40.嫌だ……俺は(side:ケバブ)
ヘルカイザー覚醒フラグ!?
って、今の若い子は知らないネタかも(゜∀゜)エヴォリューション・ナントカ・バースト!グォレンダァ!!
ケバブの後ろに出現した裂け目は“深淵”の最深部であり“混沌”の根源ともいえる倉庫への入り口。
古今東西ありとあらゆる所からかき集めたであろう呪物を無造作に放り込んできたせいで、管理者すら容易に手が出せない“混沌”が渦巻く空間。
本物の“深淵”ではないが、ある意味本物よりも恐ろしい有様となっている“悪夢”の空間。覗くだけでもSAN値直葬されかねないほどの恐ろしい空間……“混沌”への入り口だ。
“キャロット”はそういった説明を行った。ケバブが理解しやすいよう、懇切丁寧に……
「ま、待て……待ってくれ!!勇者の力が欲しいなら別に取り込む必要が」
“うん、確かに取り込む必要はないね。いずれその勇者の職業を『譲歩』してくれるなら取り込む必要ないけど……そもそも出来るのそれ?”
「うぐぅ……一応ブラッドさんは出来ると言ってる……けど」
“ほら、確証ないじゃん。だったら今ここで“悪夢”に捕えて奪い取れば……はい、解決。簡単でしょう”
「そ、それでも……」
「あーもううるさい。ネタ晴らしするけどね……これ私だけじゃない、魔王様の意向でもあるの”
「へっ?」
ブラッドの意向……その言葉を聞いて唖然とする。一体どういう意味なのか考えるも、先に彼女が答えた。
“ケバブお兄ちゃんはね、本来なら存在しないイレギュラーな勇者。イレギュラーなだけあって世界にどんなバグを引き起こすかわからない危険な存在。管理者視点でみれば消えてもらった方が面倒起きなくていいような存在。ましてやケバブお兄ちゃんは知ってはならない事まで知ってしまったじゃない……”
“私のご主人が『神殺し』を達成した英雄だということを……”
神殺し……
それはあの“邪夢”を鑑定したことで判明した情報だった。
詳細はわからない。
『鑑定』は“邪夢”に向けて使われたもので、このキーワードに関する情報は“邪夢”に付随していたものしかわからなかったが……
ブラッドからの話によれば、『神殺し』は神を殺した者に与えられる称号とも呪いともいえる業だと説明された。
その業は魂に刻まれるため、エクレアは生まれながらにして『神殺し』の称号とも呪いともいえる業が刻まれた人間となる。
そして……神殺しの業はその名の通り、神を殺す力が備わっている。
すなわち、エクレアは生まれながらにしての『神を殺す者』なのだ。味方にすれば頼もしい存在ながらも、敵にしてみれば厄介極まりない。神側にしては敵対したくないだろう。だが……彼等は曲者ぞろいだ。
ブラッドは『神を殺す者』に至った者やその生まれ変わり達と接する機会が何度かあったが、彼等はどいつもこいつもまともな思考回路を持ってない。なろう系チート勇者のように御し切れると思えば確実に痛い目をみる。例え神が相手だろうと気に入らなければ平然と殺しにかかる要注意人物なのだ。
それは、エクレアをみればさもありなんであろう。あれを怒らせたら死が慈悲ともいえるかのような目に合わされるのは確定的に明らか。
そんな危険人物を本人やその近しい存在に話を通すことなく無理やりゲームの登場人物……どうあがいても悲惨な運命しかないような『乙女ゲームざまぁ系のお花畑ヒロイン』として転生させるなんて、何も知らない無知な馬鹿のやらかしか、滅びの美学に愉悦を感じる狂人の発想だ。
この辺りの事情はブラッドもわからない……が、少なくとも『冥府』には『神』への協力者がいる。
世界の運命を握る勇者すら超える、世界の命運を握る核兵器にも等しい『神殺し』の魂は厳重な管理下に置かれるべき存在。それを馬鹿げたシナリオの駒に利用できたわけだ。『冥府』の中でも相当上の権力を持つ協力者が居るのだろうと推測できる。
あまりにもスケールが大きい話だ。ケバブでは首を突っ込めない事態なだけあって、その辺りの調査はブラッドが請け負っている。
どこまで真相に迫れるかはブラッドの調査能力次第であるも、ケバブもケバブで調査中は自分が出来る事をやろうとしていた。
それは……エクレアの『神を殺す者』の力の実態調査と解放だ。
エクレアの力だが、その根源は“深淵”と化した夢世界。前世は肉体こそ人間でも魂は夢を司る悪魔の夢魔だったからこそ“深淵”を100%の力で扱えていた。
しかし、今のエクレアは人間だ。魂は悪魔から人間への浄化途中に無理やり転生させられたせいで人間とも悪魔ともいえる中途半端な状態であるも、肉体は人間なので魂も人間方面に強く偏っている。
そのせいで今のエクレアでは悪魔の力……“深淵”を100%の力で扱えない。
エクレア本人も実体験から予想してたが、100%の力で全て解き放てば暴走を起こして確実に世界が滅びる。だが、『神』の領域に達するには100%の解放が不可欠。
その100%の力を暴走せず扱うための手段として目を付けたのが『勇者』の職業。
ケバブが譲歩しようとした『勇者』は戦闘のエキスパート。各属性に関する素質は聖者専用とされている『聖』のような特殊属性以外全てが最高値。
そして、エクレアの“深淵”の属性は『混沌』と呼ばれる特殊属性であるも『鑑定』での解説では
“多数の極めた基本属性を統合させる事で生まれる特殊属性”
そう、基本属性全ての素質が最高値な『勇者』の力があれば“深淵”の力を100%の力で扱える可能性があるというわけだ。
ただし、それは『勇者』の職業を譲歩できればという前提がつくわけで……
目の前の悪魔はそんな不確かなものに頼る気はないらしい。
それでもっと思ってケバブは反論しようとするも、彼女は一切聞く耳もたない。
どれだけ言葉を尽くしても、『殺してでも奪い取る』で一蹴されるだけ。
そうこうしてるうちに背後から聞こえてくる……“混沌”の奥底へといざなうかのような声が頭に入ってきた。
“コッチニオイデヨ”
“モウガマンデキナイ”
“マドニ……マドニ……”
耳ではなく頭に直接響いてくる、闇よりも深い闇からの誘いともとれるその声は……
「い、いやだ……」
「いやだぁ?何言ってるの~?」
「嫌だ……俺は……」
死にたくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいいい!!!
トドメとなった。SAN値直葬された。




