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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
3年目(久松プロ6年目)
109/141

3/20 出陣式

まとまりに欠ける気がするので修正を入れるかもしれません

夕方の日は少しずつ長く明るくなり始めているが、まだ気温の上がりきらない3月の下旬、午後5時半の空は橙と黒との押し合いに決着がつきそうな具合だ。

両翼のLEDライトは眩く白い光をグラウンドに投射し、俺たちクロウズメンバーは今シーズンの出陣式のため、その光の真ん中にいる。


スタジアムDJが強い北風を物ともせず司会進行をし、こういってはなんだが選手にとっては退屈なプログラムが消化されていく。

うちのチームにはキャプテンがいないので、代わりに選手会長の野口さん、それから監督、球団社長達がそれぞれ所信表明をした。

いずれの口からも、はっきりと、リーグ優勝を狙う・いける・目指すと語られ、ここ数年なかった勢いや熱が言葉に込められていたように感じる。


その後、選手やスタッフはそれぞれ担当イベントの場所へと足を向けた。とりわけ主力選手はサイン会やトークショーなど、ファンサービス系の仕事をさせられるのである。

俺はというと、リリーフカーに乗ってサインボールをスタンドへ投げ込むという仕事を振られたので、まぁ目立つわけでもなし、そこそこ乗り気だ。トークショーやサイン会が本命の人も多いし、観客は少ないだろうと思っていたが、想像の2倍は残っていて少し驚いたのは内緒だ。


レフト側からゆ〜っくり回っていくリリーフカーに揺られつつ、俺は事前に準備したサインボールを野口さんや金子さんと一緒に投げ込む。

これで喜んでもらえるなら何よりだ。


なんて思いつつスタンドを見ていると、ライト側からの歓声が少し弾ける。

何かと思い視線を向けると、チームカラーである濃紺のトラックの荷台に乗り、サングラスをかけバズーカのようなものを担ぐフィリップとロドリゲスの姿が目に映った。そうしてバズーカからはボール、おそらくサインが入ったものが射出され、五月雨のようにライトの客席へ降り注ぐ。わぁすげぇボコボコ言ってら。

人懐こく陽気なフィリップにラテン系のロドリゲスのノリは波長が合うのだろう、ファンだけでなく2人して相当に楽しそうだった。

はしゃぐ声や笑い声がこだまする中を何周かして、ストックのボールを投げ切ったところで、車二台は揃って撤収した。


「ふぃー。お疲れヒサ。サンキューな」

「いえ。野口さんも金子さんもお疲れ様でした」

「お疲れっす!いやー盛り上がってホッとしたっすね野口さん。ヒサ以外外様だからちょっと不安でしたけど」


金子さんの言葉に、そういえばそうだったなと今更ながら思う。

本命を他のイベントに見込んでいたとしてもちょっと固め方が特殊だ。

まぁ、そもそも一軍に出られるような生え抜きがほぼほぼいないというのもありそうではあるが。


「ヒサとフィリップいたらまぁそれなりに人は来るよな〜」

「いうて野口さんのタオル持ってる人結構いましたよね。あと金子さんもなんだかんだ名前呼んでる人多かったし。玄ちゃん玄ちゃん言われてましたよね」


俺が金子さんに水を向けると、金子さんは照れくさそうに笑った。移籍してきてフル回転した選手だし、そういう泥臭さやひたむきさを好むファンはかなり多い。

もちろん野口さんも苦労の多い選手だし、金子さんと同じベクトルでクロウズファンには愛されている。助っ人の2人然り、この2人然り、ファンとのやり取りを喜んでやってくれるのを見ると、温かい心持ちになる。


さて、そんな話と雑談をしつつ、俺たちがグラウンドから離れる頃、ちょうど私設応援団が新応援歌の発表と練習をスタンドで始めた。

今回作られたのは佐多と田島、それからアダメスのチャンステーマバージョン。

揃ったトランペットとやや太い歌声から離れつつロッカーを目指していると、ここのところ聞きなれてきた高い声が俺を呼んだ。


「久松選手、すみませーん」

「あぁ、菅さん。取材ですか」


関東スポーツのワッペンを右腕につけた菅記者が、駆け足でこちらに来る。


「えぇ。お時間はありますか?」

「まぁ、少しなら」

「ありがとうございます。えーと、じゃ、今年はどこで投げるのかから聞きますね」

「はは…。それ去年も聞きませんでしたっけ?監督に聞いてくださいそれは」

「えーっ。…じゃあ代わりに新球種の手応えとかを伺えますか?」


口をついて答えそうになり、慌てて開いた唇を締める。

危ねぇ。すげぇ自然かつ絶妙に返答のハードルや抵抗感を落としてくる。

答える事自体は問題ないのだが、考えなしに喋る訳に行かない質問だ。


「…ま、ぼちぼちすかね」


武田さんと一緒に受けた取材の記事は、使える所が少なかったろうに俺の怪我の程度や改善点などを極力ぼかして書かれていた。他に比べれば遥かに信のおける記者なのは間違いないだけに、僅かな心苦しさを感じつつも俺はそう答える。すると菅記者は笑いながら軽口を叩く。


「久松さんほんと自分のことはっきり喋ってくれないから困りますよ〜。何なら答えてくれます?今日のイベントの感想とかなら話せますよね?」


と、そんな調子のやり取りを何度か繰り返し、誤魔化し笑いを浮かべつつのらりくらりとかわしきって取材を終えた。

少し体力を使ったな、とため息を吐きロッカーに向かおうとすると、池田と佐多が、なんというかじとっとした目でこちらを見ていた。

球団が用意したであろうサイン色紙で口元を隠し、まさにおばちゃんが噂話する時のそれだった。


「池田さん見ました今の。ヒサさんがちょっと笑いながら取材受けてましたよ。普段取材受けてる時ひとっつも笑ったりしないのに」

「あぁまぁ菅さん綺麗だしな。俺はTテレの富田さんとか関スポだと徳井さんとかのが好みだけど」

「いや、そのへんどうこうみたいな話はしてないっす」

「うるせーな。そんな下心ありきで取材なんか受けねぇよ」


ガキかよ、と思いつつ俺は否定のために会話に渋々加わる。


「困ってたの!あの人突然現れて取材させろって言ってくるから。まぁ確認取ってきて、事情があればちゃんと引き下がってくれるだけありがたいんだけど」

「まぁ菅さん丁寧だし変なこと書かないし。優先して取材受ける気持ちはわかるッス」

「ていうか俺じゃなくて良くねとも思うんだよな。同級生で同郷だから気にしてくれてんだろうけど。今聞くならそれこそ新応援歌もらった佐多とかに話聞いてやればいいのに」


俺がそういうと、佐多は誇らしげに胸を張る。


「どうよ、専用応援歌聴いた感想は」


池田が持っていたサインペンをマイクに見立て、口元に持っていき、そう聞く。

佐多はサインペンの先端へ口を寄せると、心底嬉しそうに言った。


「いや最高っす。普通にカッコいいのに前奏までついててめっちゃ嬉しい。期待されてるんだなって思いました」


期待。それは何も佐多にのみ向けられたものではないだろう。

昨年までよりも確かに大きくなっている歓声と高まりを見せる熱。すなわちチームに寄せる期待も確実に膨らんでいるという事だ。

遠く聞こえる応援歌を背に、今シーズンへ懸ける思いが一層増す出陣式だった。

久松の能力値(※イメージ)

球速MAX148km/h AVE142km/h

コンD58スタC64

変化球スライダー3シンカー3チェンジアップ1カーブ1カットボール1スプリットチェンジ2ツーシーム

緊急登板⚪︎ 回跨ぎ 一発 ケガしにくさB フライボールピッチャー 軽い球 球速安定 クロスファイヤー(某ゲーム表記ママ)

NEW:ノビB 回復B 奪三振

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― 新着の感想 ―
神宮にはバズーカ持ってTシャツを飛ばすマスコットがいましてね ノーバンでキャッチが出来たらというゲームがあったんですよ ってね、本文読んでいたら思い出して、しんみりとしました
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