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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
3年目(久松プロ6年目)
124/141

5/26 対総海シーホース 第1回戦

11/25 投稿後追記

交流戦の開始時期を間違ってたのでep124の日にちを後ろに動かしています。

ご了承ください。

総海シーホースというチームは、久松が投げた当時、とにかく真っ直ぐに強い選手が並ぶチームだった。オ・リーグに蔓延った筋力至上主義に追従しつつ、選手層を構築・整備した果てに原型が形作られており、そのドクトリンや構造というのは多少選手が入れ替わろうがそう簡単に変化するものではない。

まして、別リーグのチームを相手するからと言ってそれが否定されるという事もなかった。


「1回の表、総海シーホースの攻撃は、1番キャッチャー多賀谷。背番号4」


そうコールがあり、捕手にしてはやや華奢な体つきをした多賀谷が右打席に入った。

軸足の位置、ボックス内の土の掘り具合、構え方を一通り見て池田は思案する。


「(細身だけど小力はある打者だよな。率が2割8分近くあってでホームランも4本。1番としては水準以上。ただ、三振も多い。落ち球への苦手意識が強すぎんだろうな。バッターボックスの最奥まで来てねぇ。ある意味シーホースの象徴的打者だ。打線全体として真っ直ぐにどれだけ反応してくるかは、こいつを基準に考えていいだろ。つーことで)」


慣れた手つきで池田はピッチャーにサインを送る。

受け取るのはリーグ屈指の本格派、妻木。

左腕ながら150km/hを計時する真っ直ぐは、多少質に改善の余地はあれ、おいそれと打たれる球ではない。

しかしながら、オ・リーグを一時席捲した戦闘教義の残滓がそれをあっさりと切って捨てる。


「…マージか」


投じられた150キロのストレート、やや低めに行ったボールは、あっさりと右方向へ弾き返される。一塁線上に落ちた打球をロドリゲスが必死に追いかけるが、球足が早く中々追い付かない。

そしてその間に多賀谷は一塁、二塁を蹴り三塁へと走り抜けた。

開幕1球目から得点圏にランナーを抱える事自体はありうるが、無死三塁は中々ない。


「2番、センター千葉。背番号46」


続く千葉も右打者。足の位置などは多賀谷と変わらず、それが総海打線の繋がりの源泉のようで、池田の背に怖気が走る。


「(ぞっとしねぇ。150のストレートにあんなアジャストしてくんなら軸の球は少し考えざるを得んか。…とはいえ、妻木はヒサほど球速帯に幅があるタイプじゃないし、ランナーが三塁にいる今は、押し込むだけの力があるボールを使いたい。…内野ゴロを見込みつつゾーンで勝負できる球か。ツーシームか高速スライダーしかないよなぁ)」


司令塔として内野に指示を出し、マスクを被りながら俯きがちに池田は蹲踞する。内野は通常の守備体形で、これは一点オーケーというつもりでなく、多賀谷をバロメーターとして考えた時、振れすぎていると感じたからだ。

故に、打球速度と転がった場所如何によっては本塁刺殺は現実的にあり得るだろう、そう池田は考えた。

幸い、強い打球が飛ぶ三遊間方向は、チーム屈指の強肩を持つ佐多と経験豊富な野口だ。

浅い回かつ150出せるピッチャー相手にスクイズもあるまい。

思考を整理し、選択したのは曲がり幅のある高速スライダー。

当てられるよりは空振りがいいと考えたし、振り抜かれる以上、多少手元で動いても失点回避は難しい。そう筋道を立て、池田はゆっくりとミットを外角へ構えた。


結果として、これは裏目に出る。

ゾーンに残ったスライダーは、真っ直ぐのタイミングに合わせていた分、確かにそこは狂わせられた。が、泳いだまんまバットのヘッドが上手く返り、ライナー軌道で三遊間を襲うと、アンツーカーで跳ねレフトへと抜けていった。

佐多が飛び込むも追い付かず、ボールが土を弾いたのを見てランナーは悠々とホームに帰ってきた。


「(ストレート一点張りってよりは速い球全般に反応出来るようにしてたか!対応範囲が狭いのは確かなんだろうが、打線全体の状態がそもそも良さげだな…)」


2球で失点。しかし妻木の失態ではないと池田は考える。

そもそもはシーホース打線を低く見積もってしまった己の不明だ、そう考え、巻き返しを図る。

それでも相手打線を大人しくさせるには一手遅かった。この回は追い込んでからの止めに苦労し、結局4失点を喫してしまった。

攻守交代の間、右目をぎゅっと瞑り、悔しそうに息を吐く妻木に、池田はすぐさま駆け寄って行く。


「妻木、悪かった。俺の対応が遅れた。球自体はいつもと変わらん。篠原コーチと宇多コーチに話して対応考えよう」

「はい。…ちょっとハードラック気味ですかね」

「そうだな」


そう悲観してない様子を確認し、池田は内心胸を撫で下ろす。良くも悪くもメンタルに左右されにくいのはありがたい。ベンチに戻ると、足早に篠原と宇多が2人に並び立つ。

池田が3番に座っているため、そう長くは打ち合わせが出来ないからこそであった。


「配球所見どんな感じや」

「速い球全般に張ってきてる感じです。ただ、どいつもこいつもカチ上げては来てないです。泳いでも流してもラインドライブ。フライヤーズに近い感じですね」


篠原の問いに池田は即座に答える。

ハマると止まらない打線の攻め筋は、同一リーグのチームと似た様な戦い方に収束している。

う〜む、と唸り声を上げる篠原の横で、宇多が妻木へ修正点を指摘する。


「球速は問題ないし、質だろうな。解析ガジェットの速報値見るに、回転数がやっぱり物足りない。カーブ…は持ち球になかったか。投球練習の時に、軽くでかまわないから抜くように投げておくといい。腕の振りと指先の押し込みをそれぞれ修正なり意識なり出来ればフォーシームの質はなんとかなるだろう。次の回は球速じゃなくそっち意識だな」

「わかりました。スライダーは遅い方を中心に取り回すべきでしょうか」

「強く当たれてるからこそ、池田がツーシームを投げさせたがらんかったんやろしそこはスラも一緒やね。妻木の言う通り低速スラを基本線にして、追い込んだら変化球徹底や。あとはレベルに出てくる分ライナー弾道で弾き返されとるわけやから、高さ厳守。あ、2人に聞いときたいんやけどあとどんくらい持ちそう?」

「展開次第ですが、6回までは保たせられるようにします」


素早く目標と指針を設定し直し、よし、じゃそれで、という篠原の声と拍手で散会する。

その後、池田はソロホームランを放ち、差を3点に縮め守りに転じた。

宇多のアドバイスと策定した指針により、その後2回から5回までを立て直す事に成功したバッテリーは、汗を拭いつつグラウンド整備の間、ベンチで6イニング目の打ち合わせを行う。

変化球と真っ直ぐの割合や今日の振り返りなどを交えつつ話をしていると、アナウンスが入った。


「ここで、明日の予告先発をお伝えします。シーホース、ピッチャー、岩上。ネイビークロウズ、ピッチャー、久松」


ざわざわと両翼からファンの声が聞こえてくる。

えぇっ、という悲鳴のようなそれから、げらげらも笑う声まで様々だが、それこそがこの選手起用の難解さを示していると言えるだろう。

十川の代わりというのを察しつつも5月交流戦に入って低調のチーム状況を鑑みるとあまりに博打が過ぎる。

ファンの心境としてはそんなところか。


「いやぁ〜…。ヒサ、明日は頼むぜ…」


チームの勢いが衰えているのは、打線を引っ張る立場の己がよくわかっている。

だからこそ、クロウズの主戦捕手は絞り出す様に、助けを求めるように、予定より昇格が遅れている同期のサウスポーの名前を呼んだ。


試合は2-8でクロウズが敗北しています。

妻木4失点、竹内1失点、後ろに回った中川3失点という内訳です。

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