み上げていく。とりあえず自分でやるうちは、と俺も特に口を出さなかったが、20球を越したあたりで池田が佐多に休憩するように言った。

もう?と思い、自分でもわかるくらい怪訝な顔をしていると、池田が小銭を佐多に渡し、飲み物を買ってくるよう指示をした。こいつ後輩をパシる事なんてあるんだ。

そして、佐多が出ていくとすぐ、池田が俺に声をかけてきた。


「どう思う」

「佐多?どうってお前。ブランクあるにしてはまぁ球は強いし、コントロールもそう悪くないけど…。別にそんな気にするほど破綻してるわけじゃないと思うぞ」


俺がそう返すと、池田は少し口の形を曲げて、言葉を選ぶよう舌打ちを一つ入れた後こう言った。


「いや、佐多さぁ。最後俺が受けて大炎上してピッチャーからコンバートされたわけじゃん」

「あー、あぁ…」

「佐多がどう思ったとかどういう流れでのコンバートとかは関係ねぇ。あれが最後っていうのはあんまりだと思うんだよ。だから、ちょっとでも良いピッチングをさせてやりてぇんだけど…」


そういえば、古沢さんに引き合わせようとして会わせてやれなかったあの日が結果最後の登板だったか。

当時の佐多の立場やらを引っくるめて考えると、確かに池田にとってもあまりいい思い出ではないだろう。…というか、佐多登板の話が出てからずっと難しい顔をしてるのはそういう事か。ようやく合点がいった。


「とはいえなぁ。俺と佐多じゃタイプも利き腕も違うし。速球派で落ち球のある右ピッチャーか。こういう時古沢さんいれば一発なんだけどなーんかツテが…」


思考を走らせようとそう口にしたところで、一つ行き当たる。

内々のメンツで対応できて、しかもコーチング出来る格と理屈を持つ右手投げの投手が丁度1人。おまけに、佐多はどちらかというと中継ぎタイプの選手でお誂え向きだ。

どこにいるかは知らないが、声をかければ来るだろうと、とりあえず携帯を取り出して連絡を試みる…ワンコールで出んなよこえーな。


「…で、俺を呼んだわけか、久松よ」

「そうなります」


そんなこんなで武田さんを呼びつけてみたら、用事は終わっていたらしく、すぐに来てくれた。頼もしいのは本当に頼もしいのだが、やや恐怖が勝つ。ちなみに、佐多は飲み物を持ってすぐ戻ってきたのだが、その直後突然現れた武田さんに結構びっくりしていた。


「オールスターの1人1殺の為に後輩へ指導を、とはなかなか偉くなった願い事だなァ」

「…不躾ではありますが、どうか。あぁ、それに…」


このくらいの事は言われてもしょうがないとは思っているし、武田さんも本気でそう考えてはないだろう。だが、それでも、武田さんの満足のために言っておいた方がいいことが一つあったので、俺はそれを耳打ちする。


「ピッチャーを諦めた奴が、1人討ち取るためだけに、速く、良い球を投げようとしてるわけですよ今回は。盛り上げ役でもありますし、それを、役割を果たそうとしてるわけです。好きでしょう、そういうの」

「ほォ…。久松、お前そういうやらしい口八丁も使えるのか。…よかろう。手を尽くしてやる」


ニタァ、という擬音がはまりそうな、粘っこい笑みを浮かべたあと、武田さんは俺に背を向け佐多に近寄っていく。

色々心配ではあるが、武田さんが指導してくれるなら大丈夫だろう。

馬力もあるし、ボールのコントロールがある程度出来ていて。言われた事を実現する力も持っている。

実際、武田さんもボールを見て、存外悪くないと漏らしていた。その分か、指摘も強い。


「腕の振りがまだまだ横だッ。縦振りを意識しろッ!リリースは前で前でと考えるなッ!手を離す事でコントロールが出来るわけではないぞッ。全身の連動と腕の軌道で制御せよッ!」


おっかないながらも、佐多の腕の振りは段々と鋭く、強くなっていく。落ちなくなったフォークを落とせるようになりすらしそうだ。

流石は250セーブを今年達成した生ける伝説、俺などとは思考に関する引き出しの数が違うなと思いつつ、少しずつ速くなる佐多のボールをひたすら見送った。

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