4/7 通算31セーブ
「えー放送席放送席!お待たせいたしましたヒーローインタビューです。今日のヒーローは9回無死満塁、一打逆転のピンチを!緊急登板ながら見事に退けました久松敬投手です!ナイスピッチングでした!」
「ありがとうございます」
去年から数えて何度目かのお立ち台の上で、俺は努めて表情を殺しつつ、インタビュアーに返事をすると、球場のあちらこちらから地鳴りのように歓声が響く。
我ながら無愛想な受け答えだと思ったのだが、ファンの声は、大きく明るいあたり、全く気にならないようだ。
確かに今日は頑張った。昨年に比べ火力がやや上がったレイダース打線を相手に回し、2イニング目で崩れかかった金子さんを救援する形でのスクランブル登板。セーブシチュエーションになったのはそうなのだが、状況はさっきインタビューにあった通りで、あまり向いてない火消し的な意味合いの強い出番だった。それでもなんとかこなすことが出来てよかったと、表には出さないよう必死にこらえている程度には安堵している。なんだかんだで今季3セーブ目だ。
「去年から今年と、タフな場面での投球が多かったと思いますが!中でも特に苦しい出番だったのではないですか?」
「…そうですかね。投げろと言われた場面で投げるだけですので、あまり関係のない事かと」
数年前に比べれば腹芸も上手くなっただろうか、思ってもない事を、調子が変わらないよう気を遣いつつ話す。いやぶっちゃけ相当しんどかった。苦しい場面なんて誰だって投げなくて良いなら投げたくないだろう。それでも、役割を与えてもらえているから遂行するだけの話だと俺は思うので、返事はあんな感じになる。
そんな風に素っ気なく答えても、インタビュアーの口調とファンの声はまだ熱を保つ。
「いやぁ!流石はあの場面でも飄々と投げるピッチャー!武田さんとはまた違った頼もしさがあります!今季から1イニングを預かる守護神となって投げておられますが、その辺りはどうですか?」
「何も変わりません。何イニングであっても、任された役割を果たす事だけ考えています」
また、スタンドから声が上がる。平日の夜、宵の頃もとうに過ぎたというのに、こうして残って試合を見届けてくれるだけでなく声援をくれるファンには頭が上がらない。
「そして!久松さん。これがクローザーの立場を得てから!30回目のセーブとなります!しかも!この間にセーブ失敗は、一つとしてありません!どうですかッ!」
「…相手がある事ですし、僕1人でどうこうできるものではありません。気にはしていませんが、結果が出るのは良い事だと思います」
歓声に加え、今度は拍手まで聞こえてくる。
すげぇぶっきらぼうだし大したこと言ってない気がするんだけどいいのかなこれファンサービスとして。
「ありがとうございます!大変こう、お立ち台でもマウンドでも落ち着いているところがファンの皆さんにとってもすごく頼りになっていると思います!そんなファンの皆様に、最後に一言お願いします!」
「…えー。今日も大きな声援ありがとうございます。平日ですが、こんなに多くのファンの皆さんに応援していただけて大変嬉しいです。シーズンはまだまだ始まったばかりなので、皆さんのご声援を受け、勢いよくシーズン走っていきたいと思います。たくさんのご声援本当にありがとうございました」
やや最後は辿々しくなったが、ひとまず口調を変えずに言い切れた。
篠原さんに受けてもらったのがはじめてのセーブ。
その後、3イニング投げてチームが勝ってる分のセーブを挙げ、そして今1イニングでまっとうにクローザーをやっている。
ここ3年で色々あり景色や立場も目まぐるしく変わる中で、連続して成績を出せているのは一つ良い要素だと思いつつ、俺はお立ち台を降り、この勢いはいつまで続くかわからないが、出来る限りのことをしようと、そう考えながらダグアウトに戻る。
この後も調子良く勝ったネイビークロウズはスタートダッシュに成功。俺はこの試合の後、5セーブを挙げ、4月の間に計8セーブを記録。
順風満帆、とそう思っていた矢先に、クローザーとして初めてセーブ失敗と敗戦投手の記録がついた。それが4月30日の事。十川さんが投球中に故障し、立ち上がれなくなった日。
ちょうど交流戦と、梅雨前の低気圧が頭に響き始めた頃の事だった。
久松の成績(4/7終了時点)
登板数:3 投球回数:3 奪三振:7 四死球:1 防御率:0.00 3セーブ
以下余談
この話を書くにあたり、セーブの成功率などを調べていたのですが、下記のツールを発見したので計算してみました。
https://www.baseball-jumble.com/entry/2023/09/06/000000
投入数値(今回の話数までで久松がクローザーとして登板した成績の合算)
セーブ:30 投球回:132 被安打:63 被本塁打:16 与四球:27 与死球:1
失点:32
全然意識していなかったのでWHIPがちょっとおかしなことになってますが
そもそもやってたこと自体が現代野球からは外れているので参考程度に捉えていただければと思います。




