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31.絶対助けるから!!

 閃光の中、男は消し飛んだ。

 ローインの放った最後の命の輝きともいうべき一撃で跡形もなく吹き飛んだ。

 それこそ塵一つ残さず閃光の中に消え去った。


 だが……それを放ったローインは無事ではなかった。

 衝撃で後方へと吹き飛んで、ボロ屑のように転がった。



「ローイン君!!」


 男が死んだせいか、エクレアを磔にしていた右腕が力をなくして床へと落ちる。

 戒めが解けて自由を取り戻したエクレアは駆け寄る。自身もボロボロで動く度にズキズキとどこかしら痛むもお構いなしに駆け寄る。


「エク……レア……ちゃ……ん」


「話しちゃダメ!今手当するから!!」


「いいよ……もうわかる。僕は助からない事…ぐらい」


「諦めちゃダメ!助ける、絶対助けるから!!」


 エクレア自身わかっていた。

 ローインは助からない。薬の毒もそうだが、ローイン自身も酷かった。

 タックルからの壁への激突の衝撃で左腕は骨折どころか粉砕だ。骨が皮膚を突き破って原型を留めてないがそれでもまだマシな方。

 右腕に至っては原型すらない。上腕から先は消失しており、残ってる部分も炭化して今にも崩れ落ちそうだ。

 他にも各所で筋肉の断裂や裂傷を起こしてもはや無事なところなんてない。どこから手を付ければな有様だ。

 これはもう『霊薬(エリクサー)』を使わないと治せない。

 それぐらい酷かった。


 でも……


「諦めないで、助ける……助けるから……死なないで……私をおいてかないで!!マイお姉ちゃんみたく私を置いてかないで!!!一人にしないで!!!!」


 諦められなかった。

 3年前にエクレアを残して死んでしまった師匠であるマイと同じ想いをしたくなかった。

 あの時感じた理不尽に抗うために……エクレアは受け入れた。

 全ては理不尽に対抗するためだったというのに……


 現実は理不尽だった。

 エクレアの幸せを容赦なく奪い去っていく。



「笑って……」


「えっ」


「笑ってよ……君は泣き顔なんて似合わない。笑って……見送ってよ」


「笑えって……こんな時にどうやって笑えって言うの」


 それでもなぜかエクレアは笑っていた。眼から涙を流しながら笑っていた。

 あまりにも絶望過ぎて笑うしかないような心境だったが、それでも笑顔は笑顔だったようだ。


 それで満足したのか、ローインはふっと笑い、そして………










「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」




 エクレアの絶叫があがった。






 ローインは死んだ。

 目の前で死んだ……


 でもエクレアは受け入れられなかった。

 信じたくなかった……現実を受け入れなかった。

 唐突に奪われた、いつも通りの日常を奪われた現実を受けれられなかった。


 無駄だとわかりながらも、現実に抗うように馬乗りとなって心臓マッサージを行いながら時折口と口を合わせての人工呼吸をほどこす。





「奪わないで……私から家族を奪わないで!!」


 彼女自身無理だとわかってるのにその二つを繰り返す。


 現実逃避するかのごとく、繰り返し繰り返し……


 瞳に“狂気”と“深淵”を宿しながら繰り返す。







奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!奪わないで!









 まるで壊れたおもちゃのように、一心不乱に蘇生作業を繰り返す中、エクレアはふと思い出す。

 記憶の片隅の中にあったわずかな欠片からある存在を思い出す。



「そうだ!あいつに頼めば……」



 あいつとは3年前にエクレアの中に入り込んだ“ナニカ”だ。

 “ナニカ”は普段エクレアの夢、もしくは心の中のさらに奥。深層部分ともいうべき“深淵”の奥底に潜んでて表にはまず出てこない。

 なにせ今回の一件でラスボスすらも狂わせるだけの力を持ってる事が判明したのだ。少しでも出てきたらそれだけで大惨事確定。


 だが……逆にいえば



“あいつなら蘇生を施す力を持っている可能性がある……”



 だが、問題はどうやって接触するかだ。

 夢の中にいるのだから夢に入れば会える……っと理屈でいえば簡単だが、その夢の中にどうやって入るかわからない。たまにみる白昼夢も同様、どうやってそんなものみるかもわからない。


 なら寝るしかない……




……


…………


…………………



「こんな時に寝るだなんて悠長な事できるかぁぁぁぁ!!」



“ですよねーじゃぁ今すぐ私に会う方法を一つ示したげる”



「えっ?」



 唐突に響いた声と同時に浮かんだ一つの記憶。

 つい先ほど、無意識化でゴブリンを飲み込んだ感触が唐突に浮かんだ。


「これは……?」


 エクレアは若干不思議に思いつつも、頭の中に浮かんだ記憶を頼りに念じてみれば……

 




\ひょこっ/\ひょこっ/\ひょこっ/





 出現した。

 今まで無意識化で繰り出していた闇の手が……

 ゴブリンを“深淵”の中へ引きずり込んだ闇の手が影から出てきたのだ。


 今このタイミングに意識下で呼び出しが可能となった、その理由は……


「来いってこと……だよね。生身のまま“深淵”の奥底にいる、あいつの元まで」



 呼び出した闇の手を自身に掴ませる。


 “深淵”の中は“混沌”の力に満ちているため、入り込んだ者は無事に済まない。

 発狂だけで済めばいい方で、下手すれば発狂死だ。

 そうして死んだ者は命を貪りつくされて持ち主……この場合、エクレアに還元される。

 そんなところにエクレア自身が生身で入ればどうなるかわからない……が


「女は度胸って言うし……ままよ!!!」



 エクレアは気合入れて、引きずり落とした。

 自分自身を“深淵”の中へと引きずり落とした。



 全ては“ナニカ”に会うため……

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