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17.これが失恋の味かぁ……

「まぁ飲もうぜ」


「うん、飲もう」


 うなだれるローインにランプとトンビは酒……墓に供えてあったどぶろくを盃に注ぎ始め、共に墓とサクラの木の前でどかっと座り込む。


「こんな時に酒って」


「こんな時だ。男は好きな女の子に振られた時、男の友人達と共に酒を飲むものだろ」


「だからエクレアも言った。後は男同士で好きにしろっと」


「なにそれ……自分であれだけ振ったのに慰める手段を用意しておくって」


「だからいっただろ、俺のもう一人の妹はシチュエーションを大事にするやつだって。この失恋の味を酒と共に味わえっと、そう言ってるのだろ」


「後、酒の席っと言ってたぐらいだし翌日は絶対自分の発言忘れてる。ローインを振った事実ないことにしてる」


「あははははあは……なんで僕はエクレアちゃんからも慰められてるんだろ。あんだけ怒っといてなにそれ」


「だからそういう奴なんだよ、妹は……エクレアは」


 そうして自分で注いでいた分のどぶろくをぐいっと煽るランプ

 合わせてローインも二人の前に座り込んで共に飲む。

 その味は最初の時と違って苦く感じた。甘味もあるが、それ以上に苦味のある失恋の味。


「これが失恋の味かぁ……あんまり感じたくない味だよね」


「それも自分の行いが責任。なら飲み込むしかない」


「トンビの言う通り、男なら自分の発言に責任持つのが筋ってものだしな。この苦い経験を元にして次の機会に活かせばいいさ」


 飲み終わった盃に追加を注いでくれるランプ。

 さらにランプは自分やトンビの分も追加を注いでる辺り、結構な量が残ってるようだ。

 エクレアがやけ酒モードでかなりの量飲んだと思ってたが……


「あーフリか。ただ飲むふりしてただけか」


 俗にいうシチュエーションに酔っていただけと思えばどぶろくの残量も納得ができた。

 ならアレも案外ヘタレな男の子に対して怒った女の子のフリだったのかもしれないっと思いながら注がれた分を飲んだら、ちょっと苦味が減った気もする。

 そうした中で、ローインはふと思った事を口にした。


「ねぇ……もしエクレアちゃんが本気で怒った場合どうなると思う?」


 答えはわかってる。二人に聞いたところで同じ答えが返ってくるのはわかってるがローインはあえて聞いた。


「本気で怒った場合か……間違いなく無言になるな」


「言葉じゃなく行動で示す。態度で示す」


「だよねぇ……」


 3人は共に頭上……サクラの木を見上げた。

 月の光を浴びて淡く輝くサクラの花びら。

 風と共に一部が散りひらひらと舞い散るサクラ……


「……もし、もしもだけど。エクレアちゃんがあの時僕等と喧嘩して仲違いになったままだったらどうなってたと思う?」


 ローインからの再度の問いかけにランプは舞い散るサクラをみながら、少し遠い目をしながら答える。


「少なくとも今のような関係は築けてなかったな。エクレアだけでなく俺達3人の関係も含めて、きっと悪い方向へ進んでたはずだ」


「悪い方向か……当時の僕等は皆して思い詰めていたところあったもんね」


 ランプは両親が不在な事も多く、妹のモモちゃんと二人で過ごす日が多い。ランプとしては妹に不自由させたくない、良い兄になりたいという想いがあってもそれが空回りし過ぎて上手くいかない。

 モモちゃん自身は兄の不器用な優しさに気付いてたし慕ってはいた。だから不器用な兄の負担を減らそうと酒場の給仕をやるようになったが、兄としては妹を働かせるように仕向けたようにみえてしまい……

 自分自身のふがいなさに苛立ってか、妹との仲がギクシャクしていた時期があった……


「ははは……そうだ。当時の俺はとんでもない馬鹿だ。大馬鹿だったよ。妹にぶつけるわけにはいかない苛立ちをよりによってもう一人の妹にぶつけたんだからな」


「苛立ちをぶつけたい気持ちわかる。むしろぶつけどころあった僕はまだマシの方だったかも。」


 トンビは鍛冶屋の息子。当然息子として両親から鍛冶を継ぐ事を求められていたが、トンビは鍛冶の才能はなかった。

 いや、才能はあった。ただしそれが父の目指す方向性とは違った方向性での才能だった。


 父の鍛冶は自分の想い、魂を込めて叩きつけるいわば自身の趣味や主張を前面に出した職人気質が色濃く反映された鍛冶だった。

 対してトンビは自身の主張は出さず、持ち手や使い手に合わせるという使用者へ考慮した実用性重視の鍛冶。

 方向性が全く異なっていたのだ。どちらが上かなんて討論すべきではないものだが、父はそんなトンビの才能を認めなかった。自分の求める才能を持たないトンビを責めていた。


 その葛藤は鍛冶に現れてしまってたわけだ。


「でも……そんな葛藤とした日常をエクレアちゃんが吹き飛ばしたんだよね」


 ローインの言葉にランプやトンビは笑みを浮かべながら頷く。


「そうだよな。モモは俺に直接言えなかった愚痴をエクレアには遠慮なく垂れ流してたし、あいつは俺達兄妹の間に上手く収まることで仲を取り持ってくれたわけだ。人の家庭にすんなり入り込むなんてとんでもない奴だよ」


「同じく。こっちはエクレアが持ち込んできた包丁の製作依頼がきっかけとなった。完成図からしておかしいのに、製作途中でいろいろ口を出してきたあの一件……終いにはローインにランプ、モモちゃんまで連れてきて皆であれやこれやっとわいわいがやがや……出来上がった包丁はもうめちゃくちゃだった。でも、楽しかった。初めて鍛冶が楽しく思えたし、父さんにも褒めてもらえた。認めてもらえた」


「あれは傑作だった。全く、トンビの親父さんもただ一言。『お前はまだ半人前の子供なんだから効率なんか求めず子供らしい遊び心を持って作れ。持ち主の酷評なんか恐れず自由な発想で作れ。それが後々の糧になる。実用性を求めるのは成人になってからで十分だ』っと伝えておけば親子仲が拗れる事ないっていうのにな」


「仕方ない。父さんは口下手。お互い似たもの同士……仕方ない」


「そうだよな。ははは」


 そう言いながらランプやトンビは改めて笑い始める。

 ひと昔前なら考えられないほどの、自然な笑みを浮かべる。


「本当、俺達がこうやって笑いあって過ごせるようになったのはエクレアのおかげだよな」


「全く同意。エクレアはすごい」


「そうだよね。僕らはみんなエクレアに救われたんだ。ただ……贅沢を言うならあの小悪魔的な悪戯心をもう少しだけ抑えてほしいなっとは思うけど」


「「それは無理だろ」」


「やっぱりそうか。うん、さっきのは忘れて」


 そんな他愛のない話を交わしつつも、ランプは酒を片手にふと唐突に問いてきた。



「………なぁ、ところでエクレアが契約した悪魔だが、そいつから世界滅ぼせる『力』をもらってるんだよな」

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