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36.エクレアちゃんの気持ちが少しわかったかもしれない(side:アシュレ)

シリアスなのかギャグなのか、相変わらずわからない展開である……

 アシュレの思考は停止していた。

 時間にして秒単位か分単位かわからないが、我に返ったアシュレは即座に動く。


 ケバブの元へ駆けつけようと扉を開けるも……


 扉の先は“深淵”ではなくアトリエの居間であった。



「…………リンクを切られた!?」



 アシュレは頭でこそ理解できても、感情面では理解できなかった。

 一体なぜっと思うも答えはない。問いかけようとも、一方的にリンクを断ち切られたせいで通信も不可だ。

 ケバブに憑りつかせていた精霊を呼び戻そうとするも、異空間で隔たれてる事もあって反応なし。


「一体……何が……」


 その答えは不明。現場に居なかったアシュレでは推測でしかわからない。

 わからないからこそ思う。思ってしまう。



“自分もついていくべきだった”



 たらればの話であっても、そばに居れば不足の事態に対処できたかもしれない。

 ケバブをかばうことだってできたかもしれない。

 それに……少なくとも、何もわからず置いてけぼりには……


「ふふふ……エクレアちゃんの気持ちが少しわかったかもしれない」


 ケバブとはまだ1年程度の仲、いつでも関係を絶てる仲。

 少なくともアシュレはいずれケバブの元を離れようと思っていたが……



 逆の立場になって、初めてわかった。気付いた。


「私は……ケバブの事が」


「好きだったとか?」


「そう……かもしれない」


 アシュレはゆっくりと振り返る。くくっと笑いながら振り返ったその視線の先にいた人物に向けて……


「……驚かないんだ」


「ふふ……毎日毎日一緒にいれば気配なんてすぐにわかる。貴女はエクレアではない……“キャロット”でしょう」


「当たり。やっぱりバレちゃうか。うん、だから……その物騒なモノしまってくれない?その怨念がこもった拳で殴られるとエクレアが起きかねないから」


「わかった」


「……やけに物分かりよくない?ここは『まずは殴る。話はそれからだ』が定番なんだけど」


「物分かり良い代わりに交換条件だす」


「はいはい。元々ケバブお兄ちゃんからお願いされたしね。これで大人しく話聞いてくれるならどうぞ」


 ため息交じりに起き上がっていたエクレア?がぽいっと投げつけた袋。

 受け取ったアシュレが袋の中身を確認すると……それはいうなれば人型をしたネズミの王様のようだが、なぜか視認障害が施されていた。


 なぜ障害が起きてるかわからない……が、アシュレは本能的にそれを『視認したらあからさまにまずいもの』だと理解した。

 理由はわからずとも、アシュレ的にはそれが呪物になりうるものであれば十分だ。よってアシュレは再度封をして後生大事に抱え込む。


 ……考えようによってはこれがケバブの形見になりかねないが、彼はまだ死んだと決まったわけではない。

 そういった判断はまず話を聞いてからすると決め、乱された心を落ち着かせて改めて目の前のエクレア?……


 いや、エクレアの身体を乗っ取った悪魔に問いかける。


「OK。これで大人しく話聞く。ケバブをどうした?」


「これから野暮用があるからざっくりとだけど……SAN値直葬しちゃった」




 SAN値直葬……


 それが何を意味するかはわからないが、エクレア?の表情からしてアシュレは悟ったのである。



 ケバブの運命を……



 そして……



 目の前の悪魔の狡猾さを……

















「って、なんかすごい私を悪者扱いしてない?」


「悪魔だから悪者なのは同義。素直に認めないなら認めるまで殴るのがいいかも」


「ぷるぷる、いじめないで。わたし良い悪魔だよ」


「私も鬼じゃないし、端折らないで詳しくゲロってくれれば考える」


「わかりました。お話します。回想として、私視点で何があったかお話します」


 満足いく返事……実際はあまり満足してるわけではないが、悪魔相手にあまり欲を出すとロクな事にならないのは戒め系おとぎ話でのど定番。


 よって、アシュレはこれ以上の追求せず……思った以上に乱された心中を鎮めながら大人しく“キャロット”の話を聞くのであった。

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