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シュナ、真理に到達す

「ね~。ここどこなのよぉ~! も~っ、ルヴルフ! あんたの鼻を信じた私がバカだった!」


 私たちは今……遭難していた。

 すっかり日が暮れた森の中を三人して彷徨っている。

 カラスが不気味に鳴いて、アイシャちゃんがびくっと涙目になっている。

 キッカケはこうである。


   *   *   *   *   *


(当時の回想)


「くんくん。何やら良い匂いがせぬか」


 私たちは道なき道をかきわけ……

 ほどではないけど、ぎりぎり道と呼べるかな、呼べないかな? ぐらいの細い獣道を歩いていた。

 だんだん傾斜もきつくなってきたし、結構汗をかくね。

 モグ竜はモグラ形態……じゃなかった、今は竜形態になって、アイシャちゃんを乗せていた。


「良い匂い~? えぇ~。しないけどぉ?」


「モグちゃん。お鼻が効くの?」


 アイシャちゃんがルヴルフを撫でながら聞く。


「なぁっ、シュナ殿からもアイシャ殿に言ってくれぬか。われの名前を憶えてほしいのじゃが……」


「いいじゃん、モグちゃん。似合ってるじゃん」


「わっ、われは気高き竜じゃぞっ? モグラなどではないのだとどう言ったら分かってもらえるものか……ぬぅう……」


「モグちゃん、かわいい」


 アイシャちゃんがモグ竜の背中に抱き着く。

 役得じゃん、あいつ。

 モグラ扱いがなんだってんだ。


「ぬ! こっちじゃ! こっちから、良い匂いがぷ~んと」


「えぇ~? 全然しないけど」


 私、これでも〈万能拡張感覚〉を持ってるんだけど。

 良い匂いなんて全然しないぞ?

 と、私が思っている間に、モグ竜はどんどん森の中へ分け入っていく。


「ちょ、そっち道ないよ!?」


「大丈夫じゃ! われの鼻を信じよっ」


「こらぁ~! アイシャちゃんを連れて行くなって!」


「大丈夫じゃ~!」


   *   *   *   *   *


(回想終わり)


 そんなこんなで、今に至る。

 アイシャちゃんはモグ竜の背中でクゥクゥと寝息を立てていた。


 あー、最悪。


「もう、ルヴルフ! ひと晩さまよわせてくれちゃって。どういうつもりよ」


「おかしいのぅ……匂いは強くなっておるのじゃが……」


「匂いなんて……確かに、さっきから何か臭いけど……。あっ、もしかしてルヴルフが言ってるのってこの匂い?! 全然良い匂いじゃないじゃん! どおりで分かんなかったわけだよ!」


 この匂いには随分前から気づいていたが、お世辞にも良い匂いとは言えない。

 もっとも、〈万能拡張感覚〉を持つ私よりもさらに遠くから、ルヴルフはこの匂いに気づいていたわけで。

 鼻が効くというのは確かに本当のようだ。


「む。そうか? われにとっては大変かぐわしい匂いなのじゃが」


「ちょっと~。こんな変な匂いにつられて、私たちは道を外れちゃったわけ」


「す、すまぬ。シュナ殿。人間のことはとんと分からぬゆえ……」


 すると、アイシャちゃんが目をこしこししながら起き上がった


「シュナちゃん。モグちゃんを怒らないであげて。可哀相だよ」


「んーーーー! もーっ」


 怒ってはいないけど、いい加減ちょっと休みたい。

 ただ、この辺り、キャンプに適した広い場所もないしなぁ……。

 またいつかみたいに〈領域作成〉で空間を作る?

 でも、あの空間寝るには不向きなんだよね。


「むっ、シュナ殿! あれを見よっ!」


 と、鼻をひすひすさせていたルヴルフが勢いよく顔を上げた。


「えっ?」


「あそこじゃあそこ! 煙が上がっておる! ……よく見れば明かりも灯っておるではないか。人がおるに相違あるまいっ」


「あー、ほんとだ。よく気づいたね」


 またしてもルヴルフのほうが先に煙に気づいた。

 こうして考えると、〈万能拡張感覚〉があろうと、気づけるか気づけないかは別の問題なんだなぁと思う。

 注意力っていうの?

 残念ながら〈注意力強化〉なんて能力はブロンズソードにもない。


「じゃ、あそこに行ってみよっか。……アイシャちゃんおいで」


 ルヴルフの背中にいるアイシャちゃんに向かって両腕を広げる。

 途中ちょっとふらつきながらも、アイシャちゃんは私の腕の中に収まった。

 んー。

 アイシャちゃんの髪の毛、いー匂い。

 つい、くんくんしてしまう。

 アイシャちゃんは、むーってしている。むーって。


「よいせっ」


 かけ声とともに、ルヴルフがモグ竜形態から、美少女形態に変化した。

 何度見ても、同じ存在だとは思えない。

 服はどこかから現れるのが、また不思議だ。


「いつ見てもすごいね、その変身」


「当然じゃろう。というより、そもそも厳密には変身ではないのじゃ」


「へ?」


 ルヴルフが偉そうに胸をそらし、答える。


「そもそも、この姿はもう一つのわれ自身なのじゃ」


「もう一つのルヴルフ自身?」


「そう。われら竜のご先祖様は、人間を助ける代わりに、人間から、その姿をもらったのだと伝えられておる。われらのご先祖様は個体数も少なく、永遠とも思える寿命を持ち、何者にも傷つけられぬ堅牢な体を持っておった」


「ふんふん」


「死の危険もなく、さりとて、生きる喜びもない一生のなかで、ご先祖様はそなたら人間と出会った。人間たちは、その体小さきがゆえ、その命短きがゆえに、一生を精一杯に生きておった。生きる目的、というものを、ご先祖様は人間たちから教わったのじゃな。ご先祖様はある一人の青年を助け、戦った。彼が寿命尽き死んだ際には、彼を喰らい……そして、その姿を得たのじゃ」


「へぇ~! 面白い。ってことは、ずっと自堕落な生活を送っていたけど、ある日めちゃくちゃ影響を受けちゃうような人が現れて、その人の真似をするようになったって、そういうこと?」


 ルヴルフがよろめいた。


「ぐっ! 大意としては間違ってはおらぬが……。もう少し、言い方なんとかならんか? もうちょっとこう、感動的な話じゃったと思うんじゃが」


「じゃ、ルヴルフにとってその姿はいわばヨソ行きのちゃんとした格好だ」


「……ま、そのようなものじゃ。ご先祖様の後に産まれた竜はみな、人間の姿を持って産まれてくるのじゃ」


 なるほどなぁ。

 鼻を隠すのに「気合」って言っていた意味がよく分かった。

 あれはちゃんとした格好をするのに、ちょっと気合入れてたんだ。


     :

     :

     :


「へぇ~。こんなところに露天温泉があったんだねぇ」


「うむ。良い香りじゃ。これよ、これ」


「ルヴルフはこの香りを嗅ぎつけていたのね」


 明かりがついているけど、誰かいるのかな。

 せっかくだから、ちょっとお邪魔していこうか。


「あ、よく見れば看板があるね。入湯料、一人銀貨一枚だって。この先に山小屋もあるってさ」


「露天温泉……? 入ったことない」


「あったかいよぉ~。一緒に入ろ。入湯料は払っとくからさ」


 私はちゃりんちゃりんと銀貨を三枚、会計用の木箱に放り込んだ。

 アイシャちゃんがぐずる。


「でも、知らない人の前で裸になるの……」


「大丈夫だって。こんな奥まったとこ、私たちぐらいしかいないよ」


「うぅ~」


 と、入り口のところでわいわいやっていたら、


「誰かいるのか?」


 中から女の人の澄んだ声が聞こえた。


「すいませ~ん。騒がしくして。今からお邪魔しても、大丈夫ですか?」


「良い。もともと、この温泉は私だけのものというわけでもない。皆に開かれた温泉だ。ゆるりとして行かれるが良い」


「じゃ、お言葉に甘えて……」


 私たちはそそくさと服を脱ぐと、むずがるアイシャちゃんの背を押しながら、そろりとお風呂場に足を踏み入れた。

 そして――、


 その先で私は見た。


 この世の真理がつまっているであろう球体を。

 熱いお湯で上気しながら、ぷかぷかと浮いている二つの巨大なパン種を。


 お顔も絶世の美女なのだがそれすらその双丘の前には霞んでしまう。

 ある種暴力的ともいえる、






 おっ















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