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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
3年目(久松プロ6年目)
110/141

3/31 南州レッドウルス 第1回戦

タイダルウェーブ相手に開幕三連勝を飾り、俺たちは今季初めて本拠地でのゲームを迎えた。

開幕戦こそ妻木に譲った荒木だが、このシーズンにおけるホームゲームの一番槍を任され、得意のレッドウルス相手に7回1失点と起用に応える活躍を見せている。

そしてその裏。2-1とクロウズがリードを取っている中、ワンナウト、ランナーを1塁に置いた状況で荒木に打席が回り、代打が送られた。


「9番荒木に代わりまして、野口。背番号、00」


登場曲である藍坊主の『空』を背に、体を伸ばし素振りをして、メットのつばを親指と人差し指でつまみつつ野口さんが打席に入る。

昨年405打席で107の安打を放った打者ながら、今季は加齢や新戦力の台頭もあり、いまだスタメンなし。

打点は早くも犠飛での1がついているあたり、今年も仕事をこなしていると言えるだろう。


「ここで点が入るかは大きいだろうな」


ブルペンでモニタを見ていた金子さんが、そう呟く。

荒木を下げた以上ここからは勝ちパターンでの継投に入る。妻木が開幕戦完封、十川さんと土井が好投し、打線が大差をつけての3勝なので俺と武田さんには未だ出番が回ってきていなかった。

間が空いた、という程でないものの、一つ前にズレた武田さんと新守護神の俺。不安が全くない訳ではないので、ここでリードを広げておきたいのは確かだ。


上位に巡っていく打順、二死にしてでもバントで塁を進めるのはありだし、引っ張れるバッターだからエンドランや普通に打たせても問題ない。打力に加え、そういう小器用さを持ち合わせる野口さんだからこそ、こういう場面で使われるのだろう。

そして、それに回答するのが実にベテランらしい。

バントさせてもいいやと、ただでさえ甘くなりがちな初球の真っ直ぐが、より甘いゾーンに入ってきたのを、決め打ちで野口さんは思いっきり叩いてみせた。結果、ダメ押しのツーランホームラン。

文字通りの一発回答でリードを広げ、武田さんが犬童さんらに少し手こずりながらも抑え込んだ。


「オッケーナイス武田さーん!」


非番になったブルペン陣がモニタを見つつ沸く。それにつられ、一球投げた後画面に目を向けると、武田さんがブルペンの方に向けて指を指していた。

ほんとにシーズンでもやんのかい。


結局、8回裏は無得点。結果として野口さんのホームランが貴重な押し込みの点となりそうな展開だ。

とうとう今シーズン初の出番となる。福屋さんにボールを渡し、軽くつま先を地に打ち付けて泥を取る。

そうして肩を回しリリーフカーの一歩手前で声がかかった。


「ヒサさん」


それだけ言って、初めての開幕一軍入りを果たした竹内が俺に水を差し出す。俺は礼を言って受け取り、コップを返してシートに座る。

そして、ウォーニングゾーンの扉が開き、そこから一筋ナイターの光が差し込んできて広がっていく。

うっすらと聞こえていた『永遠に』のサビの振動が、どんどんと大きくなり、遅れて歓声が響いてきた。


「ピッチャー、武田に変わりまして、久松。ピッチャーは、久松。背番号、43」


今季から変わったDJが、俺の名前と9回特有の何がしかのフレーズを鳴り響かせる。

なるほど、確かにこの雰囲気はこれまでと少し違っている気がするな。

他人事のようにそう思いつつ、ホームの少し荒れたマウンドからボールを投げ下ろす。

そう悪くない感触だ。


「ヒサさん。巡り良いところですけど、頑張っていきましょう」


抑え捕手としてこの回から守りに就いた一色が俺にそう声をかける。

武田さんは1番で切ってくれたので、俺が相手にするのは2から4。菱刈と、赤池の負傷による出遅れで3番に置かれた伊東と、その後ろ4番に座った深水。

見知った選手ではあるが、並びが変わるとその選手が出す味も変わるもの。

GSでの借りを返す、とは言わないがしっかりと試合を畳みたい。


「プレイッ」


歓声と怒号の中、アンパイアの声が聞こえ、俺は一色の股下へと視線を向かわせる。

サインに頷き、ボールをくるくると指で回して握りを作る。

左でコンタクト寄りの選手だが、ひとまず外一杯に通せとの指示を受け、俺は体を捻る。

狙い通り、いや、やや高いがコース内に軌道が収まる。ぱちん、という甲高い音が鳴り、アンパイアが拳を挙げた。


「トライィッ」


シーズン第1球目はひとまずストライク。

ボールを拭い、やや上擦った帽子を整えて打者はと向き直る。

そうする間に一色はサインを決めて構えも作っていた。同じところにカッター。ボールでも構わないと言ったところだろうか。

これにも首肯し、原さんから習った通り切るようにリリースする。


「…トライィッ」


先ほどと似たコースにきたボールだったが、曲がると分かったのか、菱刈はスイングを途中で止めた。が、一色がうまくフレーミングをかけ、主審は一瞬迷ったが1つ前のボールと同じように腕をあげコールした。

最短で追い込んだが、ここまで若干消極的な傾向を見せている菱刈に何を投げるか。

ここまで速球系を続けたからシンカーやスライダー、チェンジアップあたりだろうか。

相手の頭にもありそうなボールだが、こちらはカウント有利。なんとでもなる、そう楽観的に構えてプレートの砂利を蹴る。

サインはチェンジアップ。それは良いのだが、一色が構えたのはなんと真ん中だった。


「(マジか。3球勝負でしかもコース高さ指定なし?滅茶苦茶強気じゃん)」


カッター投げた時の動きから、速球系に反応出来てないと見て、更にそれの裏を掻きに行くという事だろうか。

或いはリリースが前二つと近いのでそこから緩急で打ち取れるという目論見かもしれない。

いずれにせよ、そこまで強く異を唱える気にもならなかったので、それに従うことにした。

いくら真ん中に構えているとはいえ、あまり高いのもリスキーだと思い、とにかく低めに行くよう意識してボールを放る。

ストレートの腕の振りで投じられたパラシュートチェンジは、ゆっくりと沈みながら菱刈のバットをかわしミットに辿り着いた。


「オッケーッファースト回してーッ」


先頭打者を三振に切って取り、一色がボール回しをする。

次の打者はGSで好き放題やられた伊東。これも左の打席に入る。1番の時はかなり積極的に振ってきてあっさりとホームランを打たれた。打球が早く、プルヒッターの気がありそうだ。

ちょっと悪い言い方だが、総じてせっかちなバッターに見える。

手元で動く系のボールにさっさと手を出させて、内野ゴロで仕留められれば嬉しいがさて。


「(カッターね。低く低くで外に構える、と。逃げる軌道の方が芯食い辛いし、そうなるか)」


意図のはっきりした要求に、俺はそう間をおかずボールを投げた。

外に逃げる低めの球を無理やりバットの先で拾った伊東だが、1、2塁間は引っ張り警戒でヒットコースは相当に絞られていた。

加えて、守備範囲のごまかしと速い打球への対応のため、セカンドの田島は深く守っていた。結果、あっさりと打球に追いつき、スナップを効かせてボールを1塁へ送る。

これで2アウトだ。


幸いなことに、1人で逆転出来る状況は潰すことが出来た。安心は出来ないが懸念を少なくして深水と相対する。


「プレイッ」


深水がルーティンを終え、プレイがかかる。

さてこの打者をどう抑えたものか。最初の球を決めかねるななどと考えていたら、一色の指が動く。なるほど、バックドアのスライダー。

強打者が並ぶ故か外攻め傾向の強い配球だ。マークされやしないかと思ったが、一色が丸く円を描くようなジェスチャーをする。広く投げろ、すなわちボールでも良いということだ。

外を意識づけしたいのだと取り、インステップにならないよう気をつけつつ踏み出す。


「ボォッ」


巻き込んでストライクゾーンへ向かう軌道を深水はすんなり見送った。

これを見て一色は同じところへツーシームのサインを出す。引っかければ御の字、見逃すならそれでよし。そう思いつつ腕を振る。


「トライッ」


配球の大枠は菱刈を三振させた時と変わらず、外に外にとボールを集める形になっている。

ただ、菱刈と違うのは深水が右打者であるという点。よし追い詰めたぞ、で1番良い球を投げ込もうと思ったとき俺の手札から選ばれるのはストレートになる訳だが、最も力が入るのはいわゆるクロスファイアの軌道だ。これは強力な反面、対右では相手の体に近く、うまく回られると長打になる可能性が高いというリスクもある。

要は、いつ内を突くかの勝負なのだ。


俺のストレートが比較法で決め球質なのは間違いなく、俺もそのつもりだったのだが、それでも3つ目のストライクを行くとなれば相手もそこはヤマを張るところだろう。

故に次投げるボールを決めかねていたのだが、一色はそれはひとつ繰り上げて要求してきた。

昨年抑え捕手として出ていた訳だし1イニングの経験だけなら俺よりもなんだかんだ豊富になってしまっている。

ここは一色を信じ、インコースへストレートを捩じ込む。

141キロのストレートが、深水が出したバットの上を突き抜ける。

なんとか追い込んだか。


カウントは2-1。余裕はあるのでここで組み立てを見直せば、とそう考えていたところに、一色が決めていたのか座ると同時にサインを飛ばしてきた。

俺はそれに内心なるほど、と膝を打ちながら頷く。

低くのジェスチャーを視認しつつ、足を上げ、膝を折る。真っ直ぐを突き刺した時と同じようにデリバリーをして、ボールは鷲掴みに近い、しかし人差し指と薬指で挟むように握りでいつも通りのフォロースルーをする。


わずかにチラついた握りと腕の振りでもって、大好物のチェンジアップだと考えたろう深水は、ギチギチに力みつつ大きくスイングをし、バランスを崩して膝をつく。

128キロのスプリットチェンジがやや内の低目の道を抜け一色のミットに収まる。

試合終了。新クローザーとして臨んだ試合は、1回完璧2奪三振と上々の結果だった。

久松の成績は三連休のどこかで追記しますので少々お待ちください。


10/15追記


久松の成績(4/1終了時点)


登板数:1 投球回数:1 奪三振:2 四死球:0 防御率:0.00 1セーブ

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