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35.ケバブの……霊圧が……消え……た?(side:アシュレ)

やはり“深淵”の探索は死亡フラグだったようだ……

やむちゃしやがって……(ち~ん)

 ケバブはとにかく人が好過ぎた。


 ギルドでも不人気な依頼や報酬と難易度が釣り合ってないような訳アリ依頼を率先して受ける。

 お涙頂戴話に弱いせいで詐欺にすぐ引っかかる。

 本人はぶつくさ文句言いつつも、結局自分から貧乏くじを引いてしまうせいで実力の割に収入が少ない。

 とにかく収入が少ないので見かねたクラヴァとレヴァニが別行動で割りのいい依頼を受けたりして補完してたぐらいだ。


 これで馬鹿だったら救いようなかったが、ケバブは馬鹿ではない。むしろ優秀な部類だ。

 詐欺に関しても1度目や2度目は通用しても3度目は通用しない。

 

 普段はボンクラでも何らかのスイッチが入れば、恐ろしいまでの勘の鋭さを発揮する。

 何気ない会話を一言一句正確に思い出すどころか、誰も気づかないようなヒントや矛盾点を目ざとく見つけ出して追求にかかる。

 その様は昼だと無能だが夜になると有能になるという、倭国由来の魔物『昼行燈』だ。



 そんなわけで、スイッチが入ったケバブは隙がない。

 ケバブに仕事を押し付けて自分は成果だけもらおうと企む連中は後ほどケバフ自身の手によって手痛いしっぺ返しを食らってざまぁされるし、詐欺に関しても同様。

 正攻法もあればどこからそんな発想が出てくるんだっと言わんばかりな裏技でもって詐欺の証拠をつかんで制裁を与える。

 私利私欲なら容赦ない制裁だが、なんらかの事情があった場合は軽い制裁で済まし、後に根本の原因排除に向けて動くなど根っこのお人よしな部分はそのまま。


 何があろうと彼は正義の味方であり、弱者の味方であった。



 ケバブが15歳でありながら冒険者ランクBまで達したのは何も強さだけでない。


『弱きを助け強きをくじく』


 その信念の元にギルドが抱え込んでいる厄介事を率先して引き受け、解決へと導く信頼面の方が強かった故なのだ。


「……ケバブが私の過去を知ったら、どうなるかなんて火を見るより明らか」


 ただ、今のところケバブはアシュレの過去を知ってるようなそぶりがない。

 ケバブの性格からみてアシュレの過去を知ればまず黙ってない。エクレアのような知り合って間もない赤の他人の事情に首を突っ込むぐらいだから、1年もの付き合いがあるアシュレの事情に首を突っ込まないわけがない。



 突っ込まないのは……



「…………そう考えると、あの朴念仁にちょっと腹立ってきたかも」


 もちろんそれはただの八つ当たりだ。エクレアに非なんて一切ないので頭に浮かんだ黒い感情を即座に追い出し、改めてエクレアを見つめる。




 アシュレからみたエクレアは異常だった。初めて会った時からその異常性を発揮してたが、過去を聞いたら想像の斜め上を行くがごとく凄まじかった。


 4年前……8歳の時にバジリスクに噛まれて九死に一生を得たが、その代償として師を失う。さらに自身も5000万という本来なら背負う必要性がない借金を背負ったのだ。

 この時点ですでに波乱万丈だったが、それはまだ序の口。


 錬金術を使うために魔力をあげる薬を開発し、試しにっと飲んだら大失敗。

 再度死にかけるも、奇跡的に生き残って魔力を増やすどころかおまけ的に『魔人化』という身体能力を凄まじく上がる能力を得た。


 師匠が研究していたという『味噌』と『醤油』を完成させ、さらに素人な村人でも生産できるよう量産体形まで整えて流通に乗せた。


 ゴブリンに攫われた挙句、巣穴の中で拷問まがいな目にあわされたというのに、精神が壊れることなく3日後にはケロっと復帰した。


 エクレアの母ルリージュが『霊薬(エリクサー)』ですら癒せない先天性な不治の病に侵されてる事を知り、治す薬を開発しようとした。

 その薬は複数の人間の命を代償にして精製するものであり、副作用として人間を辞めるといった本末転倒になりかねないブツだった事が判明。



「そんな代物なのに、この義妹はお母さんに喜んでもらえるっと思ってた辺り……異常過ぎ」


 ちなみにその一件は母本人から特大のお仕置きを食らったそうだ。

 エクレアも最初は喜びから来る抱擁と思ってたそうだが……途中でそれが手加減なしのベアバックだと判明。

 あまりの力と剣幕に命の危機を感じたエクレアは泣き叫ぶも、ルリージュは止めてくれず……


 全身の骨をバキボキにへし折られていくつかの臓器を損傷。3日ほど生死の境をさまよう重症を負うほどの羽目になった。



 そんな目にあったというのに当の本人は



“いや~~昔からお母さんに抱き着かれた時はよく死にそうな目にあってたけど、本当に死にかけるだなんて思ってもなかったな~”



 なんて笑い話にする辺り、あまり反省していなかった。

 だがお母さんの望みは無理な延命ではなく自然死を……一日一日を精一杯生きて天寿を全するのがお母さんの望みという事はしっかり受け入れたらしい。

 他者の命を代償にする薬の開発は中止にし、抗生剤や精神安定剤といった完治ではなく療養のための薬に切り替えたのだ。

 逆にいえば母が望めばそのまま開発してしまうほどに論理間ずれまくっているのだが……


 そんなわけで、エクレアの思想や行動はとにかく異常だ。


 まぁモノホンの悪魔に憑りつかれてるからっといえば納得はできそうであるが、それでも話を聞いているうち彼女の暴走には一定の法則があるのに気づいた。


 彼女の暴走は紐解けば大半が身内関係。特に身近な者の死に関しては巌著だった。

 恐らく彼女は孤独を恐れているのだろう。そのためなら、平気で人の道を踏み外せるぐらいに……


 家族や身内との別れを恐れているのだろう。

 


「実の母の死をなんとも思わない。父なんてもう最初からいない者として扱ってる。父と愛人の子供である義妹も義姉の存在なんて知らない方がいいっとあえて距離を取っている私とはまるで正反対……どっちが悪魔かわかったもんじゃないかも」


 アシュレは目の前のエクレアを見つめる。

 ダンジョンの試験の翌日からアシュレはエクレアの押し掛け弟子となった。

 最初はエクレアの師であるサトーマイの話を聞くためであったが、話すうちにエクレア自身に興味が出た。

 内に眠る力の根源に興味がでた。


 その力に触れればもう取返しが付かない。


 後戻りはできない。


 それでも……



「ふふふ……今回の機会はケバブに譲る。私も空気を読む時はある」


 そうして思いにふけっていると、ケバブに憑りつかせていた精霊から緊急連絡が入ってくる。


 場所が場所なだけに交信は不安定だが、尋常ではない慌てようだ。

 これは何かあったと思い、ケバブの様子を探ってみれば……


「これは……精神の乱れ!!“闇”に引っ張られてる!!?」



 アシュレは急ぎ精霊に指令を送る。

 万が一のために組んでいた緊急脱出用の術式を起動させるも……一歩遅かったようだ



「ケバブの……霊圧が……消え……た?」

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