6/27 対南州レッドウルス 第12回戦③
5回表と6回表の攻撃を凌ぎ、7回のマウンドに立つ。なんとか無失点でここまで漕ぎ着けた。
なお、こちらも原さんからヒットは出ているものの、未だ得点は出来ていない。
バックスクリーンには6回終了時の俺の球数が表示されている。78球らしい。
大体1イニングあたり13球程度を要している事になるが、相手を考えてもかなり省エネピッチングで来られている方だと思いつつ、ぐるりと腕を回して息を吐き、池田のサインに頷いて投げる。
結果、8球を要しツーアウトを取ることができた。投げ続けている分の負荷は確かに感じるが、限界ギリギリというほどではない。ここを首尾よく凌げば学生時以来の9イニング目すら見えてくる。
そういう時にこそ、気を抜くわけにはいかないと分かっているのだが。
「5番ファースト、マイルズ。背番号42」
今年加入したマイルズが左打席に立つ。コンタクトに優れた中距離打者が多いレッドウルス打線にあって、脆さはあるものの貴重な左のパワーヒッターだ。確実性にはやや乏しいが強打者に違いはない。
「(これが2番とかに居たら嫌だけど、今の赤池の一つ前か。一発以外ならまぁ許容範囲だな)」
打線が下位に回る上、打者自体は鈍足。歩かせるという選択肢を取るほどでもない。勝負でいいだろう。
踵の部分で、軸足周りの未だに硬い土を軽く掘り、サインを見る。この回からは初球にスプリットチェンジやシンカーなどの落ち球を持ってきて、振らせる配球になっているが、ここはどうか。
「(スプリットチェンジか。とにかく低くと。左だし、最終的には外スラとかで〆に行けるから早いうちに落ち球を見せるのは問題ないか。ストライク先行重視ってわけな)」
池田の意図を推察し、真っ直ぐと同じ意識でアームをしならせようと振る。
だが、少し握りが甘かったのか、ボールは想定してるほど落ちてくれなかった。そして、マイルズという打者も、弱点こそあれど失投を見逃すような選手ではなかった。
「中継2つ!タジ!もっと左いけ!3つ目絶対行かすな!」
ホームランにならなかったのが不思議なくらいに強い打球がフェンスにぶち当たる。ライトの三木が上手く跳ね返りを処理してセカンドの田島までボールを戻してくれたのでなんとか二塁打で収まったものの。
「(終盤で当たってない中軸級のバッターか。しかもクラッチヒッターの赤池だもんなぁ…。やな予感すんなぁ…)」
ここまでお互い無得点。突破口を見出したがために、ビジターながらレッドウルスのファンは大いに盛り上がる。もちろんそれは、赤池に打線が回るのも一因としてあるだろう。
「あっかいけ!あっかいけ!かっとばせー!あっかいけーッ」
私設応援団の太鼓が乱れ打ちされ、赤池コールとともにチャンステーマが流れ始める。
指に引っ掛けてインコースの甘い所をおもくそしばかれる画が脳裏に浮かび、思わず呻いてしまった。
たまらず帽子をとって汗を拭い、再度セットポジションを取る。ベースに向き直り、出てきた池田のサインはストレートだった。
「(いやまぁ、そうなるよなぁ…。投げたくはないが…。他に投げるボールもないのは確かだ)」
まず、この回からの試みである落ち球を使った攻め口は、ついさっき失投が出た以上突っ張りづらい。スライダー系統はスライダー系統で赤池の得意なインコースに向かっていく軌道を描くのでこれもリスキー。
となると残るのは真っ直ぐかツーシームかだが、ここは威力を優先するという事だろう。
いつもの半分くらいしか動かなかった顔で精一杯赤池を睨みつつ、モーションに入る。
そして、本当にしょうもない事にリリースが遅くなってしまい、投じたボールはさっきイメージした通りの軌道をなぞって思いっきり叩かれる。
「フェアッ」
サードを守る野口さんの脇を打球が突き抜ける。ライン付近に着弾し転がる打球に対して、三塁塁審はインフィールドと判定し、人差し指をラインの内側向けて指す。
フェンスの奥まで到達したボールをレフトが追いかける間、マイルズが2塁から全力疾走でホームへと帰ってきた。
均衡が破れ、ホームベース付近にはマイルズの走った跡と土煙が見える。
「ヒサ!しゃーないぞ!次を抑えよう!」
前には出られたが、池田の言う通りここはすぐ切り替える。まだ負けてないし、負けるとしても、俺の仕事はまだ終わってない。
今度はしっかりと頷き、なんとか後続を断ち切った。
「すまん。赤池んところ、甘く行ってしまった」
「しゃーねぇよ。まぁ一点ならまだなんとかなるだろ。ボールの力は落ちてきてるけど、ダメってレベルではないし」
ベンチに戻ってすぐ池田に謝ると、こんな風に返された。球数は90に及んでいて、HQSも達成している。打席は遠いが、もしかしたらここで代わるかもしれない。
そう思い、タオルで汗を拭っていると宇多コーチが近寄ってくる。
「久松、コンディションに問題はないか?」
多分これは額面通りの意味だろう。続投出来るかの確認だ。
「特には。痛い、張ってる、どっちもないです」
「わかった。今90投げてるが、一応交代目安は110で考えてる。いけるか?」
「大丈夫です」
これでも大学時代は先発だった。プロと勝手が違うのは承知の上で、単純な球数だけなら負担に耐えうると考え、宇多コーチの言葉に頷きキャッチボールの為ダグアウトに出る。
ほぼ同時に池田がネクストからバッターボックスへとストレッチをしながら歩き出した。状況は1アウトランナーなしだ。
「(まぁまず塁に出てからだな。あいつさっきはホームラン打てるとか大口叩いてたけど、塁にでさえしてくれればそれで)」
なんて考え、足をあげ動作を止める。打席でのアクションが終わったらこの動作の続きをしようと目線を池田に向けたままにしていたら、やや高い速球を池田が思いっきり引っ張り込む。
「お、オイオイ。マジかあいつ。マジで原さんからホームラン打つのか」
有言実行の第18号ソロホームランで、試合に再度均衡がもたらされた。
それは同時に、俺を引っ張れるだけ引っ張る方針を首脳陣が取りやすくなった事を意味してもいた。




