シュナ、聞き込みをする
証言その一。串焼き売ってるおっちゃん。
「領主の方針が変わったのはいつからだって? あぁ、それなら、おかしな傭兵が領主に取り入ってからだろうねぇ。名前? 名前は知らないよ。何でも、有名な使い手だったって話だがね」
証言その二。パン屋のせがれ。
「あっ、しゅ、シュナさん! こここ今日は、お日柄もよく……。えっ、ここの占有ダンジョンが何を算出しているかですって? 以前は綿毬藻が特産でしたけど、今は第五層で採れる魔物の牙か何かがメインらしいですよ。〈防疫〉の能力がついたアクセサリーになるんだとかで、南に派兵している王国軍に高く売れるそうです。あっちじゃ水が合わないそうですから。あっ、パ、パン買っていきますか? シュナさんなら、オマケしますよ」
証言その三。カーロッサ草を加工して入浴剤を作っているオバちゃん。
「昔から、ここの領主になる貴族は国政から締め出された人が多くてね。この巨大な断崖が王都への侵攻を完全にシャットアウトしちゃうから、誰でも務まるし。仮にここを取られても、上から矢なり魔法なりを降らせばいいんだ。何も期待されない、かといって無下にもできない鼻つまみ者の終着駅さね。もっとも、観光でそこそこ儲かるから、これまでは特に文句も出なかったそうだが。その観光をそっちのけで、領主軍をこき使っているのが、不気味よねぇ」
証言その四。町でたむろしていたゴロツキ。ちなみに、昨日助けた風俗のお姉さんと知り合いだと言ったら、急に態度が良くなった。
「何でも最近、領主軍がダンジョンの奥に何か運び込んだようだぜ。大きさは大体そこの樽ぐれぇだそうだが。精鋭を配置して、厳重に守っているそうだ。中身がなんなのかは知らねぇがよ」
証言その五。綿毬藻作りの内職のオバちゃん達から話を聞いてきたアイシャちゃん。
「あ、そういえば。シュナちゃんが助けたっていうシスターたちだけど、ソリロークの人だったみたいだよ。あっちの国教は、元々こっちの教会から宗派争いで負けて追い出された一派が広めたものだから。今でも神職はパララクシア系が多くて、パララクシア語を話すんだってさ。ファラシオから来た行商人が、そう言ってたって」
隣国の支配者層は元パララクシア人だというのは聞いたことがある。
彼らは国を追われたことを恨みに思っており、元いたソリローク人を支配して虎視眈々とパララクシアへの復讐の機会を伺っているんだとか。
「う~ん」
すべての証言をまとめ終えて、私は宿で唸っていた。
ちなみに、今日はカーロッサ草刈りはおやすみです。
「なぁんか、裏で悪どいことやってそう、ってのは分かったんだけど、それより先がどうにも掴めんなぁ」
「ふぅむ。その、最近、領主に取り入ったとかいう傭兵が怪しいのう」
と、新たな証言。
証言その七。証言をまとめていた私の話を聞いていたモグ竜。
「のう、これ、ふと思ったんじゃけど、今ソリロークに攻め込まれたら一たまりもないんじゃないか? この町。領主軍は疲弊しきっておるし、王国軍は南へ出払っておるし」
「あ~。言われてみれば、確かに。でも、ソリロークからしたら、わざわざここを落とす価値もあんまないだろうし、それはないんじゃない?」
「ふぅむ。じゃが、宗教の問題は根が複雑じゃからのう~っ」
「考えすぎだって。モグ竜。まぁ、いきなり戦争ってことはないにしても、ここに長くいたら、面倒ごとに巻き込まれそうではあるよねぇ」
ヴァレンシアさんに不審がられるリスクを負ってでも、さっさと退散しようか。
「スチールソード、売らないとね」
「うっ」
「この町を出るつもりなら、せっかく買ったスチールソード、売らないと路銀がないもんね」
「うぅっ」
アイシャちゃんのジト目が痛い。
ちょっと働けば何とかなる、という楽観的な目論見で、高い買い物をしてはいけない。
私は学んだ。
「きょっ、今日か明日に、いきなり何か起こるってもんでもないと思うし! 私も、もう少し調べてみる!」
最後の悪あがきだ。
売らないで済むなら、売りたくない。
私はもう少し、この町で何が起こっているか、調べてみることにした。
* * * * *
(ヴァレンシア視点)
フェンレッタから得た情報では、この町に、いる、という噂だった。
十三聖剣の半数は行方が知れないとされているが、その内の一振りをとある傭兵が所持しているとの噂が、以前よりあった。
もしやその剣こそが、黎明剣アルマレヴナをへし折ったあの剣なのではないか?
そう考え、この町にやって来たのだが……。
「おっと! またゴブリンか」
ここはカーロッサの占有ダンジョンの第二層。
ここに沸くモンスターはゴブリンだ。
この程度なら、メインウェポンを失くしたヴァレンシアでも、悠々と撃破できる雑魚である。
もっとも、ゴブリンと言えど、一般兵にとっては脅威だ。
彼らは魔戦将軍たちのように、魔力のこもった鎧で守られているわけではない。
死の危険は充分にある。
「どうも、この町はおかしい」
占有ダンジョンに領主軍を派兵することは決して珍しいことではない。
むろん、領主軍の任務は基本、領地の防備であるが、この町のように敵から攻め入られる危険がほとんどない町であれば、占有ダンジョンに潜らせ、アイテムを独占する領主がいないこともない。
「しかし……。ほぼ休みなしで周回させ続け、数多くの死者を出している。よそから来た冒険者が、この町の高い物価に音を上げて、コンスタントに領主軍に志願しているようだから、総数こそ減ってはいないそうだが……」
どうせ増えるのだから、減った分だけ使い潰す、そのような運用意図が感じられて、ヴァレンシアは苦虫を噛み潰したような思いだった。
「栄えある我がパララクシアの領主ともあろう者が、領民や冒険者を人とも思わない非道な仕打ちを……!」
角を曲がったところで出会ったゴブリンを斬り伏せて、ヴァレンシアは憤った。
噂によれば、最近、領主に取り入ったという傭兵が、第五層のどこかに何か大きなものを運び込ませたという。
それが何なのか、そして、その傭兵の狙いが何なのかを探ろうと、夜中に密かに占有ダンジョンに潜り込んだのだった。
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「第五層のモンスターは……ヴェノムピードか!」
人より巨大なムカデが、鉄より硬い甲羅に覆われている。
その牙からは猛毒がしたたり、かすっただけで人を瀕死にする。
その腹には人間の顔にも似た、二つの目のついた突起物があるが、口に当たる開口部は横ではなく縦に避けていて、心の弱い人間なら見ただけで発狂してしまいそうなおぞましさだ。
「それが百匹近くも、うじゃうじゃと!」
人間大のムカデが這いずり回れる程度には広い空間があり、幸い、ハルバードを振り回すのに問題はない。
このハルバードも、十三聖剣ほどではないが、そこそこの魔力が籠ったユニーク武器である。
ヴェノムピード程度になら引けは取らないが……いかんせん、数が多い。
「くっ! 邪魔だっ!」
少し、蛮勇が過ぎた。
アルマレヴナを失った失態を取り返そうと、知らず知らずのうちに焦っていたのかも知れない。
「この数では……うっ!」
ヴァレンシアの体を、十数匹ものヴェノムピードが一斉に締め上げた。
内側にいるヴェノムピードが潰れ、体液が鎧の間から侵入してくる。
それほどの圧力をかけられ、さしもの鎧そのものも、ミシミシときしんでいる。
「息が……でき……」
振りほどこうにも、口から入ったムカデの体液から毒が回り、思うように体が動かない。
領主軍がこの階層を制圧する際は、隊列を組み、支援魔法によって群れから分断して、一体ずつを複数名で取り囲んで倒している。
それを考えれば、たった一人で数十匹を倒し続けたヴァレンシアの強さは驚くべきものであるのだが……
今の彼女にとっては関係のないことであった。
「ここで死ぬ……のか?」
そう覚悟を決めた、その時、
全身にかかっていた圧力が、ふいに消失した。
「あのぅ、大丈夫ですか? そこの人」
ばらばらとヴァレンシアの体からムカデが剥がれ落ちていく。
傷つき、倒れそうな体を支えながら振り返ると、そこに立っていたのは、赤く輝く銅の剣を手にした、仮面の剣士だった。




