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シュナ、バネウオを食べる

「いやぁ、はは。またまたお嬢ちゃんたちを乗せるとはねぇ」


 私とアイシャちゃんは旅の空の下にいた。

 ちなみにこの乗合馬車は、三度目のご利用である。

 おっちゃんともすっかり顔馴染みになってしまった。


「いやぁ、でも良かったですよ。ちょうど、ランガドゥから帰って来ていたおじさんが、ロロナッドに立ち寄っていたところだったなんて」


「ありがとう、おじさま。シュナちゃん、ロロナッドで問題を起こして、いられなくなってしまったのよ」


「アイシャちゃん、言い方! ……間違ってはないけど」


 まだドワーフのお爺さんは誰にも私のことを話してはいないようだけど。

 変な噂が立つ前に、立ち去ってしまったほうがいいだろうと判断し、私たちはロロナッドの町を出た。

 これで、後々お爺さんが口を滑らせても、私の顔を覚えている人なんて町に残ってはいないだろう。


「さぁ、この先ちょっとだけど海が見える道を通るよ!」


「わ~! 私、海って見たことないかも!」


「私も……」


 馬車の幌から、二人して顔を出す。


「わ~! 青~い!」


「すご……」


 突き抜ける蒼天。

 なだらかな崖の下には大海原。

 手前のほうは、海の底が見えるくらいに澄んでいて、白い岩が透けて見えるおかげで青というよりエメラルドグリーンに見える。

 波にきらきら光が反射して、宝石みたい。


「この先のマルトン大橋を渡ったら、マルトン駅だ。お嬢ちゃんたちはそこまでで良かったんだったよね?」


「はい。そこからまた、別の馬車駅まで徒歩で向かおうと思ってまして」


「マルトン駅はちょっと大きい駅でね。名物のバネウオの塩焼きがおいしいよ。せっかくだし、おじさんが奢ってあげようじゃないか。お嬢ちゃんたち美人だから、これはオマケだ」


 あらやだ。

 美人に産まれて良かったわぁ。

 なんて、パディナ村にいた頃のおばちゃんみたいな感想を抱く私である。


「どんなお魚なの、おじさま?」


「それがねぇ。背びれがこう、らせん状にぐるりと一回転してるんだよ。左回りがオスで、右回りがメスなんだがね。回転しながら泳いで、獲物に鋭い鼻を突き刺すんだ。こう、体を短く縮めてから、伸びると同時に矢のように飛び出す! だから全身が筋肉で、陸の獣の肉に近い味がする」


「へぇ~! 面白~い」


「皮のところがぷりぷりのコリコリでね。んまいよ~。……あ、あれ? ちょっと待っておくれ。あそこに誰かいるようだねぇ」


 おじさんが何かに気づいたように声を上げた。

 視線の先に、ショートカットの可愛い女の子がいる。


「あれぇ? あの子、獣人かね? 見たことのない種族だが。どうやら、馬車に乗りたいようだねぇ。ちょっと停めるから、どこかに掴まっていておくれよ」


 しばらくすると、馬車ががたがた揺れて、停止した。

 私も、ひと目見ておじさんが「見たことない種族」と言った意味が分かった。

 というか、その獣人もどきの正体がわかった。


「モグ竜じゃん。何してんの、こんなとこで?」


「むむっ、なぜバレたっ!? こんなにうまく変身しているというのにっ!」


「あ、変身してるつもりだったの、それ」


「何を言うっ! どっからどう見ても、人間じゃろうっ!?」


 いやぁ、だって。

 ねぇ?

 彼女のピンと尖った鼻が、変身の努力を全部台無しにしてるんだもの。

 土台が可愛いだけに、付け鼻でもしてふざけているみたいに見える。


「っていうか、モグ竜って、女の子だったの?」


「き、気づいておらんかったのか!? われは最初っから、超絶美竜じゃったろうが! 産まれたばかりのわれの毛並みを見て、末は竜大王から求婚されるんではないかと、父上様が危惧していたほどなのじゃぞっ!?」


 それは……まぁ、親バカっていうんじゃないかなぁ?

 御者のおじさんが御台から振り向いた。


「なんだい、君たち、知り合いかい?」


「あ、そうみたいです」


「ってことは、待ち合わせでもしていたかな。君も、マルトン駅から迎えに来たのかね。よっぽど待ちきれなかったんだねぇ。じゃ、乗ってくれ。出発するよ」


「ほら。私たちになんの用か知らないけど、まずは乗って。手、貸すから」


「か、かたじけない」


 そして馬車はルヴルフを乗せ、マルトン大橋を渡った。


     :

     :

     :


 ぎゅむっ、ぎゅむっ、と弾力のある肉を噛んでいると、脂の甘い味がするぷるぷるの皮と混じって次第にほぐれていく。

 絶妙な加減で塩がふってあり、磯の香りがする肉汁と混じって口の中に染み渡っていく。


「ふんまぁ~」


「おぃひぃ……」


「ほう。これはなかなか……」


 私たちはおじさんに奢ってもらったバネウオの塩焼きを頬張っていた。

 ちなみに、モグ竜ことルヴルフはとんがった鼻を引っ込めて、完全に人間に変装することに成功していた。

 どうやってやるのか聞いたら、「気合」だそうだ。


「はっはっは。おいしいだろう。気に入ったようで何よりだ」


「おいしいです。ありがと、おじさん」


「ありがとうございます」


「かたじけない」


 三人そろって、頭を下げる。

 おじさんは嬉しそうに笑った。


「なぁに、良いってことよ。じゃ、わしはこれから用事があるから。ここでお別れだね。またどこかで会えるといいね」


「さよーならー!」


 馬車に乗って去っていくおじさんに手を振って別れた。

 さてと、じゃ、モグ竜の目的を聞き出さないと。


「で。なんであんた、私たちを追って来たのよ。おじさんはマルトン駅から迎えに来たって勘違いしてたけど、ロロナッドから先回りしてたんでしょ?」


「む。実はな……われ、そなたに何か助けられたような気がするんじゃよな」


 モグ竜が深刻そうな顔をした。

 嫌な予感がする。


「………………聞きましょうか。続けて?」


「何か……、ふとした瞬間に頭によぎるんじゃ。ダンジョン全体を揺るがすような、凄まじい業火が……。われ、そなたに恩を返さねばならぬという思いがどうにも高じて、いてもたってもいられず、ついて来てしまったのじゃ。元々、魔王との争いを収めてくれたのもそなただったじゃろ? そなたに手助けしてもらう代わりに、ロロナッドの南の平野を明け渡すという約束をしておったしのぅ。行くところがないんじゃ」


 これは……。

 記憶操作のかかりが浅い?

 やっぱ、さすがは地竜ってことなのかな。

 ルヴルフは作られた記憶の他に、私に助けられた記憶がかすかに残っているような感じがする。


「で、物は相談なんじゃが、われも一緒に行ってはダメかのぅ? 道中、そなたの役に立つぞ」


「まぁ、行くところがないのは分かったけど、一緒にというのは……」


 マズいなぁ。

 悪い子じゃないんだけど、連れて行くとなると秘密がバレる可能性が飛躍的に高まるのでは。


「いいじゃん。連れてってあげたら?」


「アイシャちゃん、何を!?」


 この子は急に、何を言い出すのよ!?

 アイシャちゃんがニヤリと黒い顔で笑った……ように見えた。


「だって、竜とお友達なんて、きっと自慢できるじゃん」


「そうじゃろ、そうじゃろ? われなら鼻も効くし、役に立つと思うんじゃが」


「えっ、えーー。うーーーん」


「きっとね、後世の叙事詩にこう書かれるんだよ。その女騎士、地の竜を従え、諸国を巡りたもう~って」


「ちょ。だから私は、英雄とか興味ないから」


 アイシャちゃん、隙あらば私をプロデュースしようとしてくるなぁ。


「それにのう、そなたと一緒なら、母上や姉上が来ても、なぜか無事に逃げられそうな気がするのじゃっ!」


 それが目的か!

 っていうか、どこまでお母さんとお姉さんが怖いんだよ!

 と、ルヴルフがうるうるした目で見つめてくる。


「良いじゃろ? のぅ……われ、行くところがないのじゃ」


 ち、近い。

 近いよ。

 あれ? こいつ、あのモグ竜だぞ?

 今は超可愛くなってるけど。


「んー、もう! わーった、しゃぁない! ちゃんと名乗ったことなかったよね? 私はクリシュナ。シュナって呼んで。こっちはアイシャちゃん。今から徒歩で山越えだけど、それでもいいならついてきなよ!」


 結局、押し切られてしまった。

 ま、何か問題になりそうだったら、アイシャちゃんと違って、またちょちょっと記憶をいじっちゃえばいいんだもんね。

 ……あんまりいじり過ぎると変になっちゃうとか、ないよね?


 ってなわけで、私たち三人は山の向こうの馬車駅を目指し、歩き始めたのだった。

◇引き続き、ご相談中です。現在、今作の書籍化に向けて企画進行中です。

私自身あまり詳しくないものでお願いなのですが、感想や割烹などで、お好きなイラストレーターさんを教えてもらえると嬉しいです!

編集者さんにも提案してみますので!(通るかどうかは分からない)

【朗報】回答者ゼロの危機は免れました! めざせ、回答者10人!

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