39.大丈夫だ、問題ない(side:ケバブ)
悪魔は言っている……
“本当にいいの?本当に後悔しない?”
目の前の悪魔……エクレアと同じ姿をした悪魔の“キャロット”がにやりと笑う。
その笑顔に若干の不安はあるも、特に意味なしと思っている。
大体悪魔の契約書なんて裏があって当然なのだ。文章に不審点がないか何度も確認した。隅に小さい文字で書かれてないか目を凝らして調べた。『鑑定』も使用して調べた結果が『内容に嘘はない』だ。
よって、先ほどの笑みは意味がないと判断したケバブはあえてこう叫んだ。
「大丈夫だ、問題ない」
「そう……本当にいいの?本当にそれがファイナルアンサーでいいの?」
念を押すように問いかけて来るその姿に少々……いや、かなりの不安が湧き出て来る。いつもなら『もう一人の俺』に意見を聞きたいとこだが、“深淵”内ではノイズが多すぎて声が拾えないのだ。
そうなれば、もうケバブ自身で判断するしかなく……
「……イエスだ!!」
ケバブは言い切った。
もう十分悩んだのだ。何らかの罠なら罠でもう素直に受け入れよう。
じたばたして情けない姿をさらすより、釈然とした方が粋というもの。
そう思っての態度だったが……
悪魔が笑った。今度はくすりとかにやりではない……
口を三日月に歪めながらの粘着的な笑いにケバブはゾクリと背筋に寒気が走る。
「ふふふ……さすが勇者様。本来だったらすっごい絵になる場面なんだろうけど………」
そう呟きながら彼女は虚空から100円ライターを取り出した。
転生後の世界ではまず見かけない地球産の便利アイテムだが、どうせダンジョン経由で手に入れたのだろうと推測できる。
本当に彼女達は異世界の常識を台無しにするなぁっと思っていると、彼女はおもむろにライターで契約書を裏から炙り始めたのだ。
そこまでされた事でケバブはある可能性に気付いた。
「もしかして……炙り文字!?」
気付いた時には遅かった。ケバブは拘束されていた。
地面から湧き出た影のような手に捕らえられていたのだ。
「そんなだから……こうやって騙されちゃうんだよ」
彼女は笑いながら契約書を突きつけた。
あぶりだしによって現れた文字を読めと言わんばかりに突きつけた。
その文字は……
『ぜつぼう』
この言葉が契約の代償として支払われる項目の空白部分に浮かび上がってた。
「ちょ、ちょっとまってくれ!『ぜつぼう』ってなんなんだ?!」
“大丈夫、命は取らないから。ただ……ちょっとした実験がしたいの。あの“混沌”と化した倉庫に生身の人間を放り込んだらどうなるか……ね」
邪悪なまでの三日月を描いた笑顔から一転、今度はものすごい良い笑顔で言い切った悪魔。
子供のように無邪気で……今から虫を解剖するかのような笑顔で言い切った。
その言葉にケバブはぞくりと寒気が走る。
「も、もしかして……最初っからそのつもりだったのか?」
“うん。実はそうなの。さっき話したからわかるだろうけど、この“深淵”に取り込まれた者はね。私達の力に還元できるの……そいつが持ってた知識とか魔力とかスキルなんかを吸収できるわけ。そういったあらゆるものを吸収して私達の『力』として扱えるようになるの。それがたとえ『勇者』の力であっても……ね”
「ま、待て……命は取らないといいながら、それ思いっきり殺す気満々じゃないのか!?」
“大丈夫。死ぬことはないから……ただ、永遠に抜け出せない“悪夢”の中で未来永劫苦しみ続けるだけだし”
にやりと笑いながら彼女はパチンっと指を鳴らす。
その音に反応するかのようにケバブの背後の空間が割れたのを感じた。
同時に空間の先がどこに繋がってるのか察した。見なくても本能で察した。
後ろの空間に放り込まれれば……全てが終わるっと……
ボッシュート




