7/27〜7/30 ソーダイオールスター コンチネントVSオーシャン②
時は遡り、場所は移ってスタジアム内のミーティングルーム。普段なら采配を振るいしのぎを削る好敵手だが、今回ばかりは腹の底を見せないまでもそれなりに協調しなければならない。
「さてさて。ほなはじめまひょか。まずはここにおらへんコ・リーグ他3チームの監督さんも含めて感謝を申し上げますわ。ありがとうございます」
ゆら川レイダースそして今回リーグ代表の監督である吉野が脱帽の上深く礼をし、その後表をあげ、続けた。
「えー、作戦会議とは言いましたけども、まぁ細かい野球なんか無理ですわなぁ。もちろん、お二人も分かってはるとは思いますが。せやよって、出場機会の配分考えるのを手伝っていただきたいんですわ」
脱帽したまま、ぽりぽりと頭を掻いて吉野が言うと、本郷が口を開く。
「ええもちろん。…正直安心しましたよ。去年の堀越さんはご自分で全部決められてましたし、作戦会議だなんてと思っていましたから…。まぁ、仮に作戦を立てるとしても、吉永さんがいらっしゃればそう苦労はしないでしょうけど」
「はは、有難いお言葉ですが買い被りですよ」
腹芸とも本心ともつかない言葉に、吉永はひとまず謙遜で返す。
今シーズンの上位争いはまだまだ落ち着いていないし、吉永にとって、目の前にいるのは昨年の優勝チームと補強に成功した2位のチームだ。何かしら仕掛けてきてもおかしくない。もちろん、大層な嫌がらせなどにならないとは分かっているが、それでもいらない負担は避けたい。特に久松。
「いや、ホンマ大したもんや思うで。去年なんかなぁ。まぁ〜ウチはようやられたし。選手の使い方は勉強させられましたわァ。久松くんとか野口くんとか、器用で、ええ選手がよう揃ってはる。やからこそ、ファンも見たいやろおもて久松くん呼ばせていただきましたよ」
「ええ、名誉な事で。しかし、あれだけやっても上の2チームには勝てませんでしたから。流石に地力が違いました」
建前と本音、ないまぜにしているであろう吉野の言葉を、吉永はそう言って躱す。
下手に強く返して起用の権を濫用されるわけにもいかないと、向こうを立てた形だ。ある意味この態度は、ゆら川がクロウズを最大限警戒し、今年のペナントレースにおける本命と見ている証左でもあった。
「ほんでまぁ選手差配やけど。どないしましょ?どっから決めます?今話でた久松くんから決めますか?先発何人おったっけ」
「地元の子とかいましたかね。あとは甲子園出た子とか」
「うちだと、久松が愛媛で、佐多が静岡ですね。佐多は甲子園出てます」
「佐多くんな。ようドラ1ピッチャーをコンバートしたもんやで〜。…あ。…吉永さん、提案やねんけど」
提案するにしては、やや迷いのある吉野の口調に吉永は怪訝な顔を隠さず問いかける。
「と、いいますと」
「最初の1人だけ佐多に投げさせてみぃひん?や、他んトコ出身やったら言わへんけど、静岡って結構スポーツ盛んやろ。サッカーも野球も人気やわな。そんなトコの甲子園実績あるドラ1てなるともう地元のスーパースターちゃうか思って。そないなったら盛り上がるで〜こら。ほんで、どう?」
「…よろしいかと。ただ、ピッチャーとして不安があったが故のコンバートでしたから。流石に抜け球で当ててしまうというほど破綻していた訳ではないので当てたりする恐れはないと思いますが、本当に1人だけで、申告敬遠も視野に入れておいていただきたい」
うん、と吉野が頷き、話が進むかと思われたが、本郷がこれを留めた。
「1人だけ投げるとして、その間のショートはどうします?1/3イニングだけの出場というのは、代わりの選手が可哀想では?」
「せやな。そしたらウチの広橋がアマ時代ショートやっとったから、広橋に守らせればええわ。ほったらもうクロウズのメンツから使いかた決めてしまおか。人数もおって後から修正効くやろし。地元はあと?久松くん?」
「ええ」
吉永からすれば、久松に長いイニングを投げさせたくないのが一義である。
1イニングだけ、という話になるならば前だろうが後ろだろうがどっちでもよかった。
「せっかくなら盛り上がる使い方のほうがええなぁ。本郷さんはどう思う?」
「佐多くんが前なら久松くんは最後でいいんじゃないですか?シーズン初めの起用を考えるなら抑えの構想でしょうし。長いイニングもやってやれないことはないでしょうけど、ね」
「いやもうそんなんアレよ!盛り上がるかどうかよ!久松が最後出てきてビシーッやって盛り上がるんならそれがいっちゃんええねん!吉永さん的にはどうなん?」
「まぁ、私としては9回に投げさせてもらえると嬉しいですし、本人もそのほうがよいと言うとは思います」
「ほな、決まりやね」
1日目の1回に佐多、2日目の9回に久松を投入する事がすんなりと決まり、吉永は心中ようやく落ち着く事ができた。
その後も話を進め、素案が出来たところで、選手たちを呼び出し起用法を伝えていく。
想定していたよりも長くかかったが、なんとか午前中には片付いた。ひとまず祭りの下拵えが終わった3人のおじさんは、呑みに行くような事もなく、それぞれホテルに戻り一時の睡眠を噛み締める事しかできなかった。




