1.今まで一度も食卓に上がることがなかった日本の調味料がでてくるなんて……(side:悪役令嬢)
ここから先はアルファ版では掲載されない、なろうオリジナルなターン。
謎の古書に記されたエクレアの物語はまだ続く。
この先大小さまざまな物語を紡ぐ事になっているが、ここで一度視点を変えようと思う。
古書の内容が真実とすれば、エクレアが世に送り出した『味噌』と『醤油』は各地で多数の歪を生み出した。
『神』のシナリオを狂わせる歪を生み出した。
大半の歪は強制力ともいうべき修正の力で元に戻されるも、中にはその強制力に抗う者達がいた。
エクレアと同じく『神』のシナリオに反逆するかのごとく、自身の運命に抗う者達がいた。
その内の一人がマドレーヌ・スイーツ
『神』のシナリオではヒロインに断罪される『悪役令嬢』の運命を背負わされた彼女もまた、反逆者であった。
その軌跡はエクレアと違って後世に広く伝わるも、それらはあくまで都合よく解釈されたもの。真実ではない。
彼女が残した日誌こそが真実であろう。
これから語るのは古書に描かれているエクレアの物語ではない。
エクレアが生み出した歪によって『神』のシナリオから外れるに至った者達の物語。
後々、エクレアの物語と交わり一つの流れとなる物語。
その序章として、悪役令嬢マドレーヌの話を蛇足的に付け加えさせてもらおうと思う。
side:悪役令嬢マドレーヌ(5章は悪役令嬢目線で進みます)
私はマドレーヌ・スイーツ
ストロガノフ王国の侯爵家の令嬢であり、王太子であるハッシュ・ストロガノフ第一皇子の婚約者。
そして………日本人だった前世の記憶を持つ転生者でもある。
私がこの事実に気付いたのは遅春のある食卓の席であった。
…………………………
「お嬢様、どういたしましたか?」
「いえ、見慣れない料理にちょっと驚いて……えっと、メープルだったわよね」
「はい、そうですが何か」
マドレーヌの問いかけに対し、後ろで控えていたメイド服を着込んだ侍女メープルは不思議そうに首をかしげている。
それもそうだろう。彼女はマドレーヌが物心つく頃から仕えてる侍女であり、教育係であり、姉のような存在だ。実際は父の兄の娘、いわゆる従姉なので血のつながりもある。家族同然な間柄なのに一瞬名前を忘れたなんて言えるわけがない。
まぁ記憶の錯乱を起こすほどの衝撃を受けたせいともいえるが、改めてその原因である目の前の料理を食す。良く味わうかのようにして食し始める。
(やっぱりこれ『醤油』と『味噌』の味よね。今まで一度も食卓に上がることがなかった日本の調味料がでてくるなんて……)
「ねぇ、この料理に使われてる調味料だけど、どこで仕入れたのかしら?」
「なんでも懇意にしております商会の行商担当の者が辺境に住む魔女サトーマイの故郷の調味料という触れ込みで仕入れたものです。珍しいものでしたが、試しにと思い今回使用してみたとのことです」
「サトーマイ………」
その名前を聞いたマドレーヌは改めて思考に更ける。
(サトーマイなんてどう考えても日本人名じゃない。漢字にしたら『佐藤 舞』だし……って、いやいやいや日本って何?倭国の間違いじゃないの?『醤油』も『味噌』も私は初めて味わったのに……なんで知ってるの?なんで懐かしく……)
「お嬢様。もしかしてお口に合わなかったのでしょうか?でしたら以後出すのは」
メープルの問いかけにマドレーヌははっと我に返った。
料理を前にして思考に更ける……その状況のまずさに気付いたマドレーヌは慌ててさえぎる。
「そんなことないわよ。あまりの美味しさに驚いただけで私は気に入ったわ。今後も『醤油』と『味噌』を使った料理、楽しみにしているっと料理人に伝えなさい」
「かしこまいりました」
そう一礼してから再び後ろに控えるメープル。
その様をみてマドレーヌはふぅっと息をつく。
彼女はとにかく厳格だ。姉のような関係であっても主従の立場をきっちりしてる。
マドレーヌの想いを代弁する立場でもあるので、マドレーヌが料理に少しでもケチをつけようものなら料理人に躊躇なくその旨を伝えてしまう。
特にマドレーヌは侯爵令嬢という上位の貴族だ。使用人など言葉一つで首にできる立場なので、自身の振る舞いには十分気を付けなければいけないのだ。
(貴族ってめんどくさいものね)
そう思いつつも、今はとにかく目の前の料理……醤油ベースのタレで焼いた照り焼きと味噌で味付けたスープを味合う事にする。
ただ、最初に比べて今は日本の記憶がより鮮明に思い出してきたのか、少々不満がでてきた。
(う~ん……照り焼きは味醂がないせいで深みがないし味噌も出汁が足りてないから物足りない………ってなんで私こうやってうんちく垂れてるの?)
わけがわからないながらも、その想いは口にしない。
口に出せば、料理人が罰せられかねないからその想いを料理と共に飲み込みつつ完食させた。




