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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
3年目(久松プロ6年目)
134/141

7/27〜7/30 ソーダイオールスター コンチネントVSオーシャン①

遠州浜名は本日快晴であった。

クロウズの面々とともに本番前日のチーム全体練習に出席した訳だが、オールスターだけあって実力・人気が抜けたメンツが揃っている。

まぁ、俺自身に関しては、ここ2年ほどで築き上げたキャラクターもあってか、特に縁が結ばれるということもなかったのだが。や、それは別に結構どうでもよくて。

問題というか、肝心なのはどう使われるかであった。そこに関してはアップの後、チーム首脳陣から話があるのだろう。


「はいじゃ集合ーっ」


学生の時に聞いたような良く通る呼集に、一緒にストレッチをしていた佐多が素早く体勢を整えて走り出す。

集まってみると、このオールスターのチーム首脳陣となる3人、そして周りにずらっとリーグの職員が並んでいた。

選手側の身じろぎがなくなるのを確認して、真ん中にいた、恰幅のややいいサングラスをした男がぱんと拍手をした。


「ども〜。ゆら川の吉野です。今日から3日間よろしゅう」


オールスターの監督とコーチは、前年のリーグでAクラス入りしたチームから出されることになっている。優勝チームが監督で、2位3位がコーチ。従って、さっき自己紹介していたゆら川の吉野さんが監督、その左右にいるレッドウルスの本郷さんとウチの吉永監督がコーチという扱いだ。

吉野監督の挨拶に、全体が軽く頭を下げる。


「ちゅうわけで、ワシらァ作戦会議するから。各自のルーティン回しとってくれ。本番は明日やから軽めで頼むで?あ、あと、場合によっては話をするかもしれんから、最後の集合解散までは球場内におってな?」


各自がまばらに返事をすると、監督コーチは連れ立って屋内へと向かっていった。


「作戦てなんなんすかね?打順の組み方とか?」


監督らが下がったのに合わせて選手たちも散会し、俺と池田と佐多で再度固まったところで佐多がそう疑問をこぼす。武田さんはオリーグの旧知と話があるらしく、アダメスも似たような感じでこの場にはいない。


「なんだろうな。豪華な寄せ集めだから作戦とかないと思うんだけどよ」

「池田お前もっとなんかこうさ…あるだろ…。いやまぁ実際本格的な作戦立案とかじゃなく、漏れのないよう選手を使うためのイニングプランとか、そういう方向性のやつだとは思うけど」


相変わらずの物言いに少し辟易したが、ぶっちゃけ池田の言う通り、いくら一流が集まるチームとて、急造である以上作戦遂行能力が高いはずがない。加えて、野球という競技の特性上、攻撃側における橋頭堡作成の成功率が4割あるかないかくらいな事を踏まえると、わざわざ作戦を練っても得られるリターンは知れている。

個人的な推測ではあったが、それなりに根拠はあるだろうとも思い、ひとまず口に出してみた。


「わざわざ3人で起用方決めます?去年は堀越監督が1人で決めてたとかなのかな」

「去年ワンマンだった分、他のチームから苦情が出たとかじゃね?折り合いつけるに越したことは無いだろうな」


あとは純粋に、1人で決めるのが大変とかなんだろうな。俺みたいな地元凱旋枠みたいなのも設定しなきゃならんだろうし、プロ野球という興業の側面を抑えつつ選手を配置するなど考えるだけでも面倒臭い。

そう考えたところで、JBCLの職員が佐多を呼ぶ声が聞こえてきた。


「佐多選手ーっ。御三方がお呼びですよー」

「えぇ?マジか。ちょっといってきます」


会話の輪から佐多が抜けていく。

俺は今更池田と話すようなことはないので特に喋りかけなかったのだが、1〜2分経った頃くらいに、池田が耐えかねたのか口を開いた。


「なぁヒサ。今年はホームラン競争のピッチャーやってくんねぇか」

「なーんだテメェこの野郎。去年断ったろうが。 ヤだよ」

「頼む。俺はお前から打ちてぇんだ」

「何でだよ。つうか普通に考えてみろ。試合で投げるために来てるんだぞ俺。余計な体力使いたくねぇし、イメージ的にもあんまりいい気分じゃねぇ。仮に引き受けて、エキシビジョンとはいえパフォーマンスに悪影響出たらどうしてくれんだ」


こいつここまで人のこと考えられんやつだっけかと思いつつ、俺は呆れて思わずため息をつく。

しかし、そんなことには全く怯まず池田は食い下がってきた。


「それは、まぁ確かにあるけども。悪いなとは思うけども。俺は一回でいいからお前とプロの世界で対戦して勝っときたいんだよ。学生ン時やられてるからな。もちろんホームラン競争でホームラン打ったらとかそんなんは考えてねぇ。ボールは遅くてもいい。打席に立った時に、お前の球はどう見えるのか。それを知りたいんだよ。いつか勝つために」


大真面目な顔でそんな事をいう。

プライドが許さないとかそういう感じか?何でそう思うのか、俺には分からない。

馬鹿馬鹿しい、とまでは思わないが、今更何をとは正直思った。

原さんや大田原みたいなエース級か、ぽこじゃか打てている時点で、俺はこいつの相手にならない。


「何言ってんだお前。去年今年と3割近い打率叩いててホームランも20、30は打てるやつが俺から打てねぇ訳ねぇだろ。実績も実力もお前の方が遥かに上だよ。ただでさえおっせぇピッチャーの緩くておっせぇ球見なくたって何とでもなる」


そう言い切り、自嘲を込めて短く笑う。

悲しいが、俺は何も間違った事を言ってない。


「…そうか」


何でそんな残念そうにするのか全く理解が及ばないまま、アップのメニューを回す。

すっかり会話がなくなって少ししたころ、佐多が青い顔をして戻ってきた。


「も、戻りました…」

「お、おかえり。結構長かったか?」

「…ですね」

「なんか冴えねぇ顔してんな。何言われたんだ」


池田が腰に手を当ててそう聞くと、佐多はばつが悪そうに冴えない顔の原因を教えてくれた。


「…明日、1番ピッチャーで使う…って。いわ…れました」

「は?」

「あー…???」


俺と池田が同時にとぼけた声をあげる。


「地元に錦を飾っとけだそうで…」


その言葉でようやく合点がいく。

そういえば佐多は静岡出身だ。地元校のエースとして活躍して、甲子園に出てそれなりの成績を残している。そりゃ、見たい人も多いか。

つまりは、凱旋登板。投手失格の烙印を押された5年目の内野手が、何の因果か再びマウンドに登る事になった。

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