11.言葉で話すよりまずこれをみてほしいかな
「ふぅ……やっぱりエクレアちゃんが入れてくれたお茶は美味しいわ」
緑茶をすすりながら一息つくスージー。
その隣で青汁を黙々と飲むローイン。
なおモモちゃんは馬鹿二人の教育的指導の後始末……
主にリバースされた虹色のナニカの処理の最中だ。
(ごめんねモモちゃん。後で甘いホットミルクあげるから)
臭いにちょっと顔をしかめつつも、文句言わずせっせとモップをかけて処理する姿にはさすがのエクレアも反省の態度を示す。
なお、馬鹿に関しては全く悪いとは思わない。
裏庭の訓練所から何かを殴打する音と共に悲鳴上がってるが全く気にしない。
どうせ妹に手をだしたことでぶちぎれた実兄の……少々シスコン気味の……ランプがトンビを巻き込んで模擬戦という名前の拷問を施しているのだろう。
『君が泣くまで殴るのを辞めない』っと徹底的にぼこられてる姿を想像すると、さすがに『ざまぁwwww』は酷いので『ご愁傷様』と冥福を祈る事にしておく。
……実際は妹の案件だけでなくエクレアに手を出そうとした事もあって、いつも以上に怒り心頭なのだが、エクレアは気付かない。フリじゃなくマジで気付いてない。
密かに守られている事にも気付いてない辺り、エクレアはどうも自分の目の見えない範囲での行動までは読めない。想像力が働かないないようだ。
前世の記憶を持つ小悪魔といってもエクレアはまだまだ子供なのである。
「さてっと、一息ついたから本題に入るわ。エクレアちゃん、私に相談事があるのでしょう」
「あっ、やっぱりわかる?」
「わかるわよ。私は冗談抜きで貴女を娘と思ってるのよ。娘の事を気にかけない親なんていないでしょう」
「娘だったら拳骨落とす真似いくないです」
「娘と思ってるからこそ落とすのよ!!もう一発ほしいの?」
「ごめんなさい。おば……いやお姉様、3発目は勘弁を」
ぺこぺこ頭を下げるエクレア。その様は親子のやり取りに近いし、娘と思われてるのは本当だろう。
だからこそ彼女はエクレアがおばちゃん呼ばわりしても怒らない。同年齢の息子であるローインがいるから猶更怒らない。
でも、⑨歳少女から姉と呼ばれるのは以外と悪い気しないようで、溜飲はちょっと下がったようだ。
その態度を息子がちょっと白けた目でみてるのは余談だが……
「わかればよろしい。それで要件は?」
話が進まないので本題に戻る。
「実は……言葉で話すよりまずこれをみてほしいかな」
そう言ってエクレアが差しだすのは一つのレシピ。
完成品は飲み薬になるので調合レシピではあるものの、使われる素材に魔術の媒介となるものが多数含まれてる辺り錬金術のレシピに近い代物。
ざっとみしたスージーは眼の色を変える。
「貴女、これ正気なの?正気でこんなもの作るの?」
「それを含めて相談したいかな~と」
「いいわ。これは誰が聞いてるかわからないところで話す案件でもないし、研究室へいきましょ」
「反対はしないの?」
「私は魔物や瘴気の研究者でもあるよ。研究者は真理を追い求めるのが本懐なわけだし、真理を求める者を邪険に扱わないわ。だからローイン、悪いけど」
「母さんわかってる。僕は同席したいと言わないから。それとエクレアちゃん、今日の納品分の代金だけど」
「全部借金返済にあてといて」
「わかった。これで200万Gは超えたわけだけど……あの」
「大丈夫大丈夫。ちゃんっと期限までに返しきるつもりだから」
心配無用と言わんばかりに、ぱちっとウィンク一つしてから研究室に向うエクレア。
先は長い。⑨歳児が半年で200万G稼いで返済するのもすごいが、残り借金は4800万G。
こんなペースでは到底間に合わない。傍から見たら間に合うわけがない。間に合わなかったら奴隷落ち……
だけど、エクレアに不安はない。
師匠であるマイの形見となった黒いとんがり帽子を被りなおしてスージーと共に研究室へと向かうその姿はまさに一流の魔女のそれであろう。
その姿を見送ったローインは……
「……遠いよね」
独り言のように、ぼそりとぼやいた。




