33.男も女も逃げてはいけない時があるものでしょ
こういうのって大体ろくでもないものに立ち向かう時の台詞なわけだけど、こちらでは果たして……
「……無償だなんて何企んでるわけ?」
悪魔が無償だなんて怪しい。怪しすぎる。
甘い話には裏があるっとばかりに、エクレアは“ナニカ”に対して胡乱な目でみつめるも……
“無償に関してなら裏も何もないよ。しいていえば、君の『真実の愛』に心打たれたから……じゃだめ?”
「いやいや、『真実の愛』ってさすがにそれはないでしょ。少なくとも私は恋愛にそこまで興味持ってるわけじゃないし」
“愛のカタチなんて人それぞれだし、恋愛がらみじゃなくても愛は愛でしょ。他者にとっては偽物でも本人にとっては真実。千差万別な愛があるからこその『真実の愛』……って悪魔の私に何天使みたいなくっさい台詞言わせてるのさ!!”
闇の玉なので手はなくとも、架空の手でもってびしっと突っ込む“ナニカ”
その様にエクレアはつい『自分で勝手に言ったくせに』っと突っ込んだ事で二人?の間に微妙な空気が流れる。
「ローイン君を助けたい。蘇生させたいけど……出来る?」
エクレアは改めて問いかける。
悪魔は気まぐれだ。気が変わらないうちにっというか、微妙な空気を振り払うようにして本題へと入った。
“出来る出来ないかを問いかけられると……理論上は可能。方法もある。ただし、命の危険が伴う上に成功率は著しく低い。確率にして1割、あの手この手付くしても2割ってところ。最悪共倒れになる可能性すらある。それでも挑戦する?」
「もちろん。ここで軽々しく出来るなんて言わないあたりは信用に値する。分の悪い賭けだけど……男も女も逃げてはいけない時があるものでしょ」
にやりと笑いながら言い放つエクレア。
対して“ナニカ”も表情がわからないながらも同じように笑っている雰囲気が感じ取れた。
“いいねその考え。そのまぶしいまでのまっすぐな気持ちで絶望を踏み潰す姿は毎回みてたけど、すがすがしいぐらいに最高だよ。こんな感想は悪魔らしくないって言われそうだけど、行き着く先が『奴へのざまぁ劇』だもんね。自分が安全地帯にいるっと思い込んでるところに乗り込んで地獄に叩き落す。その時の“奴”が垣間見る絶望の感情だけで十分メシウマ案件なご褒美となるから報酬に関しては適切なのさ。
それに……知りたくもあるんだよ。ご主人が生涯の中で終ぞ見つけられなかった『真実の愛』の行く末。ご主人が託した想いを受け取った新たなご主人である君、エクレアの行く末を……ね。だから」”
闇の玉を象った“ナニカ”からすっと手が伸びてきた。
人の形をとった手だ。
“この手を掴んで『私』の名前を呼べば契約は成立する。ただし言うまでもないけど……”
「それに関してはもうあきらめるしかないかな。こんな早い段階での“契約”は私の人格が前世の残留思念に飲み込まれる可能性があるのはわかってる。隠蔽も難しくなるけど……それでも私はわがままを優先したいの……いろいろなお膳立てを台無しにしてごめんね」
“別にいいさ。『真実の愛』のためでしょ。“奴”にバレる事も含めてこれから様々な困難に見舞われるけど『真実の愛』を貫くためなら、その困難ぐらい簡単に乗り越えて……いや、踏みつぶしてくれるよね?”
「もちろん。だからまず手始めに……目の前の絶望を踏みつぶしにかかるから……改めて力を貸して」
エクレアは掴んだ。
“ナニカ”から伸ばされた架空の手を掴み、そして……
「“キャロット”」
エクレアは“ナニカ”の名前を呼ぶ。
その瞬間“ナニカ”こと“キャロット”はにやりと笑う。
“契約は成った。これより私“キャロット”は〇〇の生まれ変わりであるエクレアを新たな主人として侍従する”
闇の玉から人のかたちを取りながら、笑った。
「えっ?」
その姿をみたエクレアは……
“おっと、うっかり正体現しちゃったかな。あいにく、私の正体はシークレット。できれば忘れてね”
「あっ、ちょっとま……」
エクレアは離れた手を再度伸ばすも、その手は空を切り……
「うっ?!」
次の瞬間に流れ込んで来たのは記憶だった。
前世の記憶の一部。
今まで思い出そうとしても思い出せなかった記憶。
思い出せば“深淵”を暴走させかねない、前世の人格の残留思念ともされる記憶の一部。
3年前に前世を思い出した際、エクレアの中へ入り込んだ“キャロット”が意図的に封印した、本来のエクレアに悪影響を与えかねない残留思念の記憶。
当時まだ8歳という人生の積み重ねがない時期で思い出せば人格を乗っ取られかねないからっとあえて封印を施した記憶。
その中身は……
……
…………
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