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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
3年目(久松プロ6年目)
125/141

5/27 対総海シーホース 第2回戦

「へぇ。理工学系の出。ふぅん。いやいいんだけどさ。なんでわざわざ自治体の、しかも行政事務を?機械の方とか行きゃあよかったじゃん。あんまり専攻分野の勉強してなかったのかな?」


「スキルは?あぁ、そう。それはないのと一緒だねぇ。そんなんで君、学生として何やって来たわけ?…そんだけ?ははっ。そうですかそうですか」


「新卒予定の子がウチの会社に興味持ってくれたのはありがたいんだけどさぁ。分野がどうしても違う気がするんだよね。正直ウチには勿体無いっていうか」




開きの悪い瞼をなんとか薄くこじ開け目を覚ます。

嫌な夢を見た。プロ入り前の、思い出したくもないやりとりの記憶。何者でもない何かになりかけていたあの日々は、こうして叩き起こされる程度に俺の心に強く、きつく焼きついている。

先発当日で、背負ったものが背負ったものだけに緊張でもしているのだろうか。体を起こし、窓先のまだ薄暗い空を恨めしく眺める。

手に取ったスマホの画面は5時5分を表示していた。セットしたアラームが起動するには随分と早い。


仕上げを実戦で投げる事なくやり切ろうとしたのと、補強関係のあれこれで結果調整が遅れてしまったが、積み上げとしては悪くないものになっている、と思う。

左目の目頭から目尻にかけてをなぞり、見た目を整える。二度寝は出来ない程度に頭が冴えてきたので、ネットサーフィンでもしてと一瞬思ったが、見なくていいものも目に入ってきそうだと考えてとりやめた。

それでも結局、球場入りしたのはいつも通りの時間だった。


「ネイビークロウズ、ピッチャーは久松。背番号、43」


これまでより2時間ほど早く、アフロマニアの『永遠に』がホームグラウンドにこだまする。

投球練習で投げたのは10球に満たないが、それでも時間が経ったのもあって落ち着いてマウンドにはいられている。去年と今年の経験からか、こういう切り替えは随分早くなったと我ながら思う。

そうして腕を回したり地ならしをしていると、池田がいつのまにやらこちらまで来ていた。一体何事かと思ったが。


「ヒサ、頼むぞ。昨日妻木がやられてるからな」

「おう。スターターの操縦は心得てるだろうからこっちこそ頼む」


わざわざ声掛けしにきたのか。まぁエース格が打たれてる以上、警戒度も上がるのは分かる。

それでも、俺への声かけにしては幾分険が取れた気がした。

ホームベースの方に戻った池田が、すっとしゃがみ込みサインを出す。そしてその後、関取のように横に広く腕を広げて俯くと、低く外に構えた。要求はスライダー。昨日と変わらないラインナップ、先頭打者の多賀谷に対し、ボールでもいいのでバックドアから入ってこいという。

打線の感じが去年からがらりと変わった様子もないと見て、俺は縦に顔を揺すった。


「トライィーッ」


少し決まりすぎたくらいの厳しいコースに行ったが、球審が拳を突き上げた。

ぴくりともしないあたり、コースや球種の見極めがしっかりしていると見える。

際々をついた分、あれ以上外をストライクと取ってはくれないだろうが、それはまぁ割り切った。

乗らせてはいけない、連打のある打線を相手にするなら、多少のゾーン管理に気を使いすぎるより、とっととカウントを整えて押さえつけられるようにするほうが大事だ。


「ストライッ」


同じところ目がけてもう一球スライダー。流石に先ほどより内側に入ったためスイングを仕掛けてきたが、軌道が合わず多賀谷は空振る。

昨日の妻木がまっすぐまっすぐで打たれた分、変化球多しと見てか、去年のオープン戦よりも曲がり球にも仕掛けて来ているような気がする。

おそらくだが、妻木に比べてストレートの威力が低いとも見られているのだろう。

カウントは2ナッシングで遊び球を使っても文句は言われない。

そう考えてサインを待つと、珍しく池田と意図が一致した。

選択したのはインハイのまっすぐだった。


「トラァイアウッ」


ボールになっても構わないと、クローザーの時と同じ最大出力で思いっきり投げ込む。

145を計時したそれに対し、アウトロー変化球続きでそちらへの意識が強くなっていた多賀谷は、反応に任せてバットを出すが、全く間に合わなかった。

速い球への対応に尖っているチームだからこそ、低めと変化球を意識させて高めのストレートに手を出させるというのが俺の描いたプランだったが、上手くはまりそうだ。そして、池田も同じように考えているくさい。うん、悪くない。


勢いのまま、俺はまっすぐとスライダーのみで組み立て、ひとまず三者凡退でベンチへと戻る。

一息ついて腰掛けると、ガチャガチャプロテクターを揺らしながら池田が駆け寄ってきた。打席が回ってくるからか忙しなさげだ。


「ナイスピッチ。妻木をやられた分はある程度返せそうかな」

「まだだろ。とりあえずいけるとこまでまっすぐとスラで行くつもりなんだけど、キャッチャー目線どんな感じだ」

「タイミングはともかく、配球には戸惑ってる感じがするな。特に右2人、まっすぐに対して踏み込めてない。下位にも右は多いから要所でまっすくぶっ刺して行けば、一回りパーフェクトくらいはいけんじゃね」


珍しく高く買われたな、と思いつつ防具を外してバット片手にグラウンドへ戻る池田を見送る。

その後、昨日のやり返しをするかのように打線が爆発。俺は一回り後カーブやスプリットチェンジなどを織り交ぜつつ6回を無失点に抑え、勝ち投手に。

ひとまず自分の価値をまた一つ示すことができ安心していたが、お立ち台に上がらされ、結局朝とそう変わらない心地の悪さで1日を終えることとなった。

久松の成績(5/27終了時点)


登板数:11 投球回数:16 奪三振:22 四死球:5 防御率:1.69 1勝1敗9セーブ

先発成績 投球回数:6 奪三振:8 四死球:1 防御率:0.00

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