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3.エクレアちゃんのお母さんだもんね

「ふぅ……ちょっと休憩っと」


 トンビと共に宴会場となった広場の料理を一通り堪能し終えたローインは会場隅に設置されているベンチに座って一息ついた。


 会場は開始からそれなりに時間が経過していてもまだまだ絶賛盛り上がり中だ。


 それもそうだろう。


 ローインは一つのテーブル……

 現在もっとも盛り上がりを見せてるであろう『味噌』や『醤油』の商談現場となっているテーブルへと目を向ける。

 そちらでは『味噌』や『醤油』に価値を見出した商人達が販売窓口となってるエクレアの母ルリージュとローインの母スージーの元に詰め寄っているのだ。

 かなりの人数が集まって白熱した商談が繰り広げられるも、周囲はスージーの夫であるダンをはじめとした顔なじみとなってる冒険者がさりげなく牽制を入れているので暴力沙汰にまでは発展してない。


 それでも……


「いろいろ場慣れしてる母さんはともかく、ルリージュおばさん。あんな殺気立った商人達を前にしてよく平然と対応できるよね」


「ん……あれでもエクレアの実母。胆力は尋常じゃないと見た方がいい」


「あーそうか。見た目すっごい穏やかでおしとやかだからつい騙されそうになるけど、エクレアちゃんのお母さんだもんね」


 エクレアのお母さんだから……

 この言葉だけで説明がつくのはある意味本当だ。


 なにせルリージュはいろいろとはちゃめちゃなエクレアを……常人だったら親の責務を放棄されそうなエクレアをしっかり『実の娘』として愛してるのだ。

 叱るのは苦手なのでそこはスージー任せっぽいが、それ以外は昔から変わらず母としての愛情を持って接している。


 並の神経をしてないのは確実だろうし、ルリージュにしてみれば商人達なんてエクレアに比べたら可愛いものだろう。

 今も怒り心頭な商人を前にしても、笑みを崩さず穏やかな口調で『おかえりはあちらからどうぞ』とか退場を促してるし、本当に並の胆力をしていない。


 なお、その商人は怒りのあまりルリージュの胸倉を掴もうとしたようだが……


「おっと。お客さん、どうやら少々酒を飲み過ぎてるようですね」


「そうみたいね。グランさん。丁度娘が良く効く酔い覚ましを用意してるからちょっと飲ませてあげるといいわ」


「了解した。そういうわけでこちらへ来てもらおうか」


「な、なにをする!!わしはビショーク子爵家お抱え商人だぞ!!!わしがビショーク子爵に一声かければ平民の首なぞ……」


「あーそうそう。一応言っておきますけど『味噌』と『醤油』の製造と販売はキーテス伯爵家が取り仕切ってるの。独占権が欲しいなら伯爵家にどうぞ」


「へっ……?」


 どうやらあの商人は貴族の権力を盾にした交渉を行ってたようだが、その貴族の権力(子爵家)はさらに上の権力(伯爵家)でもって潰されたようだ。

 惚けたままずるずるっと休憩スペースに引っ張られて行き、そして……






 悲鳴があがった。



 ルリージュが言っていた娘の……エクレアが調合した酔い覚ましを飲まされた事で絶叫あげながら昏倒する羽目となったのだ。





「エクレアちゃんの酔い覚まし、相変わらずこうかばつぐんだなぁ」


 ちなみにローインは……いや、ローイン含む村に在住する酒場常連客は知っていた。

 エクレアの調合した酔い覚ましの正体は青汁。売り物として飲みやすくマイルドに調整されたものではなく、性質の悪い酔っ払い客への制裁を目的とした無調整の青汁の原液。ひたすら不味い……気絶するほど不味い青汁である事を知っていた。


 そんな代物であるため、会場一体では別の意味で酔いが覚める事態となるも……




「はいはい。せっかくの宴会なんだしもっと飲んで騒ごうねー」


「そうそう。お酒ならまだまだあるから皆さん楽しんでいってくださーい」



 エクレアとモモちゃんの呼びかけに応えて、常連達も再度場を盛り上げにかかった。

 その中でも一番盛り上がりをみせるのは、2人が給仕中のテーブル席であろう。

 なにせ2人とも見た目は美少女で服装も見慣れない和装ゴスロリメイド服……


 スカート裾が極端に短く、靴下が極端に長い事で強調された生のふともも……絶対領域を完備させた装い。

 そんな2人に愛想よく酒をお酌してもらえるのだ。男として鼻の下を伸ばさないのはおかしいだろう。


 ただ……


「二人は可愛いに異論はない。でも、鼻の下を伸ばすほどではっと……」


 トンビのような年上……平たく言えば熟女好みには2人の魅力も効果はいまいちなようだ。


「う~ん……人の好みをどうこう言いたくないけど、エクレアちゃんの良さが伝わらないのがもどかしいなぁ」


「良さ……あの顔で?」


 そう指摘するトンビの先には丁度悪い顔を浮かべてる……

 ついでにいえばセクハラが過ぎたせいでエクレアから制裁。まわし蹴りで意識刈り飛ばされた馬鹿を踏みつけながら、大量のチップもらって悪い顔を浮かべてるエクレアがみえた。


「いいんだよ。あれも魅力の一つ。大人達もわかった上で接してるんだし問題ない」


 ローインの言葉通り、大人達はエクレアの悪い笑みをわかった上でスルーしてるのだ。

 大量のチップに関しても料理代金を全負担する羽目になったエクレアに対しての寄付も兼ねてだし、そこに問題はないのだろう……


 ないのだろう……


「……問題は……本当にないよね?」


 つい不安になって問いかけるローインにトンビは肩をすくめながら答える。



「たぶんない。エクレアはいつもどおり……ただ、無理していつも通り振る舞ってる可能性はある」


「無理して……?」


 その言葉を聞いて改めてエクレアを観察する。

 今も明るく振る舞ってるが、その顔に少々の疲労がみえていた。

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