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シュナ、剣を買う

「う~ん、この重厚感。この鈍い輝き。いつまでも見ていられるわぁ」


 私は宿屋に帰ってからずっと、新しく買った剣を手入れしていた。

 宿屋の女将さんに教えてもらった、カーロッサ随一の武器屋で買ったものだ。

 鋼鉄を鍛えて造られた剣、スチールソードである。


「いやぁ はがねのつるぎは ぼうけんしゃの あこがれだよねぇ」


『クリシュナ。そんな剣なんかよりも私のほうが何億倍も優れているのですが、なぜそのような剣にそこまで入れ込むのですか』


「鼻にくる鉄の匂い。整備用の油もおまけしてもらったし。いい買い物したわぁ」


『クリシュナ。聞いていますか? クリシュナ!』


 さっきからミラがうるさい。


「だって、ミラには〈自己修復〉がついてるじゃん? だから、お手入れのしがいがないけど、この剣はそんなのついてないから。お手入れすれば、したぶんだけ応えてくれるんだよ。この剣が何人の冒険者の命を救ってきたことか……」


『バカな! 能力で比べれば差は歴然としています! そんなナマクラより、私のほうが明らかにあなたの役に立ちます!』


 出会った当初は事務的なことしか言わなかったミラだけど、最近、結構人格の幅が広がってきている気がする。

 特にこの間、〈磁力〉を使った高速移動を見せてから、何かが変わったような。


「頬ずりせんばかりの勢いじゃぞ、シュナ殿のやつ」


 モグ竜が呆れている。


 まぁ、いいじゃないか。

 私だって、単なる憧れだけで買ったわけじゃない。


 ヴァレンシアさんには一度、剣を見られている。

 私の顔は覚えていなかったけど、剣のほうは覚えていた。

 そのため、ダミーの剣を買ったのだった。

 これからは、普段はブロンズソードを〈次元収納〉にしまい、腰にはスチールソードを下げておこうかと思っている。


「シュナちゃん。それ、結構高かったんじゃない?」


「ん? いや、そんなでもないよ。いいものだから、多少は値は張るけど。このクオリティだからそれは仕方のないことだし」


「ん! も、もしかして……!」


 と、アイシャちゃんがまなじりを釣り上げた。


「いくらしたの、シュナちゃん!? お、怒らないから、正直に言って!」


「え? これはね、金貨120枚かな。結構お値打ち品だったんだよ。王都で買うとあと30枚は高くつくはずだし。見てよ、この輝き。〈鋭利化3〉のブロンズソードよりも、素の切れ味が鋭いらしいよ。さすが、カーロッサ随一の名匠が打っただけは……」


 そう言いかけた私を遮るように、アイシャちゃんが、


「こ、こ、このぉ~!」


 と、急にぽかぽか殴ってきた。


「え? な、なに、急に!?」


「金貨120枚もあったら! 三人で! 15泊はできるでしょ! ここは辺境だから、隣町に行くのにも、道中の食費やら、乗合馬車の代金やら、結構なお金がかかるのに!」


「お、お金の心配してるの? 大丈夫だよぉ、私それなりに稼いでるし」


「でも、クッシーナ草を大量に取ってき過ぎて、ギルドに値引き交渉されたんでしょ? 領主軍が出し渋ってる可能性があるよ。となると、ギルドも今までみたいにホイホイ買ってくれなくなるんじゃない?」


「ぐっ!」


 そ、そうだよね。

 クッシーナ草が値崩れしたら、今みたいな贅沢な暮らしも出来ないだろう。


「でも、だからこそ、お金のある今のうちに、このような価値のある買い物をしておいたほうが、後のためになる、という考えなのですが……」


「あんたはっ! 最強の! ブロンズソードが! あるでしょぉ~!?」


 アイシャちゃんが叫んだ。

 あ、あんたなんて初めて言われたけど!?

 私が驚いていると、アイシャちゃんは急にシュンとした。


「そりゃ、お金を稼いでいるのはシュナちゃんだからさ。使い道に関して、どうこう言える立場じゃないけど」


「いやぁ、それは……」


 立場とか、そんなこと気にしなくてもいいのに。

 村じゃ、身寄りのない子供はみんなで育てるという考えだった。

 一度、ついて来ていいって言った以上、アイシャちゃんが成人するまでは、親代わりとはいかなくても、姉代わりでいるつもりなんだけど。


 すると、アイシャちゃんさらに続ける。


「……これで、カーロッサには、まだしばらく滞在しなきゃいけなくなるね。すぐ町を出たら怪しまれるけど、バレないぐらいに時間を置いたら、さっさと町を出ることだって出来たのに」


「うぐっ。た、確かに」


 四~五日ぐらいで町を出るって手もあったのか。

 ある程度の貯えを作って、余裕をもってこの町を出るためには、あと十日はヴァレンシアさんのいるこの町にいないといけない。


「クッシーナ草が値崩れしはじめたら、もっともっと滞在することになるよ」


「ぐぅぅっ!」


 返す言葉もない。


 隣町まで、モグ竜に走ってもらうか。

 ただ、振り落とされないように一昼夜しがみついているのは、かなり大変。

 私は平気としても、アイシャちゃんにはキツいはずだ。


 いざとなったら、この剣を売るしかない……の、か?

 せっかく買ったのに……?


「のうのう」


「ん、なに?」


 スチールソードの行く末を案じていたら、モグ竜が私の服を引っ張った。


「外が騒がしいようじゃが」


 そう言われて窓の外を見下ろすと、数名の女性と兵士たちが揉めているのが見えた。

 っていうかあれ、こないだ私を水商売に誘ってくれた女の人じゃない?

 何かは知らないけど、止めないと!


「ごめん、二人とも! ちょっと私、助けに行ってくる!」


 慌てて宿を飛び出て、割って入った。


「何してんのよ、あんたたち! 女の人二人に、寄ってたかって」


「なんだぁ、おめぇ。関係ないだろ。すっこんでろ!」


 と、お姉さん、私に気づいたみたい。


「あら。あんた、こないだの。へぇ、こんな一等地の宿に泊まってるなんて、稼いでるじゃない」


「えへへ。まぁ、それなりには」


「ふぅん。お金持ってる子は好きよ。なんなら、あんたが知らない新たな世界、教えてあげようか?」


 ひぇ。

 こんな美人にそんなこと言われたら、その気は無くてもドキドキしちゃう。


「おっ、おい! 俺の相手をしろって言ってんだろ!? そんなチンケなガキのどこがいいんだ!?」


 お姉さんに無視された兵士の一人が叫んだ。

 ってか、お姉さんたちが襲われているのかと思っていたが、どうも様子が違う。


「ハ! 金がないのに、あんたらの相手なんてしてられっかい」


「そ、そうは言うがよ。頼むよ、また明日っからダンジョンに潜らなきゃなんねぇんだ。お前を抱いている時だけが、心の安らぎなんだ」


「なら、金持ってきなってさっきから言ってるだろう!」


「だ、だから、ねぇんだよ。俺だって無駄遣いしているわけじゃねぇ。ただ、ダンジョンから帰ったら教会で毒と傷の治療を受けなきゃならねぇし、武具の手入れだって金がかかる。ギリギリの分しかもらえてねぇんだ」


 すると、他の兵士たちも懇願した。


「なぁ、頼むよ。こいつ、明日から“魔の第五層”なんだ。あんなところに長くいたら気が狂っちまう。あそこの毒虫は蛇みてぇにデケェうえに、皮膚を食い破って体の中に入ってくるんだ。何十匹もな。毎月、あの虫に体を食い破られて死ぬやつが後を絶たねぇ。たとえ死ななくても、腹ん中を虫が這いずり回る恐怖で、汚物を垂れ流すだけの廃人になっちまうやつも多い。俺たちがかろうじて正気を保っていられるのは、あんたらのおかげなんだよ」


「だから、お涙頂戴を理由に抱かせろってか?! 話にならないね! あんたら雁首揃えて一人分の金も用意できないのかい!? 諦めて、とっとと帰んな! あたしゃこれから、この坊やとイイコトするんだからねぇ~」


 と、お姉さんが私にしなだれかかってきた。

 お腹のあたりをまさぐられ、太ももを絡めてくる。

 兵士が激昂した。


「お、おめぇ! 裏切んのか!? あれだけいつも通ってやったのに!」


「ふん。いちいち、相手の顔なんざ覚えちゃいないよ!」


「てめえええっ!」


 顔を真っ赤にして、兵士が殴りかかってくる。

 さっきの話を聞いていると、同情したくなってくるけど。


 お姉さんはさっと私の後ろに隠れてしまった。

 んもう。


「あの、ごめん。ボーリョクはよくないよ」


 男の拳を躱し、スチールソードの柄を男のみぞおちに当てる。

 それだけで、男は昏倒した。


「ジェイク!」


「く、くそ! 覚えてやがれ!」


 捨て台詞を吐いて、仲間を抱え逃げ去る男たち。

 その後姿も、何だか哀れに見える。


「……すまなかったね、お嬢ちゃん」


「いえ。ああいうこと、多いんですか?」


 私は意を決して聞いてみた。


「最近、クッシーナ草が大量に入ったらしくてね。領主はダンジョンへの派兵を増員したんだよ。第五層へ行かされる兵士の数が倍近くに増えた。だが、第五層に行くのも、浅層で露払いをするのも給料は同じなんだそうだ。ああいった手合いも増えるさ」


「それって……」


 私がクッシーナ草を大量納入したせい?


「酷いらしいよ、第五層は。あんたは私みたいな水商売を軽蔑しているかも知れないけどさ。エロいことだってしないじゃないが、あたしらの本当の仕事は、悪夢にうなされている男たちを抱きしめて、安心して眠らせてやる事だと思ってる」


「だ、だったら!」


「私だって息子を育てるのに金が要る。可哀相だとは思うけど、一人だけ特別扱いしてたらキリがない。ま。あんたなら大歓迎だよ。“新しい世界”ってのが気になったら、いつでもあたしを買ってくれていいからね」


 そう言って笑うと、お姉さんたちは夜の町へと帰っていった。

 私はしばらく、呆然とお姉さんたちが去っていった方を眺めていた。


「シュナ殿? 遅いから様子を見に来たぞ。シュナ殿のことじゃから大丈夫とは思うが、何ぞあったのか?」


 モグ竜の声にも応えず、私は考えていた。

 この町、どうもキナ臭いぞ……?

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