シュナ、考える
「いたいた、これが鉄虫ね。組合にもらった見本書通り」
カーロッサから見下ろせる平野に、私たちは繰り出していた。
しかしまぁ、問題の“鉄虫”ウジャウジャいるはいるんだけど……小さい。
テントウムシみたいなサイズ。
一匹いくらとかいう話じゃない。
多分、革袋いっぱいに詰めて銀貨1枚か2枚みたいな話だ。
これで銀貨25枚稼ごうと思ったら、朝早くから始めて日が暮れるころにようやくって感じだぞ。
確かに一日銀貨25枚ではあるけどさ。
騙された。
「この広い平原を、こんな小さな虫を探して一匹一匹掴まえていくの?」
「むぅ……。こんな小さな虫じゃと、われの炎で一網打尽にしようにも、一瞬で溶け消えてしまうのう」
すると、アイシャちゃんがぴんと人差し指を立てた。
「あれ使えばいいじゃん、シュナちゃん」
「あれ?」
アイシャちゃんの提案が分からない私。
すると、アイシャちゃんはこれ見よがしにため息をついた。
むむっ。
なんだその目は。
「シュナちゃん覚えてないの? 最近、宿で一緒にブロンズソードに籠った魔力の暗記やってるじゃない」
「ええと……」
「せっかく999の能力があっても、本人がそれに気づかなかったら使えないんだからね。宝の持ち腐れになるよ?」
うぅ、手厳しい。
私には〈並列知能〉のミラという心強い味方もいるにはいるけど、基本的に私の意志をサポートするのが役目だ。
こっちから何かを提案しない限り、答えてくれることはまずない。
例外と言えば、魔王ランドールと戦った際に、私のメガファイアから味方を守ってくれた時ぐらいだけど。
……ミラが自発的に動いてくれるのって、どういう時なんだろう。
何か条件があるのかな。
「……んもう。じゃ、ヒントね。鉄と鉄が引き合うのは?」
「えーっと、磁石?」
雷が鉱山の頂上などに落ちたりすると、山師は天然の磁石を探しに、鉱山に分け入るという。
そこそこの高値で売れるんだよね、珍しいものだから。
ってことは……
「あ~! あれか、分かった! ミラ、能力〈磁力〉を使って! 鉄虫をくっつけちゃって!」
『承知しました』
ミラの声が聞こえたと思ったとたん、ばぢっと音がして、ブロンズソードに何か貼りついた。
鉄虫だ!
「ほほ~い! これなら楽勝じゃん!」
剣を無造作に振るうだけで、ばちばち音を立てて鉄虫が寄ってくる。
それを片っ端から革袋に詰めてもらって、〈次元収納〉に放り込んでいく。
私たちは夕方までに、実に銀貨30枚分の鉄虫を集めたのだった。
:
:
:
だが……
「だ、騙された……」
私は、町で一番安いという宿を出て、絶望に打ちひしがれていた。
「何で一番安い宿が、三人で金貨7枚もすんのよ……」
ここが観光地だったというのを忘れていた。
例え、観光客が激減していたとしても、いや、激減しているからこそ、この値段で当然なのかも知れない。
女将さんに聞いたら、旦那さんと二人の息子さんが領主軍に入って、その給料で何とか食べているらしい。
彼らの武具の手入れに忙しく、その時間を割いて客なんて取るなら、この値段じゃなきゃやってられないと。
金貨7枚……銀貨にして140枚。
ミラとがんばって、仮に一日100枚分の鉄虫を集めてもまだ足りない。
貯えが減る一方だ。
でも、昨日はどうしてもお風呂に入りたかったんだ……。
鉄虫の体からは油みたいな黒い粘液が出ていて、すごく匂うんだもん。
「良い宿じゃったのう~。われは、人間の宿に泊まるのは初めてじゃが、竜王国の田舎と比べても、そこそこの宿であった。欲を言えば、もう少しベッドがふかふかでも良かったのう」
「悪くなかったね」
ぐっ。
アイシャちゃんが元お金持ちなのは知ってたけど、ルヴルフも贅沢言うなぁ。
「シュナちゃん? 私、〈領域作成〉で寝てもいいよ?」
「えーっ、われは嫌じゃ。あんな白くて何もないところで寝ていたら、いつか発狂してしまうのじゃ」
「贅沢竜め……。だけど、こんな閉ざされた町で、いきなり消えたり現れたりしていたら、変な噂が立ちそうなのは事実だし……」
「じゃ、私、綿毬藻作りの内職するよ。少しでも、足しになるかも知れない」
「私もちょっと、クッシーナ草の採取に行ってこようかと思ってる。はしごを降りるときに背負える分だけしか持ち運べないって言われたけど、私には〈次元収納〉があるからね。崖の上で野宿して、手あたり次第刈ってくるよ」
「大丈夫? 危険じゃない? 夜は魔獣が出るっていうよ」
「平気平気。私にはブロンズソードがあるし、それこそ〈領域作成〉で寝ればいいからさ」
「われはパスじゃっ。あんなはしごを半日も登り続けるなんて……、うぅ、狂気の沙汰じゃ!」
うぐ、こいつぅ。
分かってんのか~? お前が宿泊費引き上げてんだぞ!?
アイシャちゃんと二人旅なら、ベッドだって一つでいいから、部屋も安く上がるんだぞ!?
って、んなことないか。
「……まぁ、アイシャちゃんを一人にはしておけないから、ルヴルフに頼もうとは思っていたんだけどさ。とりあえず、帰るまで待っててくれる?」
:
:
:
「ダメだな。お前さんがどうやってこんなに大量のクッシーナ草を採って来たかは分からねぇが、買い値は一律五割引き。しめて、銀貨150枚ってところだ」
「ええーっ!? なんでですかぁ!?」
あんな高いはしごを上り下りして……二日で銀貨150枚?!
大量のクッシーナ草を組合に運び入れるのに、人目のつかないところで〈次元収納〉から出しては何度も往復する、なんて小芝居までしたのに。
あ、あんまりだ。
むちゃくちゃ高かったし、フック付きロープを命綱にしながら慎重に登ってたけど、いつ落ちるかすんごい怖かったんだぞ!?
途中、雲の中を通り過ぎたからね?!
「さっきも説明したろ。お前さんがはしごを登る許可証を、警備兵に出したのが昨日の朝。帰って来て、許可証の返還記録にサインしたのが今日の夕方。一日経ったクッシーナ草は効能が落ちるから、買い値は半額。これは負からねぇ」
「そんな! 鮮度なら大丈夫ですよ。〈次元しゅっ……」
「次元……? なんだ?」
「うぅ、いえ……」
ブロンズソードの〈次元収納〉に保管したものは、時間が止まったように鮮度が変わらない。
のだけど、そんな言い分、説明するわけにもいかないし。
例え、新鮮なままだとおっちゃんを説得したとしても、組合的に、例外を認められないのも分かる。
「こんだけ刈って来たってことは、お前さん崖の上で野宿でもしたんだろうが、魔獣に襲われなかったのが幸運だと思うんだな。そういう無茶するやつが出ねぇようにって意味も込めて、うちじゃ一日経ったクッシーナ草は一律五割引きでしか買い取らねぇ」
まずいぞ、まずい。
このままじゃ、一日で銀貨130枚の赤字だ。
「……し、下に人を待機させて、崖の上から落とすとか」
「ダメだ。クッシーナ草は熱だけじゃなく、強い衝撃でも光る。一度光っちまったら売り物にならん」
「長いロープでゆっくり降ろすとか」
「そんな長いロープをどっから調達してくるんだ、って話でもあるが……、それもダメだ。上空を飛んでるハネイグアナの餌食だ。人が背負ってれば、警戒して寄って来ねぇんだがな」
「分かりました……」
とぼとぼと、冒険者組合を後にする。
「あら、あんた、浮かない顔してるわね。話を聞いてあげましょうか」
すっかり暗くなった町を歩いていたら、派手めのお姉さんに声をかけられた。
綺麗に着飾って、ダンジョン帰りの領主軍相手にさぞ儲かるんだろうな。
女を売る、『まぁ、マシ』なほうの仕事。
冒険者にならなかったら、その道を選んでいたかも知れない。
私もついに、転職を考えるときが来たのかなぁ?
と、落ち込んでいたら、
「シュナちゃん! こんなところにいた!」
「シュナ殿! われの鼻は誤魔化せんぞっ。町に降りてきたことなど、すぐに分かったのじゃっ」
私めがけて、二つの塊が突っ込んできた。
「ねぇ、聞いて聞いて! シュナちゃん、私ね。一日で700個も綿毬藻を作ったんだよ! 二日で1300個だよ!」
アイシャちゃんが褒めてほしそうに、ふんす、と鼻の穴を膨らませる。
アイシャちゃんをなでなでしていると、お姉さんの態度がガラッと変わった。
「なぁにぃ、シュナちゃんってことは、あんた女なの? 誘って損した。うぶで可愛い少年かと思ったのに」
ぐぬっ。
せっかくおへそまで出してるのに。
リボンは取っちゃったけど。
「あはは……。私はてっきり、勧誘してくれたのかと」
「あんたみたいな貧相な子、勧誘するわけないでしょ。それよりなぁに、女同士で抱き合ったりして。きっしょく悪。女と女なんて反発するもんでしょうよ」
「むっ。気色の悪いことなどないぞっ。竜王国の先々代の女帝エリーゼアは、生涯一人の夫も持たず妻と添い遂げたという……」
と、変なところに反論するルヴルフ。
一方、私はお姉さんの言葉を反芻していた。
「女と女……か……」
「そうよぉ~? 女同士なんて足の引っ張り合いは日常茶飯事だし、普通は反発するものでしょ。女なら男とつがいなさいよ」
「しゅ、シュナ殿? まさか、パーティー解散なんてことは……」
ルヴルフが怪訝そうな顔をする。
だが、私の中ではあるプランが、急速に組みあがっていた。
◇先日、編集者さんと初顔合わせを済ませて来ました。
現在、皆さんに答えてもらったアンケートをもとに、イラストレーターさんを探してくださっているそうです。
どなたになるのか、今から楽しみです!




