38.その『鑑定』なんなの?一体どこから情報引っ張ってるの?(side:キャロット)
ある意味、異世界なろう系一番の謎である……っというか、真面目に鑑定の仕組みを解説してるとこってあんまりみない気がががが
“キャロット”の元は“混沌”の中で偶然生まれた“ナニカ”だった。本来なら夢幻のごとく……人の夢と書いて『儚い』と書くがごとく、一夜で消えるような存在であった“ナニカ”にご主人が魂の欠片を与えて形作られた事で生まれた悪魔。そんな存在にご主人は『名前』と“深淵”の管理者としての“役目”を与えてくれた。
そこにどんな理由はあったかわからない。ただの気まぐれなのか、それとも……
真意を聞く事なく、ご主人は死んでしまった。だが……ご主人は死んでも“深淵”は残り続けた。多くの惨劇を生み出し続けたせいで、トラウマとして人々の心に残り続けた事で消える事なく残ってしまったのだ。
もしかしたらご主人はそれを見越していたのかもしれない。
自分の死後に自身の『夢』が暴走しないよう、管理する者を残すために……
今となってはもうわからないし、元々管理のために生み出された存在だ。そこに不満はない。
不満はないが……扱い方のマニュアルを用意してくれてなかった事に不満はあった。
いわばシステム管理者の助手だった者が、前任からまったく引き継ぎもなく責任者の立場になったようなものだ。
“だから私はこの“深淵”ってどういう機能持ってるかよくわかってないんだよね~まぁぶっちゃけるとご主人もどこまで理解していたのか怪しいところはあったけど………改めて聞いていい?その『鑑定』なんなの?一体どこから情報引っ張ってるの?一か月前に鑑定した『邪夢』から諸々の情報知ったのはわかったけど……その中の半分ぐらいは私ですら把握してなかった情報なんだけど」
「俺に聞かれてもなぁ……ブラッドさんも全くわからないから、そういうものと割り切る事にしてるんだ」
「ははは……もうそれでいっか」
“キャロット”の笑いにつられてか、ケバブも笑う。
“キャロット”は最初の時こそなぜ秘密が漏れたのか、『鑑定』を仕掛けられた事もあってケバブへの警戒を最大限にあげていたが……
実際に話を聞いたら、なんてことはない。自身が全く警戒していなかった間接的な『鑑定』の結果という、『創作あるある』ともいうべき笑い話に済ませていいような話だったのだ。
『鑑定』が一体何なのか不明ながらも、それは調べようがないので棚上げである。
そんなわけで“キャロット”は警戒を解いた。口調を身内に向けた砕けたものにしてるのでケバブも緊張はほぐれたようだが、笑みは少々引きつってる。
それもそうだろう。
ここは本物の“深淵”ではないが、倉庫に放り込まれている呪物が良い具合に熟成されてる事もあって本物と同じようにSAN値を削る仕様となってるのだ。
それに加えて夢を通じて生気や精気を貪る夢魔の特性も発揮されてるので生気や精気……RPG風にいえばHPとMPのスリップダメージも入り続けている。
(別に生気や精気の吸収自体止める事も出来るんだけど、私は私で目的あるからね……そのために態々ここへ呼んだわけだし)
“キャロット”は内心にやりと笑う。だが、油断はしない。ここで企みがバレて戦闘に入れば負ける可能性がある。
『鑑定』の力が完全に“キャロット”の予想を大きく上回ったチートの力とわかった以上、勇者の力も予想を大きく上回るチートの力がある可能性がある。
“キャロット”が夢魔としての力を最大限発揮できる夢の中という圧倒的有利な立場でも、無敵ではない。
相手が格下であっても負ける時は負けるのだ。
(なにせあの鬼のように強かったご主人も死ぬ時は案外あっけなかったもんね。……もしかしたら最初っから生き残るつもりなかったのかもしれないけど)
エクレアの前世が死に際に何を考えてたかはわからない。
魂での繋がりはあっても、エクレア達と違って『名前』を共有してない事もあって無意識レベルの意思疎通が出来るほどの繋がりがなかったのだ。
(それでもご主人の生まれ変わりであるエクレアをみてれば死の間際にご主人が何を思ったのか、何を願ったのかちょっとわかってきたかもね。だからこそ、今から行う事はエクレアに知られないようしないと……)
そういうわけで、“キャロット”は裏で諸々の準備を行いつつもケバブと対話を続ける事にした。
その際ケバブから驚きの提案が上がったり、アシュレからへのお願いで一喜一憂しつつも“キャロット”は対談を楽しんでいた。
そうして思う。
ケバブもブラッドと同様に信用できる。エクレアのためなら『勇者』としての責務を放棄して『神』や『教会』と戦う覚悟を持っていると……
だから……“キャロット”は数種類用意していた案の中でのC案を実行することに決めた。
丁度頃合いな事もあって“キャロット”は切り出す。
“改めて聞くけど……私と契約しない?ケバブお兄ちゃん”
「契約?……それはさっき断ったが」
ケバブは再度警戒を露わにするが、“キャロット”として予想通りだ。
だから先に契約書を……対談中こっそり作っていた契約書を取り出して渡す。
“中を読めばわかるけど契約内容はただの『使い魔契約』。契約してパスが繋がれば今後も内緒話取りやすいでしょ。これはそのためのもの”
「確かに……内容も特に不審な点はなさそうではあるが」
ケバブは疑いつつも契約書をみる。凝視にふさわしいかの如く、隅々まで調べてる。
そんな様を“キャロット”は怒るでもなく、関心するかのごとく見守っていた。
(当然だよね。なにせ最初の挨拶で態々某淫獣の真似したわけだし)
むしろ、ここで躊躇なくサインするようだったら幻滅するところだ。
あっさりサインしてもらった方が面倒なくて済むと言えば済むが、それはそれで味気なさ過ぎて面白味がない。
悩みに悩む姿をみるのもスパイスの一つ。
そうして見守る中、ケバブから魔力の流れを感じた。
恐らく『鑑定』を使ったのだろう。
もちろんそれは想定済み。『鑑定』を使われても大丈夫なように、契約内容に嘘は書いてないのだ。『裏』こそあるが、内容に嘘はない。
『裏』なだけに時間かけて調べられたら見破られそうではあるも、ケバブにはゆっくり調べる時間がない。
SAN値とHPとMPが残り少ない身ではゆっくり調べられない。
タイムリミットが迫ってるという焦りもあるだろう。
焦りは判断を鈍らせる……
全ては“キャロット”の仕込みであった。
(さて、勇者様はこの運命の選択をどうするかなかな)
時間にして一分ほど悩んだ結果、ケバブが出した答えは……
「わかった。契約しよう」
彼はそう言いながら契約書にサインを施した。
その瞬間、“キャロット”はついついこらえきれずに笑うのであった。




